ep57 命の天秤
時は少し巻き戻る。詩織は月詠神社の物置に置いてあった椅子に座らされ、両手両足がロープによって結ばれ、体の自由を封じられていた。少し離れな位置で拳銃を片手に初めての誘拐に高揚している様子の犯人ーー仲野は詩織の方を見ていない。
詩織は恐怖に支配されながらも状況の整理を行う。男に拳銃で脅され、気づいたら目の前にいるにも関わらず、当夜達が周りを探し出した。そして、4人の前で肩を掴まれたまま、銃口が側頭部から後頭部に移動する。
「前を歩け」
小声で仲野が指示し、従いながら歩く。月詠神社への階段を上り、普段から人気のない境内の奥へと進まされる。そして今は使われずに放置されている物置へと詩織は突き飛ばされた。
銃口は頭から離れたが、仲野の持つ拳銃は変わらず詩織に狙いを定めている。彼に壁際にある椅子に座る様に指示され、詩織は従った。そして椅子に体を括り付けられた。
それからどれぐらい時間が経ったのだろうか。仲野は不意に詩織に近づいてきた。そして銃口を詩織の頭に当てながら言う。
「おい、携帯はどこだ?」
「……制服の右ポケット」
恐怖で震える声で詩織は答える。すると、仲野は迷わずに詩織のスカートのポケットに手を突っ込み、携帯を取り出す。そして、詩織の方に携帯を向け、顔認証でロックを解除する。
「1番上のやつでいいか」
仲野はそのまま、携帯を弄りどこかに、電話を始める。最後に連絡したのは瑞稀だ。彼は瑞稀に連絡をかけていると詩織は推測する。
「よぉ、島を出る準備はできたか? あと30分だぞ」
瑞稀が電話に出たのか、仲野は高揚した様子で話し出す。電話口の声は聞こえず、一方的に仲野の声だけが狭い物置にこだまする。そこで詩織は自分が囚われてから30分経過した事を知る。
「当たり前だろ? 人質はギリギリまで生かしとかないとなぁ」
下卑た笑いをこぼしながら仲野は上機嫌に電話をする。その異様なまでのテンションの高さに詩織は背中に冷や汗をかいていることに気づく。何をするかわからない、そんな不安を感じる。しかし仲野は詩織の心配をよそに笑いながら電話に応える。
「はっ、嫌だね。また10分前になったらまた連絡する。それまでに用意しておけよぉ」
そして、電話を切ると詩織の携帯を床に投げつける。そして、右手で拳銃を弄びながら詩織を見る。
「あと30分でお前の命運は決まるぜ?」
ニヤニヤと詩織に顔を近づけながら仲野は笑う。
「私の命と能力者が島外に出る事なら、天秤は私の命に傾くと思います。貴方は外には絶対に出れない」
詩織は仲野を睨みつけながら、自分の信じる真実を伝える。秩序を守るため、その為に犠牲になる覚悟を詩織は巫女としての役目を引き継いだ時からしていた。こんなにも早く危険な目に遭うとは思っていなかった。しかし、能力者を島外に出すのは月詠の巫女として秩序を司る以上許すわけにはいかない。恐怖もあるが、それ以上に使命感が優った。
詩織の言葉を聞き、仲野は激昂した。
「ふざけた事を言うんじゃねぇ」
仲野は近くに置いてあった荷物を思いっきり殴る。大きな音がなり、驚きで詩織は思わず目を閉じる。次に目を開けると仲野は詩織の目の前にいた。
「ひっーー」
驚きで詩織の喉が悲鳴にならない声をあげる。そして、仲野が詩織の胸ぐらを掴む。
「俺は無理矢理この島に連れてこられたんだ!! 拒否すら許されず、能力をただ持っていた、それだけでだ!」
興奮した状態の仲野が唾を飛ばしながら、激昂する。
「俺は本島で夢があった! それを納得のできない理由でまるで囚人の様にこの島に連れてこられた。この監獄島にだ! 俺は悪い事をしてない。自由を求めて何が悪い」
「能力者である事は選べないし、気の毒と思わない事もない。でも自由を許したら特別な力のある人間は、能力を制御できない人は、暴走して人を殺す可能性がある。私の両親は能力者の暴走で死んだ。そんな悲劇を少しでも減らす為に、管理は必要なこと」
怒り狂う仲野に詩織は淡々と自分の考えを伝える。体が震えるが、武者震いだと自分に言い聞かせた。少しでも弱音を出してしまえば、気丈に振る舞えないと詩織は自覚していた。
瑞稀や奏、翼達は自分のことを心配してるかなと、ふと思う。きっと上層部は詩織を見捨てる。それは火を見るより明らかだ。
詩織は翼の事を思い出す。初めてできた友達。唯華とは別の関係をこれから築けたかもしれない相手だ。そして当夜と純の事も思い浮かぶ。当夜は気に食わない余所者だと思っていたが、今日自分が一歩を踏み出すきっかけの言葉をくれた。純はいつも、当夜の発言を謝りながらも詩織を気にかけ、1人の人間としてみてくれた。
他者との関係を拒絶する事を選んだ詩織にとって、得難い関係になれたかもしれなかった。それだけが少し心残りだ。
詩織は自分の命をすでに諦めていた。詩織の言葉に逆上した仲野が詩織に向かい腕を振り落とそうとしたら次の瞬間、ドンっと大きな音と共に、物置の扉が開く。
「無事か、月詠ちゃん」
そこにはサングラスをかけた男が扉を蹴破って颯爽と立っていた。
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次回は、明日20時に更新予定です。
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