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ぱんどら  作者: 星川宙
第二章ー騒動ー
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19/23

魔女と取り引き

 コツン、コツンと空間に足音が響く。2つの人影が石造りの階段を降りている。


「足下気をつけろよ、詩織」

「わかってるよ、それくらい」


 詩織と瑞稀は家の地下にある隠し部屋へ向かうために階段を降りていた。瑞稀が手にしているランプ以外に光源はなく、2人は慎重にしかし、なれた足取りで薄暗い階段を降りる。


「今は奏さんが話を聞いているんだよな?」

「うん」


 瑞稀の問いに詩織は小さく頷いた。本日の昼に起きた港の事件。奏に連れられて港まで行った3人は帰り道に、黒い帽子に黒と紫のゴスロリを纏う女が接触してきた。彼女は今回の事件に関しての情報を持っていると取引を持ちかけてきた。奏は少し考えてから詩織達の家の地下の隠し部屋に案内することにし、女に目隠しをし、詩織達の家とは別の入口から隠し部屋に案内し話を聞くことにした。詩織達に謝罪し、女を車に乗せて去っていった。家に待機しているとそんな奏から連絡があり、2人は話を聞くために、隠し部屋に向かっていた。


「唯華は今日は帰ってこないって連絡あったんだよな?」

「そうだよ。昨日探されたのが相当嫌だったみたいでまだ、早い時間に連絡きたよね。だからこそ私達も今、あそこに向かってるんでしょ?」

「……そうだったな。でもなんか唯華を騙しているような気が」

「唯華を巻き込むわけにはいかないよ」


 瑞稀の言葉に詩織は言葉の続きを遮って言い放つ。


「わかってるって"異能力者"関係なんかに唯華を巻き込む気もない。ただ……なんかモヤモヤすんだよ」


 小さくそう呟きながら瑞稀は複雑そうな顔をした。


「"異能力者"……か」


 詩織はそんな瑞稀の様子を気にせず、独り言のように呟く。側から聞くと非現実的な単語だが、詩織は真剣な表情になっていく。それはこの島がある理由であり、月詠の巫女の存在意義の1つでもあるのだ。

 2人の間から自然と会話が消え、黙々と階段を降りた。


 それからしばらくして、2人は目的の場所に着く。気を引き締めて、お互いに顔を見合わせる。そして目の前にある重そうな扉をゆっくりと開けた。


「遅かったね。何かあった?」


 2人が扉を潜り中に入ると奏が声をかけてきた。


「何もなかったです。それより何かわかりましたか?」

「それが、全然」


 詩織の問いにお手上げよと両手を上げて肩をすくめる。


「月詠の巫女に伝えるの一点張りで何も教えてくれないの。ごめんね、呼び出して」


 申し訳なさそうに奏は詩織達に頭を下げる。


「大丈夫です。私も気になっていましたから」


 そう言って、奏に近づく。瑞稀は近くの壁に背中を預けて、2人のやり取りを眺める。


「それが私のーー月詠の存在意義ですから」

「……無理しなくていいのよ?」

「無理はしてません、昔から……」

「……」


 (まだ15歳なのに自分が無理してることも知らないなんて)


 まるで人柱のようだと奏は思った。それを受け入れている詩織にどこかで罪悪感を覚える。それと同時にそれをわかりながらも補佐として巻き込んでいる自分は大罪人だなと思う。


