憂鬱入学式
流星学園高等部入学式の日。当夜は校門の前でため息をついた。
「学校……はじまるのか」
「……お前、本当に何しにこの島に来たんだ?」
重々しく口を開く当夜に純は呆れたように呟く。こいつの勉強嫌いは筋金入りか。
相変わらずだなと思いつつも変わらない幼馴染に呆れを通り越して感心する。そして、勉強嫌いの当夜に勉強をーーしかも自主的にーーされた御影島の影響力に改めて驚かされる。
そんな事を考えながら当夜を見て自然とため息をつく。そこには気だるそうに動こうとしない当夜がいた。
今朝も純が当夜を寮から校門まで連れてくる事にどれだけ苦労した事か。
「あっ、三好君に結城君、おはよー」
そんな2人の背中に明るい声がかけられた。振り返ると片手を上げて笑いかけてくる翼がいた。
「2人とも早いね」
そんな事を言いながら、翼は当夜達に近づいてくる。
「はよ……」
「おはよ。早いのはまぁ、色々あってな」
近づいてきた翼に純は遠い目をしながら答える。当夜は力なくも一応挨拶は返す。
「……どうしたの、2人共? 元気ないみたいだけど、特に結城くんがさ。心なしか三好君は疲れているように見えるし……」
一体何があったのだろうか。翼の中に好奇心が沸々と湧いてきた。
「とりあえず当夜が元気ないのは気にしなくていいよ。ただ単にこいつは学校ってより、勉強が嫌いなだけ。気にするだけ時間の無駄だよ」
そんな翼の心中を察してか、純は当夜を指さしながら言う。そしてそのまま今朝の出来事を翼に語る。
「いやさ、今日は入学式だけだってのにこのバカはズル休みしようとしてさ、それを無理矢理連れてきたら、下見に来た時の2倍登校に時間がかかってさ……」
「それは大変だったね」
純の話を聞き、翼は流石に呆れた。そして純に動揺する。これを笑い事で片付けてしまったらあまりにも彼が不憫だ。
これから彼は毎日こんな事をしなくてはならないのだろう。そう思うと笑えない。流石にそこまで翼は酷い人間ではない。
ふと一瞬だけ親友の姿が頭をよぎったがすぐに否定する。流石の唯華でもそこまで非常じゃないはず。そんな事を考えている翼に純は声をかける。
「九条さん、このバカは放置していいよ。ここまで来たんだ、そのうち諦めて来るだろ……こいつ寮から学校への道まだ覚えてないから、帰れないし」
「あんなに島を散策してたのに? ……なんか色々大変そうだね」
そこで言葉を切ると、翼は明るい声で提案した。
「さてと、とりあえずクラス発表見に行かない?」
「それもそうだね。いつまでもここにいる訳には行かないし」
純はそれに同意して、一応はと当夜に確認する。
「お前はどうする?」
「……純、先に行ってろ、俺は……」
「……九条さん、あのバカは無視して行こうか」
当夜の返答を聞き、純は大袈裟にため息をつく。そして翼にそう言うと校門を潜り、歩いていく。
「えっ!? ……って三好君!?」
何の迷いもなく見捨てた。あまりにもあっさりと言う純に翼は呆気にとられる。しかし当夜の様子を見ると少し困った顔をして純の後を追う。
2人に置いて行かれた当夜はしばらく悩むように腕を組んでいたが、しばらくすると何かを決心したように顔を上げる。
(気は乗らないけどさ……)
そんな事を思いながら校門の方に視線を向ける。すると見覚えのある人物が当夜の視界を横切った。
「山吹!!」
「……?」
当夜はその人物の名を呼んだ。名前を呼ばれた人物は不思議そうに振り返った。まるで自分に声がかけられたのが不思議でならないような、どこかそんな雰囲気を醸し出していた。
しかし当夜の姿を見つけ、一瞬嫌そうな顔をしたがすぐに表情を作ると唯華は当夜の方に仕方がないというように歩いていった。
「結城もここの学校なんですか?」
「おう、すげぇ偶然だな」
先程までの重苦しい空気が嘘のように一転して当夜は嬉しそうに唯華に笑いかける。
それにより微かに唯華の顔が引き攣る。
(……蒼の不幸体質が移ったのか? それに考えればわかる事だったけど、やっぱり同学年……)
たまたま視界に入ったネクタイの色を見て唯華は内心で吐き捨てる。勿論表情には出さない。唯華はいつも通りの感情を読ませない無機質な笑みを浮かべている。
(にしても、なんかすごく嫌な予感がする……)
その予感はすぐに当たる事になる。
「……時間がありませんし、そろそろ移動しませんか?」
唯華は当夜を見ながら早口で言う。あまり目立つ行動は取りたくない。ただそんな理由で言ったのだが、どうやら当夜には通じなかったようだ。当夜は嬉しそうに笑う。
「そうだな、お前優しいな」
「……」
当夜の言葉に唯華の瞳が動揺で揺れる。
(優しい……? 何を言ってるんだ、こいつは)
あまりにも理解できない言葉に唯華にしては珍しく動揺が隠せない。それはあまりにも自分と正反対の言葉だったから。
「……おーい、山吹? どうしたんだ」
自分の言葉の所為だとは露にも思わず、当夜は俯いて考え込む唯華の顔を覗き込む。
「あっ、すみませ? 。それよりも早く行きましょう」
唯華はハッとしたように顔を上げるとそのままいつもの表情を作り歩き出した。当夜も少し小走りで後に続き、2人はクラス掲示を見るために昇降口へと向かった。




