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ep43 翼の想い

 玄関ホールに怒声が響く。当夜の周りに集まっていた詩織達は驚いて音の方を見る。

 そこにはドスドスと明らかに怒りの沸点が超えている様子で近づいて来る風見がいた。流石の当夜もやばいと思った。また近くにいた翼はその様子を見てニコニコと普段通り笑っており、さらに恐怖を掻き立てる。

 翼の隣で朗らかに笑っていた零は風見の姿を見つけると嬉しそうにしている。


「あれ? 兄ちゃん」

「あれ、兄ちゃんじゃねぇ! 零お前はなんでガキどもをさらっと中に入れているというか、何普通に出てるんだよ!!」

「インターフォン鳴ったなーって思ったら翼がいたから、つい」

「ついじゃねぇよ!! お前散々心配かけてきた理由を忘れたのか!!」

「そんな事ないよ? でも翼だし」

「前々から言ってるが翼だからは言い訳になんないからな!」

「嘘だー」


 軽快に始まった兄弟喧嘩に当夜達は唖然とする。自分が言うのもなんだが、今この状態でする事か? と思ってしまった。


「ねー、当たり前の様に兄弟喧嘩で私の名前を出さないでくださーい」


 慣れている様子で翼は当夜の隣から移動して、兄弟喧嘩の間に入る。そして風見の背広の襟の部分を触り、何かを取るとそれを風見に見せた。


「ごめんね、風見さん。出来心でほとんど全て聞かせてらもらったんだ」


 盗聴器の小型の送信機を見せながら翼は不敵に笑った。その表情は悪いと思っている様には当夜は見えなかった。彼女の発言を聞き、風見の顔色が悪くなる。


「ほとんど全てって、まさかーー」

「ねぇ、能力者って何? そんなフィクションみたいな存在がこの世に本当にいるの? もしかして零先輩もそうなの?」


 翼は言いたい事を全て言った様子だった。そして、真剣な眼差しで風見を見据える。その回答は当夜も気になる事だったので固唾を飲んで見守る。純は何かを察したかの様に両目を瞑って耳を塞いでいた。そんな事してても、声は聞こえるのになと当夜はその様子を見て思う。


「……はぁー」


 しばらくの沈黙が広い玄関ホールを支配する。それを破ったのは風見の盛大なため息だった。


「お察しの通りだが、これは秘匿される事だ。そう簡単には教えるわけにはいかない。いいか、お前らは何も聞いていない。普段通りに生きたいなら、今日のことは全て忘れろ」

「結城君達は知らないけど、私がそれで納得しないことは風見さん、よく知ってるよね?」

「悪いが翼、こればかりはお前の脅しに折れてはやれねぇ」


 頑なな風見に翼が視線を逸らす。諦めたかと風見が小さく息を吐くのが見えた。当夜は翼が折れるのは意外だなぁと思っていると、翼がいきなり方向転換をして、先程風見が出てきた扉が開けっぱなしになっていた部屋へと向かう。

 当夜の前を通った翼の表情はいつになく真剣で、思わず隣にいた純と顔を見合わせた。



「え?」


 突然の行動にその場にいた全員が不思議そうに翼を見つめて、その動向を見守っていた。だからこそ、すぐには止めれなかったのだ。


「来宮博士って貴方ですよね。能力者について詳しく教えてください!」

「ああ、いいぞ」


  室内からそんなやり取りが聞こえてくる。すぐに風見の顔色が真っ青になり、翼を追って、玄関ホールから部屋へと戻っていく。取り残された当夜達は何が起こったか一瞬分からずに固まった。


「何聞いてんだ、翼!! そして博士も何当たり前の様に教えようとしてやがる」

「おー、チャラ男は作ってると思っていたが、本性はこうだったか」

「冷静に分析すんのやめろ! ってこら翼!! さらっと椅子に座って聞く体制に入るんじゃない。博士、話すんじゃねぇぞ!?」

「私に命令するな。それにここまできたんだ。話してもいいだろ。問題があるなら、さっき一緒に入ってきた月詠達がいつもの手続きを踏んで記憶操作を行うだろうしな。カメラで見てたが来てるんだろ?」

「記憶操作って言っても完璧に消せるわけじゃねぇ、何かのきっかけで思い出す可能性があるんだ! 余計な情報を渡すな!」


 部屋の中からマイペースな女性の声と風見の怒鳴り声が響いてくる。当夜達は顔を見合わせたが、風見の様子から翼の暴走は止めた方がいいのではないかとお互いに思ったのが通じ合い、部屋へと向かった。




 ♢♢♢♢




 近くで風見が必死に止めようとしているのを聞きながら翼は冷静に周りを見渡す。来宮は話す意思がある様子だし、これでやっと中学からの謎がわかると思った。


 もともと翼は御影島に来る予定はなかった。小学校を卒業し、地元の中学にそのまま進級するはずだった。しかし、3月末に両親が弟と一緒に御影島に移住するといきなり言われた。翼は本島に居たかったらそのまま親戚の家で暮らせばいいと悲しそうな顔をした両親に言われたのだ。そして弟の泣くのを堪えている顔はいまだに脳裏に焼き付いている。


 家族と離れる事は嫌だった。だから御影島について来た。そして両親や弟が意図的に翼と弟の距離を離そうとしている事に気づいた。聞いても教えてくれず、島の裏側にも片足を突っ込んで調べるも理由まで辿り着けなかった。

 ただ一度だけ弟が「もう二度とこの島から出られない」と悲しそうについ溢れたと言う様な独り言を聞いた。


(私は弟にそんな思いも、悲しい顔も二度とさせたくない)


 近くで風見の必死に止める声が聞こえる。思考の海に飛び込んでいた意識が一度戻る。


「翼、戻れなくなる。今すぐ諦めろ」


 真剣な瞳で肩を揺すってくる風見に内心で翼は謝る。


(ごめんね、風見さん。でもこれだけは何があっても私は譲ることができない。)


 そして翼はまた思考の海へと飛び込む。その際に来宮が興味深そうに観察している事に気付く。しかし、今はどうでもいい。


 車内での出来事を思い出す。盗聴器から漏れ聞いた話を頭の中で整理し、自分の最愛の弟も能力者なのではと疑いが生まれたのだ。その場合、少しでも弟を守る為に情報が欲しい。他の何を敵に回しても、弟は、家族は守る。それが翼が昔から変えずにいる偽りのない本音だった。


 その為になら、悪にでも何にでもなってやる。翼は止める風見を無視して、来宮を見据える。

 当夜達が不安そうに部屋の扉から中の様子を伺っているのが視界の隅で捉えた。


(ごめんね、結城君と三好君。もしかしたら大変な事に巻き込んでしまうかもしれない)


 心の中でそう謝りながらも翼は自分の衝動を止める事はしなかった。


「多分、私は知らないといけないんだと思うんです。だから、全て教えてください」

「翼!!」



 近くで怒る風見の声を聞きながら前に座る来宮がニヤリと笑った様な気がした。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


続きが気になりましたら、ブックマークで応援していただけると非常に励みになります! ぜひ、よろしくお願いします!

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