ep51 余裕のない男
男は月詠の巫女が通っていると噂の学校の前で待ち伏せていた。学校までの特定はできたが、顔まではわからない。どのように情報を仕入れるか考えながらその場に立ち尽くす。
目の前を下校する生徒達が通り過ぎていく。ぶつからないように立ち位置を調整しながらも男は校門から目を離さない。
不意に「月詠さん」という名前が耳に飛び込んできた。確認すると男女5人組が校門からちょうど出てきたところだった。
よく観察すると女は2人いた。片方は茶髪の長い髪をポニーテールをしており、もう1人は肩にかかる黒髪をそのまま下ろしている。
どちらが月詠の巫女だと後ろをそっとついていく。
しばらくついていくと髪を下ろしている少女が月詠と呼ばれている事がわかる。男は月詠の巫女が誰かわかると、その少女から目を離さずに血走った目で見つめる。
少女達は坂の下にある"ノアール"と書かれたシックな店に入っていく。しばらく外で待っていたがなかなか出てくる様子がない。男はしばらく、考えてから人気の無い場所で一度透明化の能力を解き、店内に入る。
偶然にも件の学生の斜め後ろの席に案内され、男は様子を伺う。楽しそうに話しているのを見ながらブレンドを1つ頼み、怪しまれないように、しかし月詠の巫女へと注意に気を配る。
どれくらい経っただろうか。同じテーブルにいたポニーテールの女が席を立つ。しばらくして戻ってきた際にこちらを見ていた気がした。これ以上は怪しまれると男は席を立ち、会計に向かう。
そして、また人気の無い場所で能力を使用して姿と気配を消す。
そのまま店の近くの電柱に背中を預け、月詠の巫女達が出てくるのを待つ。しばらくすると楽しそうに話しながら彼らは出てきた。
しかし、警戒しているのか、左右と、後ろにそれぞれ守るように月詠の巫女以外が配置されている。
前が空いていると、前に回るもの横にいる2人の警戒の仕方が只者と思えない。
男はどうするべきか悩みながらも鏡で後ろの様子を確認しながらしばらく前を歩く。すると目的地が月詠神社だと彼らの会話から判明する。そこで男は先回りして月詠神社付近で待ち伏せる事にした。
待ち伏せていると、5人が男の方に近づいてくる。ゴクリと男は唾を飲み込み、服のポケットから拳銃を取り出す。そして安全装置を外す。震える手を押さえながらタイミングを伺っていると強風が吹き荒れる。
男は今だと月詠の巫女の前に走り出し、銃を頭に当てると透明化を解く。
「全部、お前が悪いんだ」
そう言いながら、拳銃を握っていない左手で少女の腕を引く。そして逃がさないように後ろから捕まえる。
警戒する男女を見ながら男は続ける。少女に突きつけている拳銃は震えているが、頭から銃口は離さない。
「俺は悪くない、全てこの島が悪いんだ!!」
血走った目で叫ぶ。男はすでにまともな判断が出来ていない事を自覚していた。しかしもう後戻りはできない。
警戒する学生達を睨みつけながら、男は言葉を続ける。
「動くんじゃねぇぞ、動いたらこいつを殺す!!」
「……っ!」
前にいる学生達が息を飲む。そして自分が捕まえている少女が震えているのに気づく。怯えている様子に男の気は大きくなる。
「おい、月詠の巫女はこの島にとって大切なんだろ? 殺されたくなければ、俺を島から出すように上を説得しろ!」
男はこの島を出る事しか考えていなかった。
♢♢♢♢
まずいなと翼は心の中で毒づく。明らかに理性を手放している男を下手に刺激することは出来ない。拳銃の安全装置を理解していない小物だったらすぐに無力化できるが、詩織が人質になっている以上下手に手出しができない。
男が詩織を人質にとりながら、一歩二歩と後ろに後ずさる。
視線だけ隣に向けると純も同じで手出しができず、男の様子を伺っている。普段なら騒ぐ当夜も拳銃を突きつけられた同級生という非現実的な光景に言葉が出せないようだ。
「若葉先輩、実は先輩やしーちゃんが能力者であの男を返り討ちにできるとかないですよね?」
ダメ元で後ろにいる瑞稀に小声で尋ねる。
「期待に添えなくてごめんだけど、俺も詩織も能力者じゃない」
「……そうですよね」
という事はこの状態で解決しないといけない。目の前に銃を突きつけられてる詩織がいる以上、警察に電話をすることができない。
どうしたものかと男から目を離さずに翼は考える。
しかし反応のない事に痺れを切らした男が、地面に向けて一発銃を撃ち込む。
その音を近くで聞いた詩織が恐怖で震えているのを視界がとらえる。
(これで、確実に実弾が入ってることが証明された。実は実弾は一発だけだったってオチは流石にないよね? )
冷静に状況を確認しながら、次の手を翼は考える。しかし思いつくよりも相手の判断の方が早かった。
「1時間、時間をやる。それまでに島を出る用意をしておけ。こいつの携帯で連絡してやる」
男の姿がその言葉と共に消える。気配を探るも、先ほど男がいた位置付近に人の気配はない。
「……相手は能力者?」
唖然とした瑞稀の言葉が聞こえ、翼はハッとする。そして信頼できる警察に連絡する事にした。すぐに見慣れた番号を呼び出す。電話に出るまでの時間が長く感じる。
通話が通じた瞬間、間髪入れず翼は事実だけを端的に告げた。
「風見さん、月詠さんが攫われた」
電話のスピーカーから間抜けな声が聞こえてきた。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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