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ep50 不審な男

 頼んだ食事を食べ終えてからもしばらく話は続いた。最初はギスギスしていた当夜と詩織の雰囲気も少し軽減されていた。翼と初めて友達になり喜んでいる様子などを見て、詩織の人間らしさに触れたからか、いけすかねぇと思っていた事は撤回しようかと当夜は密かに考える。

 窓の外が茜色に染まってきており、そろそろお開きか? という流れになったところで翼が小声である事実を告げる。


「私の気のせいかもしれないんだけど、30分ぐらいしーちゃんを見てる人がいる」


 驚きを顔に出そうとした当夜の頭を純が掴み顔を下に向けさせる。表情は見えないが、手の力が強く動揺している事は窺えた。


「詩織を?」

「はい。斜め後ろの席なんですけど視線をずっと、感じていて。さっきトイレに立った時に確認したら若い男だったんですけど、余裕がないように見えて……。店を出たら追ってくるかもしれません」


 翼は淡々と事実を述べる。その声があまりにも普段通りで当夜はそこ知れぬ恐怖を感じた。


「もう少し、様子見しますか?」

「そうだな。偶然で九条さんが気にしすぎって可能性も否定はできないんだよな?」

「そうですね。こっちに視線を向けてるのは確実なんですけど。狙いが私なら簡単に返り討ちに出来るんだけどなぁ」


 後半は独り言のように翼が言う。表情は見えないがいつもの笑みを浮かべている気が当夜はした。

 当夜は頭を抑えている純の方を見る。もう顔に出てないから大丈夫だと目で伝えると、純は当夜の頭から手を離す。

 顔を上げると昨日以上に真っ青な顔をした詩織がいた。流石の当夜も心配になるぐらいには酷い。思わず声をかけようと口を開きかけた当夜と隣にいた純はその瞬間に気づいた。


 翼が言っていたと思われる男が席を立ち、会計に向かったのを。

 翼もその気配を感じたのか、少し体の力を抜いている。そして、当夜たちを見て確認する。


「行った?」

「ああ、今会計終えて店から出ようとしてる」


 翼の問いに純が答える。そして安堵の空気がテーブルの上を通過する。


「私の気にしすぎだったか、諦めたかは微妙なところだね。しばらくは警戒したほうがいいかも」

「そうだね、俺も空手と柔道の心得はある。役に立つと思う」


 純と翼は顔を見合わせて頷きあう。2人の間では意思疎通できているようだが、当夜にはちんぷんかんぷんだ。頭にはてなマークを浮かべながら隣に座る純を見る。当夜の視線に気づいた純は、ため息をつくと説明した。


「しばらくは月詠さんの警護をしようって話」

「それは助かるけど、いいのか?」

「大丈夫だよ。迷惑はかけられない」


 純の言葉に瑞稀が安堵したように笑うが、詩織が拒否する。そんな詩織を翼は真剣な表情で見つめる。


「そんなに顔色悪くして何言ってるの。迷惑じゃないよ。友達を助けたいって思うのは普通のこと」

「そうだよ。それに何もしないで月詠さんに何かあったって後から聞いたらきっと後悔する」


 翼に続いて純も自分の考えを口にする。それには納得できた為、当夜も頷く。その様子を見てた瑞稀が優しい笑みを浮かべた。


「とりあえず、今日はみんなの言葉に甘える事にしないか? 家に着いたら奏さんに事情を話して明日からは天宮の一族に警護を頼もう」

「……うん。わかった」


 今日だけと限定した事で詩織も渋々と納得したようだ。翼と純が嬉しそうに笑い合っていた。3人に向き直り詩織が頭を下げる。


「今日だけはお願いします。でも、これからお役目で月詠神社に行くけど、門限は大丈夫?」

「それは如月先輩に連絡するから大丈夫だよ。それに先輩の心配の種を昨日1つ解消したから、今私は先輩に借りがある状態なんだ」


 昨日、車での帰り道に翼は風見に零の無事を和希に伝えていいか確認していた。そして許可をもらい、帰宅後に報告したと朝話していた。それで借りを作ったのだろう。

 翼は安心させるように微笑み、詩織を見ている。表情だけ見ると聖母のようにも見えるが、行動に起こすと悪魔のようだと昨日の一件で当夜も純も思うようになった。


 しばらく話して、月詠神社まで一緒に行き、お役目が終わるまでは神社の探検をしようという当夜に純が付き添う形で決まった。社にいる限りは詩織の身の安全は保証されている為、社の外での見張りは翼と瑞稀がする事になる。

 決まると、暗くなる前に終わらせようとそれぞれ会計を終わらせ、一緒に店を出る。


 気配に敏感な翼が詩織の右、武道の心得のある純が左を敬語する事になった。3人の後ろを当夜と瑞稀が歩く。

 しばらく平和な様子で話しながら月詠神社へと向かう。

 翼の心配のしすぎだったのかという空気が微かに流れてきた。最初は警戒で張り詰めていた空気も徐々に穏やかになる。


「唯華を妹みたいに思えるなんて、しーちゃん凄いね。私、想像するだけであんな生意気な妹はいらないって思うよ」

「でも、根はいい子だよ? 少しツンデレなだけで」

「ツンだけでしょ。唯華のデレなんて想像つかないよ」


 翼と詩織は共通の知人である唯華の話で盛り上がっている。当夜の隣を歩く瑞稀はそんな2人の様子を微笑ましそうに眺めている。

 もうじき月詠神社に着くそんな距離まできた時に、いきなり強風が前から吹いてきた。

 あまりの風の強さに目を瞑る。そして目を開けると先ほどまで誰もいなかったはずの場所で1人の若い男が詩織の頭に拳銃を押し付けていた。


「全部、お前が悪いんだ」


 そう言いながら、空いてる左手で詩織の腕を引く。そして、後ろから捕まえるように腕の中に詩織を閉じ込める。

 急に現れた驚きからか、純も翼も動けなかった。そして、拳銃を突きつけられている詩織が人質に取られている為、誰1人動けない。

 周りは人通りのない道の為、男の注意を他に向けるのも難しい。


「俺は悪くない、全てこの島が悪いんだ!!」


 男は血走った目でそう叫びながらも詩織の頭から拳銃を離さない。


「あの拳銃、安全装置がもう外されている」


 状況を見極めていた翼が小声で伝える。誰のものかわからない唾を飲み込む音が聞こえた。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


続きが気になりましたら、ブックマークで応援していただけると非常に励みになります! ぜひ、よろしくお願いします!

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