ep73 駿河家の人々
駿河家に着くと、蒼は勝手知った実家のように玄関から入り、エントランスのようになっているリビングに入る。
「ただいまー」
「ただいまです!」
「ただいまなのです!」
蒼に続いて双子も楽しそうに帰宅の挨拶をする。
「元気な声がすると思いましたら、蒼も来ていましたの?」
「あっ、ひぃーさん! こんちはー」
ロビーに置かれたソファの1つに座っていた盲目の女性、鬼頭姫に蒼は元気に挨拶をする。それに続き双子も真似するように姫の近くに近づき言う。
「ちはー」
「ちはー」
「……本当に双子の教育に良くないですわ」
その様子に姫はため息をつく。そんな姫の様子を見ていた蒼は笑いながら姫に近づく。
「双子の教育してるのみぃーさんで、ひぃさんじゃないじゃん」
「だとしても、私も気をつけているのですよ?」
「その変な喋り方が?」
「誰の喋り方が変ですって?」
姫が蒼の方を見ながら青筋を立てる。その反応が面白くて揶揄ってんだよなーと蒼は思いながらも何も言わずに笑う。そういえば前に唯華が「姫は蒼のおもちゃなの?」と言っていたのを思い出した。蒼自身はそんなこと思ったことはないが、確かに客観的に見ればそうだなと思う。
「騒がしいと思ったら、蒼来てたんだ」
「あっ、つっきー!」
蒼達が騒いでいると1階の自室から女子大学生の間宮月陽が出てきた。そして蒼を見つけると、声をかけてくる。
蒼は姫から離れて、月陽に近づく。そして笑顔でお誘いを行う。
「今日、ひぃさんやすーさんと一緒にトランプ大会やるんだけど、つっきーもやる?」
「ごめん、今日中に読んじゃいたい本があるから、またの機会に。今日は悪魔が来ないって言ってたからさ」
「ゆいの事悪魔っていうのつっきーぐらいだよな」
「ゆいは人使いが荒いのよ。突然電話してきたと思ったら座標指定して、やれ人を運べだ、物を運べだ。私を便利な運び屋だと思ってるのよ」
その言葉に蒼は何もいえなくなった。笑顔の表情が固まる。月陽の能力はテレポートだ。そして、唯華がかなり月陽の能力を当てにしてるかを知っていた。
なんともいえないので、蒼は笑って誤魔化すことにした。
「ゆい、悪魔なの?」
「悪いやつ? 怖いやつ?」
月陽の言葉に反応した双子が問いかける。また姫が「教育が……」と呟いていたが蒼はスルーした。月陽は双子がいた事に驚いて若干表情が引き攣る。そして、2人の前で屈んで視線を合わせる。
「本当に悪魔と思ってるわけじゃないのよ? 人使いが荒いなーって思う事があるだけで、ゆいは悪でも怖いやつでもないからね」
若干引き攣った笑顔で双子に話す。双子は納得したのか頷く。
「ゆいは優しいよ!」
「時々壊れるし!」
「あはは」
双子の発言に壊れる原因の1つである事を自覚している蒼は爆笑する。月陽は話が逸れたことに安心してさっさと自室に引き篭もった。その様子にさらに蒼の笑いが大きくなる。
「蒼さん、もう来ていたんですね」
2階から声が聞こえて上を見ると、吹き抜けの柵に肘をつくようにして下を見ている男ーー日向昴がいた。その顔を見て蒼はテンション高く手を振る。
「すーさん、こんにちは! 約束通りトランプ大会開催しに来たよ! 参加者はすーさんとひぃさん、双子以外にもいる?」
「美月さんと大地君、あと八楽君が参加するそうですよ」
「やっくんも参加するの!? めっずらしぃ。まぁ、すーさんに懐いてるもんね!」
笠田大地と花巻八楽も共にこの駿河家の住人だ。大地が小4、八楽が高1。八楽は少し引っ込み思案なところがあり、どちらかというと女性が強いこの家で肩身の狭い思いをしていると唯華が分析しているのを以前蒼は聞いていた。
なので大人の昴にかなり懐いている。
しかし、昴は一時的にこの家に身を寄せているだけで、帰る場所がある。だからいつか別れが確実にある事が決まっている。唯華からあまり深入りしない方がいいと以前聞いたが、話してみると楽しくて、蒼は一線を引きながらもそこそこ懐いていた。
それに、唯華や圭哉程ではないが美月の事も信頼しており、美月が信じているなら自分も信じてもいいとそう思えた。
蒼はあの転落事件から、対人恐怖症と共に人に依存しないと生きれなくなっていた。まともなフリをする為に帽子を被り、一人称を俺に変えた。そして信頼するかどうかその判断を圭哉と唯華が信頼しているからそんな理由で決めており、自分できちんと判断ができなくなっている。
歪んでいると蒼自身も自覚している。しかし、普通のフリをしないと生きづらい世の中だ。ストレスが溜まりすぎると、自傷行為を繰り返す。そんな日々を送っていた。その際に唯華に紹介されたのがこの駿河家だった。
最初は警戒した。でも唯華と普通に話をし、唯華が素を見せているのを見て、この家の人は信用していいと思った。善悪の天秤を全て圭哉と唯華の2人に丸投げして、そして歪な形で蒼は今の生活を謳歌している。綱渡りをしている自覚もあった。でも、この生き方以外、もう蒼は選べないのだ。
依存することにしてからは、よく笑えるようにもなったし、人と話すのも楽しい。時々悪夢を見る事もあるが、自分は普通だと思える。
だからこそ、理由までは聞いていないが、昴には一線を引き続け、昴自身もそれを把握した上で表面上は普通に接してくれている。
この2人も歪な関係を築いていた。
「トランプ大会はいいけど、先にご飯だからね?」
それまでキッチンで買った物の片付けをしていたと思われる美月がロビーへ顔を出す。
「はーい」
といろんな場所から了承の返事が響いた。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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