ep35 日本であって日本じゃない
中原から詩織達の面倒を見ながら白いワゴン車を探すことになった風見は、次の日の午後から子供たちと合流して当夜達が車を見たという現場にきていた。
「そういえば、結城達はこの島に来たばかりだったよな?」
翼がいるからか、それとも子どもたちの安全を預かっているからなのか風見はいつもと違う真剣な口調で当夜達に尋ねる。2人はその言葉にこくりと首を縦に振る。
「本来だったら知る必要もないが、今回の事件何が起きるかわからないから、この島が治外法権の島と言われている理由の一つを教える。別に隠されているわけじゃねぇが、他言無用で頼むぞ」
真剣な表情の風見に当夜達は固唾を飲んだ。そして頷いたのを確認すると風見は1つの情報を口にした。今まで日本で生きてきて考えられない一言を。
「この島に銃刀法はねぇ。持とうと思えば誰でも銃や刀が持てる。命の危険が本島よりもある。俺の指示には何があっても従え、それができないなら俺はお前らを守るために捜査をさせないように動く」
風見の言葉の意味を最初当夜達はわからなかった。日常生活で銃や刀の話が出ることはまずない。しかし風見の表情は冗談を言っているようには見えない。それに底知れぬ恐怖を感じる。しかし詩織も瑞稀も、翼さえもあたりまえ手間あるように話を聞いていた。
「怖いだろ? 俺は降りてもらっても構わないぜ」
風見は2人の様子を見て諭すように伝える。翼は無理でもこの2人は巻き込まなくても済むようにそんな祈りのようなものがこもっている。
「でも、月詠達は関わるんだろ!? 危険だとわかっていても、なら俺も事故りかけたんだ! 探す理由はある」
しかし風見のそんな祈りも虚しく、当夜はそう食ってかかる。隣にいる純は顔色は悪いが、当夜の言葉に頷く。
「危ない事をしてなくても、巻き込まれる可能性は低いけどあります。この島で生活するのは本島にいた時と違う。日本だけど日本じゃないって思わないといけない事が分かっただけでもこれに協力した甲斐があります。当夜は投げ出すとは思わない。最後まで手伝わせてください」
頭を下げる純に翼が笑う。
「流石、結城君に振り回されてるだけあって肝が座ってるね」
「翼……、お前は楽しそうにするな」
「えっと、なんで九条さんは銃刀法がない事に驚いていないの?」
楽しそうな翼に風見が呆れる。そんな様子を見ながら詩織が疑問を口にした。この島出身者じゃないのに当たり前に受け入れているのが信じられなかった。
「え? いろいろあってねー。売ってる店も知ってたりする」
詩織の疑問にさらっと答える翼。それに驚いたのは風見だ。
「お前、また軽い気持ちで裏に足突っ込んでるのか!!」
「そんなんじゃないですって、偶然ですよ、偶然」
怒鳴る風見を鬱陶しそうに翼は笑いながら言う。詫びれている様子は見られない。風見はため息をつき、翼の相手を一度諦める。
「わかった。なら俺の言うことを聞けるな?」
当夜と純は頷く。すると風見は詩織と瑞稀をみる。
「天宮ちゃんがどんな方針だったか知らないけど、今回は俺の指示に従う、それでいいな?」
有無を言わさない様子に、2人は頷く。
それからしばらく聞き込み等をしたが進展なく、明日の放課後に風見が校門まで迎えに行くことを決め、解散となる。当夜と純と翼、詩織と瑞稀はそれぞれ帰路についた。
♢♢♢♢
太陽が沈み始め、青空は茜色に染まろうとしている。寮へと向かいながら当夜は思わずと言ったように吐息をこぼす。
「銃刀法がないか。今まで島に来ても普通に日本で治外法権ってなんだろうって思ってたけど、法が違うんだな」
「そうだね、戦国時代ぐらいから独自の文化気づいていたみたいで、戦争中も日本にも外国にも組せず中立を保っていたから、敗戦後の命令も突っぱねたって聞いたことあるよ」
当夜の呟きに翼が知ってる事を伝える。
「なんでそんなにもいろいろ知ってるの、九条さん」
「んー? まぁ中学は色々やんちゃしてて、色んなところに立ち入ってたからかな? 詳しくは聞かないでくれると嬉しいな」
純の疑問に有無を言わさない雰囲気で笑う翼。純は背筋に冷たい何かを感じ何も言えなくなる。しばらく3人の間に沈黙が落ちる。風が3人を追い越すように吹いていく。
「まぁ、とりあえず明日何かヒントだけでも見つかるといいよな!」
沈黙を破ったのは当夜だった。空を見ながら笑顔で言う。
「最初は月詠への当てつけで参加したけど、俺たちの行動で守れる人がいるかも知れないって気づいたらやる気が満ちてきてさ。絶対に見つけてやろうな!」
決意を込めた声に純と翼は目を見合わせてから頷いたのだった。
♢♢♢♢
吹雪はセーフハウスの1つの椅子に座ってタブレットを弄っていた。すると部屋の扉が開き、1人の女性が入ってくる。
「吹雪、次のターゲットは誰だ?」
「まだ決まってないみたいだな。明日の決行は決まってるみたいだからわかったら伝えるよ」
女性の問いに吹雪は笑いながらタブレットを目の前の机に置く。そして椅子のキャスターを回して、女性の方へと向き直る。
「金に糸目はつけない。早く解決しろ」
「事件解決はこちらの仕事じゃない、警察に任せるんだな」
「そう言って1ヶ月経っている、そろそろ切りをつけたい」
「安心しろ、警察もこの事件のからくりに気づき始めている。もうすぐこの件は解決するさ」
全てを見通しているかのように吹雪はそう言い笑う。
「君の娯楽に興味はない。私は早く本職に戻りたいんだ。とにかく早く終わらせろ」
女性はそう言うと部屋を出ていく。
「せっかちだな」
1人になった部屋で吹雪は笑う。そして、タブレットの横にあるチェス盤の上の白のキングを手に取り、手の中で遊ばせる
「これなら、明日か明後日でチェックメイトかな?」
そして楽しそうに笑いながら、キングをチェス盤に戻すのだった。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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