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ep60 詩織の変化

 詩織は瑞稀と奏とお互いに抱き合いながら、さっきまでの出来事を考えていた。


 仲野に殴られそうになった瞬間の風見の乱入から、詩織が呆気にとられている間に全てが終わっていた。

 何もない空間からいきなり現れた翼と純がすぐに仲野を制圧したからだ。2人の連携は綺麗で何度も打ち合わせをしてくれていた様に感じた。

 そして、心配した顔で詩織を見た純と翼の顔に、心配をかけた事に、生きる事を諦めたことに罪悪感を覚えた。

 外から当夜が詩織の方に駆けてくる。心配と安堵の混ざった不思議な顔をしていた。そして純とほとんど同時に同じことを言った。


「月詠さん、大丈夫?」

「月詠、大丈夫か!?」


 瑞稀と奏以外に自分を心配してくれる人がいるその事に、詩織は驚いた。瑞稀と奏、そして唯華と彩音の家族。この少ない人達が詩織にとっての全てだった。しかし、自分が勇気を出して一歩前に出た事により世界が広がった。

 当夜の手により縄が解かれ、詩織の体の自由が戻る。

 安堵と新たな気づきに涙腺は壊れたかの様に涙をこぼし続ける。それに気づいた翼が詩織を抱きしめ、安心させる様に頭を撫でてくれる。


 人の温かさに物理的にも、そして精神的にも触れた気がした。お役目の為と言い訳して、拒絶していた世界が本当はこんなにも暖かくて美しいものだったのだと自覚した。瑞稀が青春しろよと何度も言ってきた理由がわかった。

 詩織は独りよがりだった自分を反省した。そして、こんな素晴らしい人達と出会えた事実に神に感謝する。


 しばらくすると不意に翼の手が頭から背中に移動した。そして励ます様にポンポンと優しく背中を叩かれたと思うと翼が詩織から離れた。不思議に思い顔を上げると、瑞稀と奏が駆け寄ってくる。


「瑞稀、奏さん」


 2人の元に駆け寄り抱きしめ合う。そして、気づいた。先程、翼と純はなんで突然現れたのか? 答えは簡単だ。先程まで以前取引をしたゴスロリ姿の"サーカス"の女がいた。彼女の、能力者の助けがあったのだろう。子どもが無事で良かったと本当に心配をしていたことを思い出した。

 能力者も自分を助けるために動いてくれていた。詩織は今まで両親が能力者の暴走により亡くなったことで能力者全てを恨んでいた。しかし、能力者と一括りにしてはいけないのではないか。いい人もいるのではないか、新しい出会いにより柔軟になった頭がそんなことを考える。


 能力者だからと恨んでいた。でもあの"サーカス"の女の様に人助けをしてくれる能力者もいる。だったら、能力者というだけで恨むのは違うのではないか? そんな考えが自然と浮かんだ。


 昨日までの自分なら絶対にそんな事思わなかったなと2人に抱きつきながら自嘲する。

 その時だった。


 <そうですよ、詩織。偏見はよくなかったのです>


 頭の中に声が響いた。初めて聞いた声だったが詩織は直感的にわった。これはこの島の神の声だと。


(私が巫女の能力、貴方の声を聞くことが出来なかったのはそのせいなのですか? )


 詩織は頭の中で神に問いかける。対話の方法は教わっていなくても本能で分かった。自分が使える神は夜の様に静かな声で答える。


 <そうです。能力者もこの島を成り立たせる上ではとても大切なのです。偏見で迫害しているものに私は話しかけることが出来ない。いつも近くで見守っていたので詩織の葛藤はわかっていました。やっと殻を破ってくれて嬉しいわ>


  優しい神の声に先程とは違う涙が瞳から溢れる。自分は巫女だが神の声を聞くことが出来なかった。それは見捨てられてるからだと思っていた。でも違った。その事が詩織は嬉しかった。この島は神に守られている。そして私達の事を見守っていると先代に言われてもまだ幼かった詩織は理解できなかった。


 そして成長し、巫女業を引き継いでも神の声も気配すら感じられなかった詩織は先代の言葉を忘れてしまっていたのだ。しかし、そんな間もずっと神は見守っていてくれていた。その事実は詩織に勇気をくれた。


(月詠様ありがとうございます)


 詩織は心の中でお礼をした。そして今まで以上に誠心誠意この神の巫女として努めようと決めた。


「あっ、お役目」


 そしてまだ本日のお役目をしていない事に気づく。


「もう少し落ち着いてからでいいんじゃないか?」

「詩織ちゃん、もう少しゆっくりしてからでも遅くないわ」


 詩織の発言に驚いた様子の瑞稀と奏がもう少し休憩するべきだと伝える。

 しかし、詩織はすぐにでも神に祝詞を捧げたい気分だった。


「でも、私は今すぐにしたいの」


 詩織の珍しい我儘に2人は目を丸くした。そして諦めた様にため息をつく。奏がハンカチを取り出し、詩織に渡した。


「とりあえず、涙を拭おうか。巫女の宮で顔も洗ってからにしましょう?」


 奏の言葉に詩織は大きく頷く。奏は事件処理をしている中原と風見に声をかけて、現場を離れる許可をもらっていた。そして、許可を得ると詩織の方に歩いてくる。


「心配だから、今日は瑞稀君と一緒に待ってるわ。家までは車で送るから心配しないで」


 そう言ってウィンクをする。その様子に瑞稀と顔を合わせて笑う。

 今は気分がとても清々しい。きっと明日もその先も明るい未来が待っているだろう。詩織は希望を胸にお役目を行うために歩き出した。

 助けに来てくれた3人にお礼を言うと、すぐに物置を後にする。

 

第一部もいよいよ残り10話となりました。これまでの登場人物を整理した『登場人物まとめ』を活動報告にアップしました。完結への振り返りにぜひ活用してください!

▼こちらから

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3679118/


今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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