ep78 昴の困惑
日向昴はいまだに困惑していた。
1年ほど前にある強盗事件があった。幸い怪我人は出なかったが、犯人の背格好が昴と同じだった。そして犯人は権力のある知り合いがいたらしい。偶然街を歩いていた昴は嵌められたのだ。
「待ってください、私は全く身に覚えがありません。他に犯人がいるのでは?」
「いいや、お前が犯人だ。そう決まっている」
弁護士も取り調べをする警察も犯人側だった。違うとどれだけ言っても信じてもらえず、気づいたら刑務所にいた。
"サーカス"の中で過激派が出てきて必死に抑えている最中の出来事だった。能力者同士、迫害されているもの同士抱える悩みは同じものがある。少しでも生きやすくしたいそんな思いから少数で始めた。徐々に仲間が増えるたびに様々な考えが入ってきた。
「上層部と戦うって言ったって何も出来てないじゃないか! 船でも乗っ取って島から出る方法を考えるべきだ!」
「能力だけじゃない、武器を持って上層部に乗り込もう、脅せば少しは変わるかもしれない!」
「……それでは一般人にも被害が出ます。そんな事をしたら本物のテロリストです。能力者だと差別されているそれを改善するのが、悪にならずに自由を手に入れる唯一の方法です」
それからというとの過激な意見を言う仲間を必死に説得する日々が続いていた。最初は賛同して参加してくれた人々も過激派の考えに惹かれる者さえ出てきていた。"サーカス"はいつ爆発してもおかしくない坩堝になっていた。
「団長、これ以上大きくしたら、きっと抑えきれなくなります。新たな仲間を入れるのは控えるべきだと思います」
仲間のゴスロリ姿の女が進言する。昴もそれが正解だとわかっていた。しかし、同じ考えの同志かもしれない。危険思想を持ち合わせてない人を突き放す事を昴は出来ない。
「しかし、本当に私達と同じ考えかもしれないです」
「口ではなんとでも言えますわ! 最近入ってきた方々は全て口ではそう言って入ってすぐに過激派と合流したではないですか! これ以上抑えきれないと本当に特対が黙ってくれなくなるかもしれないのですよ!?」
「わかっている。だが……」
そんな事を繰り返し、本当に今後について考えないといけない。そう思っていた時に冤罪で刑務所に入った。
"サーカス"が内部分裂していないか心配だったが、不幸中の幸いな事に昴が能力者だと警察にバレていなかった。心配しながら模範囚として少しでも早く出ようと思った矢先だった。
「冤罪が証明された、出ろ」
その言葉とともに刑務所から出された。迎えにスーツを着た中年の男性が疲れたように昴を見た。
「日向昴だな。悪いが、外で話せない話がある。車に乗ってくれ」
直感でこの人が冤罪を晴らしてくれた刑事だと思った。昴は頭を下げてその人の車に乗った。
中原と名乗った男は疲れたようにため息を吐き、口を開いた。
「吹雪って知ってるか?」
「便利屋の? 噂だけなら聞いたことがあります」
「あいつとツテがあってな。情報提供があった」
硬い表情をしながら、ハンドルを強く握った。エンジンをかけ、車を出発させる。タイミングがまるで昴を逃さないようにしているように感じた。そしてそれが間違いじゃないことが中原の次の発言で確定した。
「お前が"サーカス"の創始者らしいな。俺は特対の部長をしている」
「ーーっ!?」
昴は時が止まったように感じた。特対の刑事が運転している車に乗っている。恐怖すら感じる。
「安心しろ。捕まえにきたわけじゃない。お前を出したのはまぁ、……その吹雪との司法取引だ」
「……司法取引ですか?」
疲れたように中原は頷く。車はどこかに向かっている様子だが、目的地はわからない。少しでも情報を得ようと神経を中原に集中させる。
「強盗事件の犯人と裏で繋がっていた連中全ての情報と引き換えにお前の釈放を申し出てきた」
「私の釈放をですか……何故? あったこともないですよ」
もっともな昴の疑問に中原は苦虫を噛み潰したような顔をする。ハンドルを握る手に力が入っていた。
「俺もそれは知らん。多分、利用価値を見出したんだろうな。あいつは自分さえも駒として動くからな」
「……もしかして今、その吹雪のいる場所に向かっているのですか?」
「……はぁ、そうだ。連れてこいとのお達だ。そこで理由を教えてくれるらしい」
完璧に警察を足で使っている。吹雪という都市伝説に昴は末恐ろしいものを感じる。自分さえも駒と扱えるとはどんな危険な人物なのか、とんでもない人間に仮を作ってしまった事に固唾を飲む。
しばらく車内を静寂が支配した。車は目的地についたようで、住宅街でも大きな屋敷の車庫に車を停める。
「降りろ、行くぞ」
中原の指示に従い、昴も車から降りる。得体の知れない人物に会うことへの恐怖もあるが助けてもらったお礼もせずに逃げるのは違うと思ったからだ。
屋敷の玄関から靴を脱いで玄関を通るとすぐにロビーの様な空間に出た。
「いらっしゃい、中原さん。客間に案内します」
優しそうな笑顔を携えた女性が中原に声をかける。中原とは知り合いの様で挨拶から気安さを感じた。
「悪いな」
「急に呼び出した、ゆいが悪いんですよ」
クスクスと笑いながら女性は昴を見る。そしと、丁寧に頭を下げた。
「日向昴さんですね。私はこの屋敷の責任者みたいな事をしてます、駿河美月です。よろしくお願いします」
優しい笑顔に緊張が少しほぐれる。
「えっと、こちらこそよろしくお願いします?」
「そうよね、状況わからないわよね」
美月はそう笑いながら、昴達の前を進み、客間まで案内する。そしてロビーを超えた先にある廊下を少し進んだところで、1つの扉の前で立ち止まる。
ノックをして扉を開ける。そして2人に入る様に手で中を示した。
中原に続いて室内に入る。すぐに扉が閉まった。中には1人の少女が上座に座りながらタブレットをいじっている。
見るからに成人していない子どもだ。しかし室内にいる誰よりも傲然としている。
想像していた吹雪の姿と違いすぎて、昴は目を疑った。恐ろしいと思っていた人物が、子供?しかも女?と困惑が止まらない。
彼女の座る椅子の前に設置されている机には美月が先に用意していたのかコップが3つとお茶の入ったピッチャーが置いてあった。
「来たか」
扉が閉まったのを確認すると吹雪と思われる少女が口を開く。
「とりあえず、座れば?」
「おい、山吹!! 呼び出しといてその態度はなんだ」
「うるさいよ、中原さん。誰のおかげで膿出し出来たと思ってんの?」
大胆不敵に中原を見ながら吹雪ーー山吹唯華は笑った。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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