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ep62 吹雪の正体

 車から降りると吹雪は玄関に向かい、当たり前のように中に入る。少し遅れて、葵も続いた。

 玄関ホールを抜けるとホテルのエントランスのような開けた空間があり、様々な種類のソファや椅子、机が置いてあり、壁際には大きなテレビ、左右の突き当たりにはそれぞれ階段があり、2階に上がれるようになっている。

 吹雪は1つのソファに腰掛ける。葵は持っていた荷物を置きに、階段を上り部屋に向かっていっていた。


「あれ? 来てたの。おかえり」

「今来たところ。それより何かあった?」


 黒髪の女性が吹雪に近づいて来て微笑みかける。吹雪も親そうに女性に返しながら周りを見渡す。


「双子は?」

「蒼と一緒に部屋でボードゲームをやっているわ」


 女性ーー駿河美月は微笑みながらそういう。吹雪はその発言を聞き、ほうっと息を吐く。


「という事は蒼きてんの? ……面倒だな」

「あはは。まぁ姫と昴君も巻き込まれてるからしばらくは出てこないと思うけど」

「日向昴は随分とこの屋敷に馴染んだな」

「そうだね。まぁ同じ能力者()を抱えているからね」


 美月は視線を逸らして伝える。吹雪も納得したのか特に何も言わない。静寂が部屋を支配しようとした瞬間、玄関に続く扉が大きく開いた。


「山吹!! 今回の件どこまで関わってやがる!!」


 中原が怒鳴りながら吹雪に近づく。その様子を見て美月は呆れた様にため息をつく。


「ゆい、また中原さんに迷惑かけたの?」

「逆に感謝して欲しいんだけど、中原さん」


 吹雪ーー山吹唯華は食えない笑みを浮かべて中原を見る。


「感謝だと!? 月詠の巫女は危険な目にあったんだ、どこまで手を引いていた」

「同じ事を聞いてるぞ? それに月詠の巫女が攫われたのはこちらも想定外だ。だからこそきちんと解決できる様に情報をタダでやっただろ?」

「お前が動けば、もう少し早く蹴りがついた」

「それは買い被りだ。私も出来ることは限られてる」

「だとしても、子どもを使うな!!」


 中原の言葉に唯華は笑う。子ども? とでも言いたげな雰囲気だ。


「翼の身体能力と頭脳は信頼してるからね、問題ないと判断した。実際そうだっただろ?」

「それは結果論だ!」


 怒鳴る中原を煩そうに見ながら吹雪は続ける。


「こっちのシナリオ通り進んだ。それは結果論じゃなく予測通りの結果だったってことだ」

「だが……!!」


 何かを言おうとする中原を唯華は先手で封じる。


「それよれもこんなところにいていいのか? まだ事件の後始末は終わってないのだろ?」


 唯華の発言に中原は舌打ちをする。そして覚えていろよと瞳で訴える。そして唯華の隣にいた美月へと視線を向ける。


「騒いで悪かった。また来る」


 そう言って中原は玄関へと消えていった。それをなんとなく眺めながら唯華は足を組む。そして頬杖をつきながら、感心した様に呟く。


「よくまぁ、あんなに必死になれるよね」

「……ゆい、あんまり大人を揶揄う者じゃないわよ」

「大人ねぇ、私の情報で掌の上で踊らされてるからなぁ」


 美月の言葉にわざとらしく答える。そして、頭の中では今回の出来事について考える。

 吹雪として来宮と共犯して能力者の誘拐事件を自作した。そして詩織が攫われたら、状況を見て当夜に情報を流した。その際に来宮の装置を頼ったが、そこまで今回は手を回していない。ただ必要とされている情報を金額や情報に合わせて売っただけだ。

 ただ、金のために。


「来ていたのか」


 声が聞こえた為、思考を中断する。そこには白衣を纏った来宮がいた。彼女の姿を捉えると唯華は笑う。


「どうだ、ここには慣れたか」

「こんなにも、島にバレていない能力者がいる事に驚いた。数人は私の研究への手伝いも約束してくれた。研究環境としては申し分ない。一応感謝しておく、吹雪」


 来宮の発言に唯華は笑う。そして差し出された手を握り固く握手を交わす。

 来宮が研究所に戻るのは危険と彼女も唯華も判断していた。そこで唯華がこの屋敷の1室を提供する事を提案した。この屋敷では10人近くの能力者が暮らしている。他と違うと捨てられていた能力者達を唯華が拾って来て、この駿河姉妹と協力して手に入れた屋敷で、自由に暮らしてもらっている。だから、一部の人間はこの場所を孤児院と呼んでいる。


「あっ、ゆい帰って来てたのか」


 後ろからアルコールの匂いと共に、1人の女性が現れた。その手にはお酒の缶が握られている。


「お姉ちゃん、またお酒飲んで!」

「何をいう美月。これは命の水だぞ。百病の薬だ」


 ゲラゲラ笑いながら女性ーー駿河(するが)和泉(いずみ)は持っていた缶を掲げる。


「おい、酔っ払い医師。その酒誰の金で買った!」

「んー? そりゃいつもの店で、ゆいのツケで! で買ったぞ」

「人にツケるのいい加減にやめろ! 酒屋も当たり前のように未成年に酒代つけるの肯定するなよ」

「……諦めるしかないよ、ゆい。最初にキレながらも払っちゃったんだから」


 美月が慰める様に唯華の肩に手を置く。しかし、美月和泉の酒代を唯華につけるのを止めないどころか、毎日の様に飲む酒代を家計から出さなくていいと思っていることを知っている唯華はジトっとした瞳で美月を見た。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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