「奏さん?」


 無言になった奏に詩織は心配そうに声をかけた。


「あっ、ごめんね」


 詩織の呼びかけに奏はハッとしたように目を瞬かせた。そして謝まりながらポケットから鍵を取り出す。それに気づいて瑞稀は壁から背中を離して奏の方に近づく。


 そして3人は部屋の奥にある扉に向かい、鍵を開けて中に入る。


「あら、やっと来たのね」


 部屋に入るとクスクスと女の笑い声が響いた。部屋の中央にある机の前に帽子を取った状態で座ったゴスロリの女は、自分より年上の子ども達に笑いかけた。


「自分の状況がわかっているのか?」

「? 面白いことを言うのね。私は情報提供者よ。こんな薄暗いところに犯罪者みたいに閉じ込められていても文句を言ってないことをありがたく思って欲しいわ」


 呆れたように言う瑞稀に意志のこもった瞳で女は返す。その声や表情には余裕のようなものがある。そして彼女の視線が詩織に向いた。そして優しく微笑む。


「先程振りかしら、月詠の巫女様? 貴女に話があったのに怖い警察だけになってどうしようかと思ったわ」


 奏を微かに睨みながら女は机に両肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せる。


「まず、約束して頂きます。情報を与える代わりに私の自由を保障して下さい」

「それはあんたの情報次第だ」

「あら? それなら私は黙秘しますよ? それに今回の事件を起こした犯人に関しては私達は同じ立場ですよ? 今回騒ぎを起こした"サーカス"を私は認めてません」


 女は真剣にそう言う。何かを感じ取った詩織は奏を見る。奏は詩織の視線に頷く。それを見て詩織は口を開いた。


「わかりました。今回に限り、情報提供であたなの自由を約束しましょう」

「詩織!!」

「瑞稀、私達は情報が少なすぎる。対策を取るためにもこの取り引きは有効だよ。それに今回はだから。今度何かやったらその時は遠慮なく警察に突き出そう」


 詩織がそう言うと渋々と言う形で瑞稀は納得する。


「あらっ、賢い選択ね。なら私もそれに敬意を表して一つ教えましょうか。私は本来の"サーカス"の創設メンバーのひとりよ」


 女は笑いながら何の躊躇いもなく伝える。それに対して3人は驚く。


「どういう事? "サーカス"は内部分裂しているの?」

「そうなるわね。私や創設者はただ能力者の自由を目指しているだけ。自らの自由のために、他者を犠牲にするのは違うわ」


 女はそう言って忌々しそうに吐き捨てる。


「今回問題を起こしたのは島の外に出る事しか考えてない人達。同じ"サーカス(仲間)"だと思って欲しくないわ。確かに間違っているのは私達ではなく、間違っているのはこの国の決まりですもの」


 "サーカス"は御影島に裏から反旗を翻している組織だ。能力者の存在は国のーーそして島の秘密事項。そのため表には公表できない。能力者の存在を隠すため、関連機関は派手に動くことができない。それを理解している上で、一般人には被害を出さないように計画を立てている天才が"サーカス"にはいるのだ。それが"サーカス"の創始者である人間だ。


 そんな相手を詩織達はもう2年ほど探している。表立った被害はあまりないのだが、"月詠"の仕事の最重要事項は島の秩序を守ることの為、無視することは出来ない。


「貴女が"サーカス"のメンバーだってのはわかった。でも私達が間違っている? 決まりがなくなれば困るのは貴女達でしょ?」


 詩織は女を睨みつけながら言い放った。それに疑問を覚えたことはあった。しかし、この島を無くすわけにはいかないのだ。


「……詩織、落ち着け」


 そんな詩織の様子を見て、瑞稀は冷静に言う。詩織に任せていた奏も詩織の肩に手を置き首を横に振る。

 詩織は納得がいかない表情を隠しもせずに、黙った。


「それで、シージャックの件での情報提供ということは、仲間を売ってくれるのかしら」


 詩織から主導権を交代し、奏は微笑みながら尋ねる。それに対して女は笑う。


「私は仲間を売る気はありませんよ」


 そして「だけど……」と勿体ぶりながら話を進める。

 話の主導権を握ろうとするように笑みを浮かべる。


「仲間ではなく、この島で暗躍している人間がいるの。その情報を伝えるわ。今回のシージャック犯に情報を売った元凶です」


 3人は驚いたように目を見開く。そして奏は続きを促すように女を見る。


「確かに私達は貴女方にとって"悪"の行為を行ってきたかもしれないわ。でも私達は"正しい"と思ってやってるの。自分達の信念を貫いてる。でもその人物は自分のやってることが"正しくない"という事を理解した上で金儲けでやっている。私達のリーダーよりも貴女の言う秩序を乱しているのでは?」


 余裕のある微笑みを浮かべ女は詩織達を確認するように見る。その態度に詩織は反論しようと口を開きかけるが、瑞稀が片手で制する。

 そして女の方を緊張が帯びた瞳で睨みつけた。


「2人とも、深呼吸。とりあえず落ち着きましょ?」


 そんな2人に笑いかけながら奏は1歩、女へと近づいた。


「確かに貴女の言っていることはわかります」

「なっ……!?」

「奏さん……っ!!」


 詩織は目を見開いて女から奏へと、視線を移す。奏はそんな詩織に大丈夫の意味を込めて微笑むと何か言おうと口を開いた瑞稀に、小さく自分の唇に人差し指を当て、任せてとウィンクする。

 その様子を女は口元を微かに緩めながら見ていた。


「よかったです。貴女が話のわかる人のようで」

「それはよかったね」


 奏は女に穏やかに微笑む。


「なら教えてもらいましょうか。交換条件だけど、もしまた"サーカス"として何かをした場合は容赦しないわ」

「……それは安心して。私はもう|あの"サーカス"《・・・・・・・・》には関わるつもりはないの。それでも仲間だった時期があるから、"サーカス"については教えませんが……」


 奏の探るような瞳を、真っ向から見つめ返す。


「それでは教えて頂きましょうか」 

 奏がそう切り出すと、女は詩織達の方を見て微笑むと淡々とその人物について語り始めた。


「一部では都市伝説のように噂されている存在。お金さえ払えば何でもやる"何でも屋"または"便利屋"通称ーー吹雪」


 そう切り出して女は自分の知っている事を静かに語った。

 そして語り終えると奏の手により再度目隠しの元外へと連れ出され、外へと解放されたのだった。

 解放され、奏が近くから離れたのを確認し、女は空を仰ぐ。


「言われた通りにやりましたわ、吹雪。約束通りリーダーの無事を保証して下さいますよね」


 その呟きは大切な人を想う、心配そうな声音で紡がれる。彼女の近くを風が吹く。そして女はその場を後にした。

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