ep45 子どもは帰るお時間です
当夜は詩織に問いかけてから、彼女の顔色が悪いことに気付いた。そしてそれは図星をつかれたからだと考えた。
純に口を塞がれながらも詩織からは視線を外さない。
詩織が何かを口にしようとした瞬間、1つの声が屋敷に響いた。
「詩織ちゃん、大丈夫? 顔色悪いけど」
「奏さん、どうして……?」
「誘拐事件が自作自演だって判明したからね、風見君だけで話を聞くのも大変でしょ?」
室内にスーツを着た女性が入ってきた。しおりを心配そうに見ているため、知り合いだろうか? 当夜は不思議そうに女性を見る。
「天宮ちゃん!? もしかして中原さんも来ていたりするんすか!?」
風見が驚いた様に奏に近づく。奏は室内の様子を見回してその空気の重さに気付いたのか首を傾げた。
「中原さんも来てるわよ。今、エントランスにいた人達に事情を聞いてる。……それより何かあったの? 異様な雰囲気だけど」
「えっと……それはすっね……」
当然の奏の疑問に風見の言葉が詰まった。当夜からは風見の背中しか見えないが、顔が少しそれ、視線を奏から外している様だ。さっきまでと話し方が違うなと不思議に思いながらも純に口を抑えられ、体の自由を奪われているため当夜は見てることしかできない。
「来宮博士がここにいる人達に能力者についてを語ってしまったんですよ。俺達も知らない独自解釈も含めて」
「独自解釈とは心外だ。裏付けはまだ取れていないが、私は確信した上で話している」
瑞稀の発言に来宮は心外だと言いながら楽しそうに様子を伺っている。ソファから立たずに、肘掛けに肘を乗せ、見守る体制に入っている。向かいに座る翼も今は口を挟む気がない様だ。
空気に飲まれたのか純の体から少し力が抜ける。それに気づき当夜は彼の拘束から抜け出した。
しかし、流石の当夜も口を挟める空気じゃないことは察した。場の空気がピリッとしており、喉が乾燥する感じがした。
「瑞稀、もう大丈夫だから」
そんな空気の中詩織が瑞稀に声をかけた。顔色はまだ悪いが自力で立っていられるぐらいには回復した様だ。
詩織は決意を決めた瞳で当夜の瞳を射抜く。
「隠していることなんて、ない。それにあったとしても結城には関係ないこと」
「……なんだと」
一触即発な雰囲気が2人の間を駆け巡る。しかしそれは第三者の声でかき消えた。
「もう遅い。色々思うところはあるだろうが、子供は帰れ」
「中原さん……」
中原と呼ばれた中年の男が室内に入ってくる。スーツはくたびれており疲れた様子を感じさせる。当夜は窓の外を見た。すでに月明かりが周りを照らしている。
「やばい、寮の門限!!」
「大丈夫だよ、結城君。如月先輩には遅くなること伝えて、夕食は取っておいてもらえる様にしてあるよ」
「流石、九条!」
寮の門限を気にするとすぐに翼が安心してといつもの笑顔で教えてくれる。和希に怒られる心配がなくなり、安堵の息をこぼす。隣では純も安心している様子で翼を拝んでいた。
「まあ、そういうことだ。風見、ここはあとは俺が引き継ぐから家まで送っていってやれ」
「……わかったっす」
中原の指示にやや不服そうに風見は従う。
「詩織ちゃん達は私が責任を持って送っていくわ」
「ありがとうございます、奏さん」
奏に瑞稀がお礼を言う。部屋の空気が解散の流れになる。そんな中、まだ青ざめた様子の詩織が、声を上げる。
「奏さん、月詠神社にお願いします。今日のお役目がまだなので」
「でも、そんな顔色で……」
「先代から言われているんです。何があってもお役目に穴を開けちゃいけない。自分の体調よりもお役目を最優先で考えてって」
震える声で詩織は続ける。
「穴を開けたら何か島にとって良くないことが起きる気がするんです。だからお願いします」
震える体を抑えながら奏に頭を下げる。その様子に当夜は先ほど詰め寄った事を少し反省した。しかし、謝る気はなかった。
「わかったわ」
奏が肯定すると詩織は安心した様に息を吐く。そして詩織達3人はその場をすぐに後にした。
