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ep64 説教の始まりですか?

 時間は少し巻き戻る。

 詩織達がお役目に移動するのを当夜達は見送った。仲野は後から到着した特対部の署員に連れられてその場を後にした。仲野は気絶しており、スムーズに物置から運び出されていた。

 これで今度こそ事件は解決だなと当夜達も帰るかと話していると中原に呼び止められる。

 振り返るとそこには般若の様な顔をした中原がいた。その後ろにはなんとも言えない表情をしている風見がいる。

 嫌な予感がして、当夜は数は後ろに下がった。しかし、中原がその分前に歩を進める。


「帰りはしっかりと風見に送らせるから安心しろ」


 怖いぐらいに満面の笑みを浮かべた中原に当夜は当然として翼ですら何も言えなかった。

 そして中原による子ども達への説教が始まる。


「何事もなかったから良かったが、子どもが誘拐事件の最前線に自ら突撃しようとするな!」


 至極もっともな中原は言うが、翼がすぐに言葉を返す。


「吹雪って名乗る人からの情報提供があったので危険は少ないと判断できました。タイムリミットもあったんですよ。それにあのタイミングで突撃したからこそしーちゃんは無傷で救出できました。貴方達の到着を待ってたら、しーちゃんは仲野に殴られていたんですよ!?」


 吹雪という固有名詞を聞き、中原の眉が微かに動く。そして苦虫を噛み潰したように顔を歪める。しかしすぐに真顔に戻る。


「それは結果論だ。仲野が銃をもう一丁持っていたら? 自分だけじゃねぇ、人質すらも危険な目に遭わせる可能性があった」


 中原の言葉を聞き、当夜はハッとした。吹雪からの情報で銃に実弾はないと思い込んでいたが、確かに実はもう一丁持っていた可能性はあったのだ。仲野があの時、動揺して動きが止まったが、錯乱して撃ってきたら無事じゃ済まなかった可能性がある。

 吹雪の情報で上手くいくと思い込み、考え事浅はかになっていたのだ。その事実に今更ながら背中に冷たいものが伝うのを感じた。

 吹雪は仲野の拳銃が一丁だとは言っていなかった。もしかしたら危険な橋を渡っていたのかもしれないという事に今更ながら気づいた。


 しかし、翼は気にせずに言う。


「それも織り込み済みでなんとかなると思ったから突撃しました。激昂してきちんと引き金から手を離しているのも見えてましたし」

「……お前、もう将来特対に入れ」


 あまりにも堂々と言い切る翼に中原は疲れた様に答える。翼の発言に驚いたのは当夜と純だった。あの状況下でそこまで確認していたと言う、事実に翼の底知れなさを感じた。

 御影島に来た日からの知り合いで同じ寮生、クラスメイトだからと仲良くしていたが、もしかしたら自分達と違う次元の人間なんじゃないかと思えた。


「あの、中原さんでしたよね」


 それまで黙って当夜の横で説教を聞いていた純が悩みながらも言葉を紡ぐ。


「昨日まで俺達は能力者の存在すら知らない一般人でした。正直俺は普通に生活したいですし、大変な事に巻き込まれるのはごめんです。それでも知らなければ今日、月詠さんを助けることが出来なかった。だから昨日までの俺は能力者の記憶を消してくれと思ってたけど、今は違います」


 純はそこで言葉を切る。当夜は何を言うんだと純を見つめる。同じく純を反対側から見つめている翼と目が合う。

 しかし、純は2人の視線を気にしない。覚悟を決めた様に拳を握りしめながら、中原とその後ろに待機する風見を真剣な表情で見つめていた。


「能力者の記憶を俺達から消さないでください。絶対に他言することはしません。当夜にも何があってもさせません。友達のピンチを助けられる可能性があるのなら情報は多いほうがいいんです。お願いします」


 純はそう言うと深々とお辞儀をする。それを見て当夜は思い出した。昨日の帰りに風見に能力者の記憶を消す可能性が高いと伝えられていたことを。当夜も純の隣で頭を下げる。


「おっ、俺からもお願いします。月詠を助ける為には能力者を忘れるわけにはいかない。それに今回の件で能力者も普通の人間と一緒で悪い奴もいればいい奴もいるって知ることが出来た。考えないといけない問題も俺の中で出来た。だから……!!」


 途中から当夜は何を言っているか自分でもわからなくなった。それでも真剣に考えて言葉を紡ぐ。頭を下げているので視界には自分の靴と地面しか見えない。


「俺は今回の件でこれからも何かあったら月詠を助けたいと思ったし、考えなしだったと今では思うけど、同じ状況ならまた繰り返す自信がある。その時に能力者について知らなかったら助けられないから」


 真剣に頭を下げる2人に何を思ったのか長い中原の息を吐く音が聞こえる。そして2人に近づいてくる気配がした。次の瞬間、ポンっと頭の上に片手を乗せられる。なんとなく純にも同じ様にしているのだろうと当夜は感じた。


「わかった、わかった。俺の負けだ。明日天宮に相談してから正式決定になると思うが、多分記憶は消さねぇよ」


 優しい声で中原は語る。


「警察として、大人としては良くないし説教もした。でもな、友達を助けようと思う気持ちも何もやれないもどかしさも俺も理解できる。だから、もう無茶はするなよ」


 優しく笑う中原に、当夜と純は同時に顔を上げる。そこには声と同様に優しい顔をした大人がいた。


「お前らの正義もわかった。もしよかったら今後の将来の進路に警察官を、特殊能力者対策部署を候補の一つに入れてくれや」


 中原は当夜と純、そして翼を順に見るともう一度、無茶はするなと釘を刺すと、行く場所があると後を風見に任せて物置を後にした。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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