ep79 傲然な中学生
中原と共に昴も唯華の向かいの席に座る。見た目だけだと信じられないが、傲然とした態度や中原のやり取りから吹雪だというのは理解できる。しかし、目の前にいるまだ中学生ぐらいにしか見えない。
「ジロジロみてなんだ、日向昴」
昴の視線が鬱陶しかったのか唯華は昴を睨みながら言う。子供とは思えない眼力に昴はたじろぎ、視線を逸らす。
「おお、山吹。あんまり脅すな」
「人聞き悪い事言わないでくれない、中原さん。私がいつ脅したって?」
「お前の眼力が強いから、初めてのやつはビビるんだよ」
「へぇ、中原さんもビビったんだ。初対面の時私まだ小学生だったと思うけど」
そんな昴の様子は知ったことではないと言うように唯華は中原と軽快に話している。しかし、瞳は昴を捉えており、得体の知れない恐怖を感じる。
「とりあえず、自己紹介しておこうか」
中原とのやり取りを終えた唯華は真っ直ぐに昴の瞳を見る。タブレットを机の上に置き、足を組むと唯華は無表情のままに告げる。
「一応、便利屋といってもほとんど情報屋として扱われているんだが、吹雪という屋号で商売をしている」
そこで一度言葉を切る。そして少し考えた後、再び口を開いた。
「まぁ、しばらくここにいる事になるから名前はバレるか。山吹唯華。一応中3だが、子供として扱うのはやめろよ?」
傲然とした雰囲気は隠さずに唯華は伝える。大人さえ怯えさせ、警察を足で使う、そんな中学生がいてたまるかと昴は思った。しかし、中原が否定しないという事は事実なのだろう。
「わかりました。こちらからもお聞きしたいです。何故私がサーカスの創始者だと知っているのですか? そして、私を刑務所から出した理由は?」
昴は得体の知れない恐怖心を見ないふりをする。そして、唯華の目を真っ直ぐに見つめ返して聞きたかった事を尋ねた。ごくりと返事を待つ間に唾を飲み込む。
「なんで知ってたかについては、私も能力者だ。詳細は伝える気がないが、まぁ情報収集に特化していると思ってくれていい。この能力で金を稼いでいるしな」
何ともないことのように唯華は言う。しかし、昴は信じられなかった。能力を使い暗躍できると言う事は、島の上層部話にバレていない、いわば野良の能力者なのだろう。それがこの島の生まれか、自分の足で訪れたかまではわからないが、確実に上層部にバレていたら能力を堂々と使って商売をしようとは思えない。
昴自身も野良の能力者だ。その為、サーカスを創設することができた。それでも上層部の影には怯えている。なのに唯華は島の上層部の犬でもある特対の、しかも部長の前で当たり前のように能力者と名乗った。それが昴は不思議ではならない。
昴の困惑がわかったのか、唯華は鼻で笑う。昴の隣でお茶を飲み始めた中原が小さく息を吐くのを感じた。
「中原さんは特対だけど、話が通じる。能力者は全員悪だっていう差別主義の前任者とは違うからな。私のと関係はいわば、共犯か?」
「……たまに、俺はお前の手下になった気分になる事はあるがな」
唯華の言葉に中原は頭を抑えながら言う。その様子から普段から唯華に振り回されているのだろうと察することができた。
深く聞かない方がいいだろうと、今後自分の身にも起こるかも知れない不安を一度拭い、昴は唯華にもう一度尋ねた。
「私を釈放してくださった理由は? 私に何を望んでいるのですか」
「へぇ、話が早いな。私が君に望んでるのは1つ。"サーカス"に合流するな、それだけだ」
「ーーっ!?」
唯華の言葉に思わず昴は立ち上がる。彼にしては珍しく怒りの感情がはっきりと表に出た。そして大声で叫ぶ。
「今の"サーカス"の状況を知ってそれを言っているのですか!? 今まではなんとか食い止めてきました。しかし、早く合流しないと暴走するものが現れるかも知れないんですよ!?」
悲痛な叫びだった。それは刑務所に入ってから昴がずっと考えていたことだ。自分の正体すら知っていた情報通である彼女が知らないわけがない。自分の作った居場所が崩壊するのを見ているだけなんて、そんな事はできない。
両手の拳を握る。強い力で握った為か、爪が皮膚に食い込むが昴は気にしなかった。
「まだ間に合います。私が確実に暴走しないように止めます。だから、一般人への被害が出るまでにーー」
「"サーカス"はデカくなりすぎた」
昴の悲痛の叫びを唯華は途中で遮った。
そして足を組み替え、膝に右肘を乗せると右の手の甲に顎を乗せて、昴を見る。
「最初の頃は見逃してたさ、だがな大きくなりすぎ、すでに君は制御できてないじゃないか。断言してやる。戻っても暴走は止められない。また罪を着せられて今度は能力者用の刑務所に入ることになるだろうよ」
「おい、山吹。流石に言い過ぎ……」
「中原さんは黙ってて。あなたの依頼した内容にも関係がある。この島の平和を恒常的に守るなら、一度"サーカス"には内部分裂して、小さくなってもらわないといけない」
昴の様子に中原が見ていられなくなったのか助け舟を出そうとするも、唯華に両断される。依頼をしている手前、中原は言い返せなくなったようで、昴に一度視線を向けてから椅子に座り直し小さくなる。
「君の才能は認めている。だから、過激派の潰し合いに巻き込まさせるわけにはいかない。1年ぐらいはここで生活してもらう。ここの責任者にはすでに許可を得て、君の部屋もある」
「ーーっ、いくらなんでも勝手がすぎませんか? 私はあなたの駒ではないです」
あまりにも一方的な言い方に昴は唯華を睨みながら言う。しかし、唯華は気にしない。ニヤリと口角を歪ませると当たり前の事のように言い放つ。
「何を言っている? この世にあるもの全ては駒だ。自覚があろうとなかろうと、誰かは誰かの駒になっている」
バカにするように言うと顔の前で両手を組む。
「それに私は提案しているんじゃない、指示しているんだ。君が拒否した場合は、中原さんが君を"サーカス"の創始者として捕まえる予定だ」
唯華がチラリと中原に視線を送る。昴も横の中原を見る。彼は申し訳なさそうにしながらも、事実を口にした。
「悪いな、そう言う事だ。そもそも"サーカス"の創始者の情報を聞いて、こっちは捕まえようとした。それを阻止したのがこいつだ」
中原は顔を歪めながら言った。
「牢から出た時点で、すでに山吹はお前の選択肢をなくしていたんだよ」
その言葉をしばらく昴は受け入れることができなかった。
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次回は、明日20時に更新予定です。
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