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ep40 闇夜の取引

 時は1ヶ月以上遡る。

 研究所の窓からは月の光が入り込んでおり、キーボードを叩く音だけが室内に響いていた。

 薄暗闇の中、いつものように研究に没頭していた来宮の元に1本の非通知設定の電話が入った。訝しみながらも不機嫌さを隠さずに電話に出る。


『来宮眞琴博士だな』


 電話口からは低く中性的な声が響く。それに対して来宮は素っ気なく返す。


「だとしたらなんだ」

『いや、研究熱心な博士に一つ、集中できなくなる情報をあげようと思ってな』


 電話口の声はそこで一度きり、楽しそうな声で続ける。


『君の現在の研究内容である能力者の暴走のメカニズム、そのデータを島の上層部が盗み、意図的に能力者を暴走させる計画を立ててると言ったらどうする?』

「……何故そんな無意味なことをする。能力者の暴走を止めるならわかるが」

『この計画を立てた者は能力者排除派だ。徹底的に管理して周りに危険視させたいのさ。ほら言うだろ? 自分の力じゃどうにもできない者を制御しようとするなら、周りを味方につけ、多数派になるべきだと』

「しかし、能力者は一部の人間以外には秘匿されている。そんな事は許されないだろう」

『普通ならそうだな。だがその首謀者はある事を知り思いついたんだ。"サーカス"の一部に自分が島から出る事しか考えてない層が一定数いる事を』


 電話口の声が言わんとしていることに気づき、珍しく来宮は固唾を飲む。口の水分がなくなり、乾燥していくことに気づく。


「まさかその為だけに利用しようとしてると言うのか?」


 物分かりがいい来宮に機嫌をよくしたのか電話の向こうから笑い声が聞こえる。


『そうだ。自分の言う通りに動けば島から特別に出してやるっていう餌をぶら下げてな。能力者暴走の実行犯は"サーカス"の能力者さ。……奴らが能力者を島から出すわけがないと少し考えればわかることなのにな』


 後半は呆れたように独り言のように呟く。


「それでわざわざ私に連絡した理由は」

『話が早くて助かるよ。なぁ、来宮博士。今の研究結果を持ち逃げしてこちらに来ないか? 能力者の暴走はこちらも困る。商売がやりづらくなるからな』

「何を望む?」

『本来なら金という対価だが、今回はこの先起こるであろう暴走事件の阻止を頼みたい。この事件が起きると確実にこちらの商売があがったりだ』

「金の亡者か」

『ふっ、なんとでも思っておけ』


 お互いに自分のペースで話しながらも会話は噛み合っている。電話の声はそこで一度話を区切ると、さらなる情報を口にした。


『すでに実験で数ヶ月前に一度暴走事件は起きてる。その能力者がたまたま認識阻害の能力で暴走してもそこまで問題にはなっていないがな。まだ暴走状態は解けていないようなのでこちらの手のもので回収して、今は眠っていてもらっているがな』

「私に望むのは、暴走の解除というわけか」

『そういう事だ。そこから失踪する手伝いはこちらで可能だ。こちらにテレポート能力者の伝手がある』


 来宮は淡々と話す電話の相手にこれはすでに決定事項だという事を把握した。しかし、自分の研究のせいで能力者が迫害されるのは寝覚が悪い。来宮はこの提案に乗ることにした。


「わかった。今から研究内容のデータを移して、研究所の物は破棄する。1時間ほどしたら終わる予定だ」

『なるほど、なら1時間後にそちらに向かわせよう』

「先程も思ったが面白い事を言うな。この研究所の場所は秘匿されている。私も場所を漏らす気はないぞ」

『何故この電話番号を知ってると思っている。研究所の位置なんぞ、以前から知っている』


 来宮は内心で舌打ちした。すでに彼女は電話の相手の手の内にいたということになる。情報の後出しの仕方も上手く、拒否権を許さないやり口に舌を巻いた。


「了解した。協力するのだから名前ぐらい名乗ったらどうだ」

『それもそうだな、君とは長い付き合いになる気がする。ーー吹雪。この島で商売している便利屋のような物と思ってくれ』


 これが行方不明事件ーー連続能力者誘拐事件の始まりであり、来宮と吹雪が手を組んだ瞬間だった。




 ♢♢♢♢



 吹雪との協力体制を築いた来宮は別荘地にある吹雪のセーフハウスの一つを借り受けた。そこの寝室には1人の少年がベッドに横たえられていた。


「彼が実験された能力者だ。解除できそうか?」

「少し時間をくれ。それにしてもここの研究環境、私を巻き込む為に整えたのか?」

「研究熱心な博士を研究所から離すんだ。これぐらいはさせてもらわないといけないだろ?」


 怪しく笑う吹雪に来宮は興味なさそうに寝ている少年の様子を確認していく。


「暴走のメカニズムは脳波に影響を与えることにより起こる。だから脳波を戻せば大丈夫と仮説しているが、ほとんど人体実験になってしまうぞ」

「被害が拡大するよりはマシだろ」


 吹雪は言い捨てる。責任を取るつもりはない様子を確認し来宮はどうしたものかと考える。すると吹雪が口を開いた


「それに能力者の分析で貴方の右に出る物はいない。大丈夫だろう」


 その発言にはまだ会って1日も経っていない来宮への信頼が宿っていた。


「わかった。私の力の限りを尽くそう」


 そして数日かけて来宮は能力暴走の解除方法を見つけた。解除後に少年が目覚めたのは3日後だった。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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