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ep63 孤児院の住人達

「あっ、ゆいだ!」


 2階の吹き抜けから顔を出して蒼が下を見下ろしている。唯華はあからさまに嫌そうな顔をする。


「……蒼」


 嬉しそうな蒼はそのまま、柵を掴み2階から飛び降りる。そして綺麗に1回転して両足で地面に着地する。両手を上にあげて「10点!」と自分の着地の評価をする。そしめ飛び降りる際に脱げた帽子を右手でキャッチする。その際に腰のあたりまである一つに結ってある長い髪が動きに合わせて揺れる。

 蒼は慣れた様子で髪をアップにして隠す様にして帽子を被り直す。


「ほぉ、こいつ男じゃなくて女だったのか」


 来宮が感心した様に蒼を見ながらいう。その視線に気づいたのか蒼が猫の様に後ろに飛び跳ねる。そして顔色が悪くなる。すぐに走ってソファに座っている唯華に抱きつく。


「ゆっ、ゆい。この人誰? ゆいの知り合い? 信頼してる人?」


 震える声で自分の右腕に光るブレスレットに触れながら蒼は言う。それは先程まで不敵に笑い、2階から飛び降りた人間とは思えない。


「まぁ、商売相手としては信頼しているな」

「それは光栄だ。私も取引相手としては信頼してるよ」


 唯華の言葉を受けて、来宮も笑いながら言う。2人の間に打算的な信頼が見える。ただ、唯華が信頼してると言った事で安心したのか、蒼は唯華から離れる。

 そして美月と和泉を見る。背の低い蒼は2人を涙目で見上げている。


「みぃさん、いずさん、この人はここに住むの?」

「そうよ、蒼。居候でたまにここに来るなら仲良くしなさいね」


 美月の言葉に和泉も驚く。それは初めて聞いた反応だった。


「またゆいが拾って来たのか。この家の代表は私なのに聞いていないぞ」

「お姉ちゃん、仕事中だったでしょ」


 和泉の本業は医者だ。開業医としてこの屋敷に併設して病院を経営している。普段からアルコールを摂取しており、アルコールが入っていない日はない和泉だが、医者としての腕は一流だ。その為、和泉の評判を聞き、常にアルコールの入っている事に納得している患者でそこそこ賑わっており、この屋敷の大黒柱だ。

 そして金銭管理は全て酒代で消えかねない事を懸念した美月が行っている。この屋敷は駿河姉妹の2人によって成り立っている。


 しかしアルコール中毒の和泉は酒がないと動けない。そこで、馴染みの酒屋で一度唯華にツケを行った。そしたら、そのツケは通り、唯華が金額を嫌々払った為、和泉は味をしめた。結果として唯華の借金はすごい額になっているのだ。


「そうか、まぁとりあえず自己紹介しておくか。私は駿河和泉。一応医者だ」

「そうか、私は来宮眞琴だ。能力者研究を行っている」

「へぇ、まあここの連中が危険な目に合わないならいいけど、よくない実験台にしてみろよ、すぐに追い出すからな」

「アル中医が何言っても説得力ないよ」


 2人の自己紹介を聞き、蒼が笑う。少し調子が戻って来た様だ。唯華から離れた蒼は来宮の前に行くと、しっかりと目を見つめた。


「俺は椎名蒼だ。ここは居候先の一つでよく泊まってる。よろしくな」

「小学生にしてはしっかりしてるじゃないか」


 来宮のその言葉に蒼が青筋を立てる。


「俺は中1だ! 誰が小学生だ」

「ほぉ、その背の高さは小学校低学年にしか見えないが、すごいな」

「誰がチビだ!」


 来宮と蒼が低レベルな言い争いをしている。その様子を見て唯華はおかしくて笑う。能力者研究の天才と言われている頭脳の持ち主である来宮と中1とは思えないハッキングスキルや思考回路を持つ天才の蒼。2人の初めての言い争いが小さい子どもの様な者なのが面白くて仕方がない。

 しばらく笑ってから、唯華は和泉を見た。


「和泉、能力は使ってないだろうな?」

「使ってないというか、私は自分の能力がわかってないんだ。そんなに釘を刺すな」


 唯華の言葉に和泉は呆れた様に言う。それを聞き美月がため息をつく。


「そうだけど、無意識下で何か違うって思ったことがあったらすぐに私かゆいに教えてよ、お姉ちゃん」

「前々から言っているがお前達は何をそんなに警戒しているんだ」


 真剣に和泉を見る唯華達に彼女は呆れたようにため息をつく。しかし、すぐに唯華によって釘を刺される。


「それだけ、無自覚の和泉の能力はバレたらやばいってこと。今の生活を続けたいだろ?」


 そう言って、言い争いをする来宮達に視線を向ける。


「博士、今から話せるか。1つ共有しておきたいことがある。これは他言無用だ」


 真剣な声音に来宮も何かを感じたのか無表情ながらも顔に緊張が走る。唯華はその様子を見て、ソファから立ち上がる。


「今から部屋に行っていいか。内緒話だからついてくるなよ、蒼」


 そう蒼に釘を刺して唯華は来宮にあてがわれた1階の部屋に向かって歩き出す。


「私が言うのもなんだが、こちらに拒否権はないのか」


 来宮はそう呟き、唯華に続いた。そして部屋の扉が閉まる。密室の中で唯華が来宮になんの情報を共有したのかは2人以外知る由もなかった。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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