ep72 駿河家へ行こう!
暦は5月。もうじきゴールデンウィークに入ろうとする昼過ぎの学校。そこでは気配を消し、ほとんどを保健室登校で済ませていた蒼は、授業終了のチャイムを聞いて、保健室の机に突っ伏した。
「もう諦めたけど、本当に毎日ここに通ってるね、蒼」
「そもそも御影中学に通う気なかったのに、校長に頭を下げられたんだよ? 全国テストで上位を取る条件で通ってるんだし、ここを本拠地にしても文句はないはず!」
「それで、カーテンで仕切れるって条件出したせいで、ベッドが1つなくなったんだけどね」
養護教諭の橘菜々美のため息がカーテン越しに聞こえてくる。小学5年の途中から蒼がこの保健室に入り浸っている為、養護教諭としては1年程の付き合いだ。しかし菜々美は圭哉の母朱莉の親友であり、交友はかなり長い。その為、ブレスレットと帽子2つの精神安定剤がなくても普通に話せる数少ない知り合いでもある。
蒼は伸びをすると、少し開けていたカーテンを閉める。そして、持ってきていた私服に着替える。制服を畳み、持ってきていた鞄に入れる。帽子を取り出して、髪を帽子の中に入れながら被る。
「ななさん、今誰もいない?」
「放課後すぐに来る生徒はそんなにいないよ」
カーテンの外に誰もいない事を確認し、蒼はカーテンを開けて外に出る。
「毎回思うけど、本当にその格好すると少年にしか見えないよね」
「こうすると勝手に男って勘違いしてくるから、喧嘩は楽しいよ。まぁ、ガキだから手加減したって言うやつもいるからムカつくけど」
「……ほんとに喧嘩好きだねぇ」
「喧嘩っていうか強いやつが好き。昔っから天才だなんだ言われてさ、俺は普通なのに……。だから強いやつと喧嘩でも勉強でもスポーツでもなんでもいい。互角に戦って、俺は天才じゃないって証明したいだけだ」
蒼は寂しさを宿した瞳でそういうと、ため息をついた。
「ゆいが本気で喧嘩買ってくれたらいいんだけど、いっつも逃げられるんだよなぁ」
「ゆいって蒼の従姉妹だったか?」
「そっ、今流星学園高等部の1年だよ。ゆいは鏡合わせの俺の3年後の姿な気がするんだよな」
「蒼の3年後って、なんか想像するだけで怖いな」
「ななさん、ひでぇー」
蒼はケラケラと笑う。しばらく菜々美と話をしてから、校舎を後にする。蒼は保健室登校を決めてから、昇降口に行かずに直接保健室に来ている。その為、外履きも保健室横の簡易の靴置きに置いている。いつも通り、保健室から出ると、部活動の生徒や帰宅する生徒に会わないように裏門から学校を後にした。
♢♢♢♢
蒼は学校を出ると駿河家に向かう。いつもの通り慣れた道をしばらく歩いていると見慣れた後ろ姿を見つける。口角を上げて、蒼はその後ろ姿に向かい走りながら声をかける。
「おーい、みぃさんに双子!!」
3人が振り返るのを確認し、蒼は両手をブンブンと振る。
「蒼?」
「蒼だー」
「こんにちはー」
駿河美月は驚いたように振り返ると蒼の名前を呼ぶ。双子の姉妹、神楽千智と神楽美智の2人はニコニコと笑いながら美月の手を離し、蒼の元に駆け寄った。
「双子ってまたまとめたー」
「まとめたー」
蒼の周りを回りながら双子は笑いながらいう。
「悪かったって、ちさにみさ」
「もー、蒼とゆいだけなのに!」
「私達を完璧に見分けられるの!」
楽しそうに言う、赤い髪留めをつけた千智とピンクの髪留めをつけた美智。顔も身長も髪の長さでさえそっくりな一卵性双生児である2人はいつも髪飾りでわかるようにしているが、たまに2人のイタズラで髪飾りの色を入れ替えている事があるのだ。
それをしても蒼と唯華は基本的に2人を見分ける事が可能でほぼ確実に入れ替わっていてもわかっている。
しかし2人とも違う事を指摘するのをめんどくさがり、だいたい双子とひとまとめに呼んでいる。
双子はそれが気に入らないのでいつも文句を言う。ちなみに1番一緒にいる美月の見分けられる確率は五分五分だ。
「えっ、もしかしてまた入れ替えていたの?」
「美月、今気づいた!」
「今日はずっと入れ替わってたよ!」
驚いた美月に笑いながら双子は答える。そして、髪飾りをお互いに入れ替える。その様子を蒼は笑いながら見ている。
「みぃさん、今日泊まっていっていい?」
「あれ? 今日は幼馴染の家じゃないの?」
「ひぃさんやすーさんとトランプゲームやる約束しててさ」
「姫だけじゃなくて、昴くんとも? いつの間に仲良くなったの」
姫も昴もどちらも駿河家ーー通称孤児院の住人だ。唯華と駿河姉妹が協力して、行き場を失った能力者や最近は姿をくらましたい研究者などを匿っている。蒼は能力者ではないが、従姉妹の山吹唯華経由で関わり、今では居候先の1つとして長く入り浸っている。
師崎家と駿河家この2つの住人は蒼がお守りをなくても自然体で会話が出来る大切な居場所だった。
「すーさんとはゆいの悪口大会で盛り上がってさ」
蒼は笑いながら美月に経緯を伝える。美月は呆れたような表情になるも何も言わない。
そして、少しすると目的の駿河家に到着した。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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