ep55 盤上の駒
月詠神社の駐車場に風見が車を停める。停車したのを確認するとすぐに当夜が扉を開けて車外に駆け出した。そして、吹雪に言われたとおり、階段付近の茂みを探す。目的の物はすぐに見つかった。
手のひらサイズのピラミッド型で、上部にスイッチが付いている。
「当夜、突っ走るな」
当夜の後ろから純が追いかけてきた。そして当夜の持っているものを見ると「それか?」と尋ねてくる。当夜は頷き、その装置を持ち上げる。
「それはなんだ?」
純が立方体の装置にメモが付いていることに気づいて、そのメモを剥がす。当夜も横からそのメモを覗き込む。
「は?」
「……本当に吹雪の掌の上だな」
そのメモには
"馬鹿にもわかる様に制作した。面を無効化したい方に向けて置き、上部のスイッチを押す。それで直径100mの能力者を無力化できる。来宮"
と書かれていた。確実に当夜の事を言っている。純が当夜に視線で訴えてくるのがわかる。しかし、今はこんな事で怒っている場合ではない。1番の目的は詩織の救出だ。すぐに思考を切り替え、純と共に当夜は茂みから階段の前に移動する。
「ガキども、勝手に動くなって言ってんだろ!!」
「あっ、結城君。あった?」
そこには苛立った様子の風見と普段と変わらない笑顔の翼がいた。純は頷き、当夜から受け取ったピラミッド型の装置とメモを見せた。
「……博士、馬鹿にしてやがるな」
メモを読み風見が悪態をつく。翼の笑みも少し深くなり、当夜は恐怖を感じた。
「とりあえず、物置までは移動する。そこでお前らは待機だ。今、中原さん達が向かってる」
「それ、タイムリミットまでに間に合うの? あと15分ぐらいですよ? 状況見て動かないと」
風見の指示を翼は全否定する。お互いに譲れずしばらく睨み合う。先に折れたのは風見だった。顔には下手に止めて余計なことされるよりはマシかと堂々と書いてある。
「わかった。でも勝手に動くなよ? 実弾がどれだけ残ってるかわからない」
風見がそう真剣に言う。そして無言で階段を上り境内につく。すると当夜の携帯に再度連絡が入った。非通知のため、吹雪だとすぐに当夜は電話を取る。
「今度はなんだ」
『いや、追加の情報が手に入ってな。仲野が持っている拳銃はこちらが"サーカス"に流したものだった。実弾は1つだけであとは全て空砲だ。仲野は安全装置を外す方法は知っていてもリロードの仕方はあまりわかっていない。仮に一発撃ってるなら、奴の拳銃はオモチャみたいなものさ。まぁ空砲も当たれば痛いがな。これでサービスは最後だ。せいぜい頑張れ、学生諸君』
「待て! お前はどこまで知って……」
吹雪はやはり最後まで話を聞かずに電話を切る。まるで境内についたのを確認して情報をわざと小出しにし遊んでいる様に感じた。人の命がかかっているんだぞと当夜は思わず拳を握りしめたところで気づいた。今、吹雪は実弾は1つで残りは空砲と言ってなかったか? そして仲野は脅しで一発地面を打っていた。その瞬間、当夜の中で活路を見出した。
電話に出て当夜が止まったことに気づかずに先に進んでいた3人に当夜は走って追いつく。そして、今の情報を伝える。
その瞬間3人も勝機を見出したのか顔が少し明るくなる。
「吹雪ってやつが何を考えているかわからねぇがそれが本当なら、能力無効にしてとっ捕まえれば終わるってことか」
「そうだね。物置の入り口の数によっては、風見さんが正面突破で囮になり、後ろから私と三好君で制圧する手もありますよね!」
「……翼、お前は大人しくしているって選択肢はないのか」
「友達が怖い目に遭ってるんですよ? じっとしてられるわけないじゃないですか」
翼がいつもの笑顔で風見に噛み付く。先程までの翼の笑顔は怖かったが、今は安心すら覚えた。純と目を合わせ頷く。
風見が囮となり、翼と純で犯人を制圧。そして詩織を連れて外に当夜が一緒に逃げる。フォーメーションは決まった。小声で細かい打ち合わせをしながら、4人は詩織が捕えられていると思われる物置へと足早に向かった。
♢♢♢♢
中原の運転する車で瑞稀は祈っていた。先程翼から詩織の居場所がわかったと連絡があり、奏と共に安堵をした。まだ救い出せてはいないがタイムリミット前に場所がわかっただけでも前進だ。
風見達が先行隊として場所の確認をしている間に合流して突撃をする予定だ。
銃を突きつけられ恐怖で固まった詩織の顔が脳裏から離れない。無事でいてくれと祈ることしか出来ない事が歯痒い。
犯人はまだ殺してないと言っていたが、詩織の声を聞いてきない。本当に犯人の言う事を信じていいのか。そんな不安が瑞稀を支配していた。何か事件が起きた時、自分は無力なのだと思い知る。今後も能力者と関わるのなら何か役に立つスキルを身につけないといけない。
生まれて初めて、詩織が月詠の巫女が危険に晒された。その事実に瑞稀は反省をした。すぐ動けない以上、考えることしか出来ない。そして、その思考はどんどん負の考えがしめてしまう。
そんな瑞稀の様子に気づいたのか隣に座っていた奏が無意識に握りしめていた瑞稀の手を上から覆った。
「無力感に支配されちゃダメよ、瑞稀君。貴方もまだ守られるべき子どもなんだから」
「……でも、奏さん」
「強くなりたいなら、うちの道場に通えば良い。まだ大丈夫、やり直せるわ」
奏の言葉は自分に言い聞かせている様にも聞こえる。不安なのは、自分の無力感を責めてるのは自分だけじゃない瑞稀はその事に気づき、負の思考を振り切って、前を見る。ただ、詩織の無事だけを信じて。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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