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ep53 倉庫街での捜索

 翼が風見に連絡し、5分程で彼の運転する車が月詠神社の近く、詩織が攫われた場所まで来た。


「翼、状況は!?」


 運転席から降りてきた風見は迷わずに翼に近づく。助手席から降りてきた中原も同様だ。奏だけは青白い顔で瑞稀に近づく。当夜はその様子を見ながら純と大人しく状況を見守る。

 純も心なしか顔色が悪い。「月詠さん、大丈夫かな」と何度も呟いている。当夜も先程まで話していた詩織が銃を突きつけられ、連れ去られた事に衝撃を受けていた。誘拐事件捜査時に銃刀法がない事、御影島(ここ)は日本であって日本じゃない事を忠告されていたが、今日初めて本当の意味で実感した。


 ここは日本とは違い、命の危険がこんなにも簡単に訪れるのだという事を。

 翼は冷静に風見と中原に状況の説明をしている。犯人の様子や能力の推測。消えた場所はどこなのかと。同い年のはずなのに、島にいた時間が3年違うだけでこんなにも差が出るのかと当夜は尊敬した。自分はただ恐怖で動けなかっただけだ。しかし、翼は少しでも多く事態の把握に努めていたのだ。


 そもそも詩織が一緒にカフェに行ったのは自分の言葉も大きく影響してるんじゃないか、あの時自分が行くのを進めなければこんな事にはならなかったんじゃないかと悪い考えがどんどん浮かぶ。首を横に振り、当夜はその考えを打ち消す。


「結城君、大丈夫?」


 話がついたのか、翼が当夜の顔を覗き込む。心配そうに首をかしげている。


「ああ、大丈夫だ。話はついたのか?」

「うん。とりあえず私達は風見さんと一緒に人海戦術でしーちゃんを探させてもらうのを勝ち取ったよ。風見さんの上司と天宮さんが上層部に交渉するみたい」


 翼は淡々と決まった事を伝える。


「瑞稀先輩も交渉の方に回るみたい。で、人海戦術だけど相手は拳銃を持っている。捜査に関わらせてもらう代わりに私達は風見さんと一緒に行動する事になった。時間もないし、すぐに向かうよ」


 翼はそう言い、風見を指差す。風見はその様子を見てため息をつきながら近づいてくる。


「そういうわけだ、とりあえず翼から聞いたが、この辺りは捜索したんだな?」

「はい。ただ、姿が消えた瞬間に気配も消えたんです」

「それは上層部と交渉しながら中原さん達が能力者を洗う事になってる。俺らは月詠を見つける事に専念するぞ」

「データベースにあるの?」

「ああ、能力者は島が管理してる。この島生まれだとわからねぇが、島外から来た奴らはほぼ能力と名前、顔写真が登録されてる」

「……本当に能力者に人権がないんですね」


 それを聞き、翼が顔を顰める。その様子に当夜は不思議に思った。もしかして知り合いに能力者がいるのかとそんな疑問が湧くが今はそれどころではない。


「それで若葉先輩が顔の確認をするのか!」

「そうだ。突然姿と気配が消えたという事は瞬間移動系の能力を持っている可能性が高い。そこまで絞れれば時間内に犯人まではわかるだろう」


 風見はそこで一度言葉を切ると当夜達を見回した。


「だが、正体がわかってもどこにいるかはわからねぇ。すでに怪しい場所を特対の奴らが探している。俺らも車で怪しい地点の一つに移動してそこをメインに捜索だ」


 風見は車を指さしそう伝えると、早く乗るように伝える。翼が助手席、当夜と純が後部座席に乗り込んだのを確認して、風見はエンジンをかける。


「俺らが行くのは比較的治安がいい場所だが隠れ家の可能性がある事を考えると危険がねぇとも言えない。俺の指示に従えよ、特に翼!」

「んー、それは一度でも体術で私に勝ててから行って欲しいですね」


 翼は笑いながら風見に答える。その普段通りのやり取りに当夜と純は薄寒いものを感じた。まるで、内心で刃を研いでいるようなそんな危険な雰囲気が翼から感じられる。


(何があっても月詠を助ける)


 当夜は決意と覚悟を固める。そして隣の純を見ると同じ気持ちだったようで目が合う。そしてお互いに頷きあうと、前を見据えた。ただ、詩織の無事だけを信じて。


 しばらく車で走り、当夜達に割り振られた捜索場所についた。港の近くにある倉庫街だ。

 車を降りる際に再度、風見に危険な事をしないようにと釘を刺される。了承して、風見に続き3人も車を降りる。

 太陽は海に沈もうとどんどん低くなっており、あたりも茜色から徐々に暗くなってきている。

 早く見つけないとと焦りながらそれぞれ手分けして倉庫の中を覗き込むも、詩織どころか人影すら見つけられない。


「風見さん、他も探しに行かないですか?」

「そうしたいのは山々だが、ここ以外は治安があまり良くない。ガキどものお守りをしながらだと危険だと上が判断している」

「私のスペックは知ってるよね? 三好君も空手と柔道を嗜んでいて多分、足手纏いにならないと思う。風見さんが結城君を見てさえくれれば問題ないですよ」


 見つからない焦りか翼が強い口調で風見に詰め寄る。しかし風見も真剣な表情で拒否をする。


「馬鹿言うな! 相手は拳銃を持ってんだぞ!? 体術だけでなんとかなるか!」


 期限が迫っている焦りからか風見も怒鳴りながら周りを見回している。それを見て1番移動したいのは風見だと当夜は思った。何度か捜査に同乗して、風見の警察官としての誇りや正義感はわかっていた。そして一般人を巻き込むのを是としない事も。毎回翼が強引に関わってるのに苦虫を噛み潰したような顔をしていたのも当夜は見ていた。自分達が足手纏いなのではと考え始める。既に倉庫街を捜索して30分が経過しようとしていた。その時、当夜の携帯が着信を伝える。


「!?」


 驚いて確認すると画面には"非通知設定"と表示されている。このタイミングでの電話だ。風見達に発信者を見せる。

 犯人がわざわざ当夜に連絡をするか? それが全員の疑問だった。


「とりあえず、出るな」

「おい……!!」


 風見の止める声も聞かず、当夜は通話ボタンを押す。


『出るまで長かったな。どうだ、月詠の巫女の居場所を教えてやろうか?こちらとしても月詠の巫女が攫われたままだと商売にならない』


 電話口からはボイスチェンジャーを使用したと思われる機械の様な声が楽しげに流れてきた。

 

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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