ep71 自覚のある夢
これは夢だと椎名蒼は自覚する。
まだ小学1年生の頃、幼馴染に引きずられて学校に行くために商店街の前を通る。
「よぉ、蒼。今日も無表情だな。圭哉もいつもご苦労様」
「あっ、おっちゃん、おはよう。ほら蒼も挨拶しろよ」
「おはようございます」
店主に元気よく挨拶する一つ年上の幼馴染師崎圭哉。つられて蒼も無感情の目を八百屋の店主に向けて頭を下げる。声にも感情はこもってない。そして持っていた本に再度目線を移して、続きを読む。
その様子に圭哉はため息をつき、店主は笑う。
「あいっかわらずだな、蒼は。隆也も毎日大変だな」
「もう慣れたよ。引きずらないと学校に行かないんだもん」
圭哉や店主に別れを告げ、御影小学校へ向かう。そして1年の教室に蒼を押し込めると自分の教室に向かった。
そして映像が波打つ。次は小学4年生の頃の記憶だ。
「蒼! おはよう!」
「静香、おはよっ」
勢いよく抱きついてきた親友ーー田面静香に笑顔で返事をする。身長は伸びず、小1の時とほとんど変わらない。しかし自分よりも身長の高い静かに勢いよく抱きついても体幹がいい為か、ふらつくこともない。
「本当に今年も蒼と同じクラスで良かった。またいじめっ子の沙羅ちゃんも同じクラスだったから……」
「大丈夫だよ、静香。何があっても私が守るからさ」
お揃いのブレスレットを見せ合って楽しそうに2人は笑う。
そんな幸せな光景が過去にあったことを蒼は思い出した。一生続けばいいと思った幸せな時間。圭哉と静香、この2人のおかげでこの4年間で感情というものが芽生えた。楽しいや嬉しい、幸せだそんな感情を知ることが出来た。本当に自分にとっての幸せな瞬間だった。
また場面が変わる。夜の商店街を蒼は全力で走っていた。夢から覚めろ。その光景に変わった瞬間、蒼は祈った。しかし夢から覚めることはない。そのまま夢は続く。
手に握りしめた手紙は強く握りしめすぎてぐしゃぐしゃになっていた。お願い、間に合ってと夢の中の蒼は必死に走る。
そして、手紙で指示された場所に辿り着く。3階建てのビルで屋上への鍵が壊れており、誰でも入れる様になっていると有名だ。
上を見上げると、人影が見えた。すぐに階段を登ろうと入り口に駆け寄った瞬間に、ガシャンと何かが外れる音がした。そして少し遅れて何かが落ちてくる音がする。振り向くと近くに柵が落ちていた。驚いて上を見ると親友が屋上から落ちてきている。
「ーーっ」
息が止まった。慌てて、真下に駆け寄ろうとする。その瞬間、目が合ったと思った。そして静香は笑った。
「ありがとう」
そう聞こえた気がした瞬間に、ドンっと音がして地面には静香が倒れ込んでいる。
「あーあ、あんたが現れたから手を振ろうとして壊れてる柵に持たれて落ちたのよ。あんたが殺した様なものね」
後ろから沙羅の声が聞こえた。しかし、視線を静香から動かすことが出来ない。私がコロシタ。その言葉が頭の中で反響する。震える手で携帯を取り出し、119番に連絡する。そして、状況を説明して電源を切る。
震える手で静香の手を振れる。お揃いのブレスレットが鈍く光る。
「嘘だよね……静香」
蒼の泣きそうな声が狭い路地裏にこだました。どこからか救急車のサイレンの音が聞こえる。
そこで唐突に夢は醒めた。
♢♢♢♢
「……ゆ、夢?」
全身に汗をかいた状態で蒼はベッドから飛び起きた。そしめ周りを見回す。
そして自分がいる場所が居候先の一つである幼馴染の家である事を確認する。右腕につけている、夢で出てきたブレスレットを抑え、蒼は震える。
「大丈夫、静香はまだ死んでいない。生きてる。だから大丈夫……」
自分に言い聞かせるるように言う。ビルから落ちた静香はなんとか一命を取り留めた。しかし、今も意識が戻らずに植物状態だ。あの場に自分が行かなければ静香はビルから落ちることはなかったかもしれない。蒼はいつも夢を見るとその考えに支配される。
その時、外から扉をノックする音が聞こえた。
「蒼、起きてるか? そろそろ朝食できるって母さんが」
外から聞こえてくる幼馴染の声を聞き、思考が徐々に現実に戻ってくる。
「わかった! 行くって朱莉さんに伝えておいて!」
扉越しにそう伝え、蒼は机の上に置いてあるゴムで背中まで伸びている髪を首の後ろで一つに束ねる。そして服を着替える。着替え終わると机に置いてあった帽子に一度触れて気合いを入れる。そしてリビングに向かった。
「おはよーございます!」
リビングに入ると蒼は努めて元気な声を出す。圭哉の母親である師崎朱莉がその様子を見て微笑む。
「今日はパンだけど大丈夫? パンはスーパーで買ったやつね」
「大丈夫! ありがとう」
蒼はあの出来事から対人恐怖症になり、知らない人が作った食べ物を食べれなくなっていた。お店で売ってる手作りじゃない機械で量産されているものか、信頼している知り合いが作ったもの、若しくは自分で作ったものしか食べれない。それを知っている朱莉はいつも蒼が止まると気にかけてくれているのだ。
そして朝食を食べ終え、蒼は机に突っ伏す。
「あー学校行きたくない」
「俺は部活あるから行きたいけどな」
「バカ哉は勉強もっと頑張るべきだと思うよ」
「自分が頭いいからって!!」
「それは俺に勉強教えてもらってるやつが言う台詞じゃなくねぇ?」
蒼と圭哉のそんなやりとりを朱莉はクスクス笑いながら見る。
「蒼ちゃん、今日はどうする?」
「んー、今日はみぃさんに用あるから、そっちで泊まる」
「わかったわ。またうちに泊まるときは連絡してね」
優しい朱莉の声に蒼はニカっと笑った。そして、イヤイヤながらも圭哉と一緒に御影中学校へ向かうのだった。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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