「逃げられたか」
「博士!!」
詫びれた様子もなく言う来宮に風見は思わずと言う様に怒鳴る。しかし来宮はどこ吹く風だ。その様子にため息をつき、風見は当夜達に向き直る。
「とりあえず帰るぞ、ガキども。流星の第二寮でよかったな?」
風見はそう確認すると今度は中原を見た。
「ガキども送ったらまた戻ってくるんで、先に解散しないで下さいよ?」
中原に釘を刺す様にして、当夜達に車まで戻る様に指示する。翼は不服そうな様子だが、渋々従うようだ。純に急かされる様に当夜も屋敷を後にした。
そして寮まで送り届けると風見は宣言通りに戻っていく。寮に入ると、和希が待っていた。しかし翼の連絡があったからか怒られる事なく、そのまま夕食にありつけた。
純と一緒に翼に感謝をし、食後はそのまま解散になる。
ベッドに入り、今日の出来事を当夜は振り返る。あまりに沢山のことがあったが、ほとんど理解は追いつかなかった。しかしこれで誘拐事件は終わった。車の運転手にも危険運転のことは謝られた。万事解決だ。そう思い寝ようとした時に当夜は気付いた。
(そもそもの、元凶の犯人は誰なんだ? )
誘拐事件は自作自演だった。しかし、その原因となったものはまだ何も解決していない。ここからは警察の仕事だ。しかし、本当に、それでいいのだろうか。
部屋での出来事をどうするかは大人達が話し合って、明日結論が言い渡される事になっている。それまで今日の出来事は他言無用と帰りの車で耳にタコが出来るほど風見に言われた。
何か、大切な事を見逃している気がする。そんな事を思いながら当夜は眠りについたのだった。
♢♢♢♢
暗闇の中、一つの影が焦った様子で電話をしていた。
「待ってくれ、それは約束が違う。俺はあんたが島から出してくれるって言うから"サーカス"を裏切ったんだぞ!? 4月のシージャックの情報だって流した!! なのに何でだ」
『なんでだ? それはこちらの台詞だ。能力者をさらに取り締まる為に、こちらの指定した能力者を暴走させる様に伝えたはずだが? 誰一人暴走せずに1ヶ月も立っているじゃないか』
電話口からはボイスチェンジャーで変えたと思われる声が流暢に流れてくる。
「だから、俺は言われた通りに接触して波動を当てている! あんたの渡した機械が壊れていたんじゃないのか!?」
『君に渡した機械は実験して性能は確認されている。それはない』
「なら、あんたの計画がバレていたんだ!」
『君以外にこの計画に協力しているものの記憶はこちらの手のもので操作している。バラしたと言うなら君しかいないが?』
「俺がバラすわけないだろ! この島から出れる確率が減るのになんでそんな事をするんだ」
『だから、私もそこは疑問に感じていた。しかし、今日上手くいかなければこの話は白紙だと話していただろ? 残念だが、この箱庭で一生を過ごすといい』
「ふざけるな!!」
影が電話口に怒鳴る。そしてその続きを口にする前に、電話は切れる。その画面を見つめ、影はすぐに掛け直す。
『この電話は使われていないか、現在電源が入っておりません』
先程とは違う機械音声がスピーカーから流れてるくる。本当に相手から切られたのだ。
「ふざけるな!」
影は持っていた携帯を床に投げつける。そして、親指の爪を噛みながら独り言をぶつぶつと言い始める。
「俺は悪くない、俺は悪くない……」
しばらくその状態が続くと不意に影は何かを思い出した様に顔を上げた。
「そうだ、月詠の巫女。あいつが悪いんだ。後悔させてやる。俺はこの島から出るんだ……!!」
追い詰められた影は八つ当たりをする人物を決めた。どこか狂気に満ちた血走った目を走らせながら影は計画を立てる。
影は自分が島から脱出する事しか考えていなかった。
そして、夜は更けて朝が来る。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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