喧嘩を売ろう
「ーーってわけさ。ちゃんちゃん♪」
ふざけた様子で蒼は港の事件に対してそう締め括った。
昴は驚いたように目を見開いているが、美月と姫は呆れたように頭を抑えている。
「だいたいの状況はわかった。それで蒼、あなたは船で何をやったの?」
「何って別に大した事はやってないって。ただ、操縦室の機械をハッキングして出航できなくしたり、ふらっと人影を見せて動揺を誘ったりしただけだ」
「なっ……なにをやっていらっしゃるの!? バカ蒼」
悪気が全くない様に言う青に対して、姫が声を荒げる。
「とっ、とりあえず姫落ち着いて、ね?」
そんな姫を宥めながら、美月はどうしたものかと考えた。
「安心しなよ。諦めたの確認してちゃんと証拠も残さずに直しておいたからさっ」
どこか得意気に言う蒼に美月はため息をつく。
「そう言う問題じゃないよね?」
「俺の中では、そーゆー問題だ」
堂々と言う蒼に美月は頭が痛くなるのを感じた。
「蒼、いい加減に常識ってものを学んだほうがいいと思いますわ」
「常識? 人によって違う物をわざわざ学ぶだけ時間の無駄だし、無理だろうな」
姫の言葉に満面の笑みで答えながら、蒼は話についていけず固まっている昴に声をかけた。
「日向さん、一応俺が知っている事は全部話したが、何か質問ある?」
「えっ、あっ、いえ大丈夫です。ありがとうございます」
いきなり話を振られた昴は驚いたが、なんとかそう伝えると頭を下げる。
その言動に蒼は一度キョトンとした。そしてすぐに昴に笑いかける。
「まっ、よろしくな、日向さん。っと、みぃさん、俺行くところあるから、出かける。またよろしく!! いずさんにも言っといて」
早口にそう言うと蒼は客間を後にする。嵐の様に現れ去っていった。残された3人はほとんど同時に息を吐く。
「なんか、強烈な方ですね」
蒼が去っていった方向を見ながら、昴は独り言の様に呟く。
「今年度から中学に上がるんだから、もう少し落ち着いてほしいんだけどね」
美月は呆れたように呟く。それを聞き、昴は目を見開く。
「中学生!? 小学校低学年じゃないんですか。!? 確かに行動は大人顔負けな感じはしましたが……」
「身長からそう思うよね。それ、蒼に言うと怒るから心の中にしまって置いくれると嬉しいかな」
美月は昴に苦笑しながら伝える。そんな様子を眺めていた姫が思い出したように1つの事実を告げる。
「日向さん、蒼は貴方の苦手な方の従兄弟にあたりますよ?」
「えっ……えっ!?」
驚いたように昴は目を見開く。
「似なくてもいい性格は似ているのよね」
そんな昴の様子に笑いながら言うと、美月は窓から外を眺める。
「それにしてもひと雨きそうな空模様ね。蒼は大丈夫かな?」
そう呟くと美月は「洗濯物」っと呟いて急いでベランダに向かう。それに続き、スバルも手伝う為にベランダへと歩を進めた。
♢♢♢♢
遠くから雷の落ちる音がした。しかしそれも気にせずに唯華は土砂降りの雨の中、傘もささずに歩いていた。周りには誰もいない。いつもなら賑わっている大通りも急な雨と昼間の事件の為か、人っ子1人見つけることができない。
ただ雨だけが降っている世界。
どこか世界には自分しかいないのではと錯覚させる。そんな中、唯華は特に気にした様子もなく歩く。
「……ついてない」
口内で小さくそう呟きながら。既に急いだところで無意味な程にずぶ濡れは唯華は文句を言いつつも表情は少し柔らかかった。
(ここまでおもいっきり降ってくれると逆に清々しい)
肌に張り付く服がやや不快だがそう考えながら歩いてる唯華の耳に"みゃぁー"と猫の鳴き声が届いた。その声が聞こえた方を見ると雨に濡れた仔猫が電柱の近くで震えていた。周りを見回しても親猫は見つからない。迷子になったのか、捨てられたのか。唯華は何も考えずに仔猫こ方に歩いていく。
「……どうした?」
唯華に気づいた仔猫は「みゃぁー」と力なく鳴く。首輪がないことを確認すると唯華は大事そうに仔猫を抱きかかえる。
「大丈夫」
仔猫を安心させるようにそう言うと、大切そうに仔猫を抱えて唯華は雨宿りできそうな場所を探して視線を左右へと走らす。しかし、近くにそんな場所はない。
「何やってるんだー?」
どうするべきかと唯華が真剣に考えようとした時、後ろから声をかけられる。唯華は仔猫の頭を撫でながら後ろを振り返らずに返事をする。
「別に」
「相変わらずだなぁ」
そこには傘をさしてニコニコと笑っている蒼がいた。
そう言いながら 蒼は傘をさしながら唯華の目の前まで歩いてくる。そこで仔猫の存在に気づき、危うく傘を落としそうになる。
「ゆいが小動物と一緒にいる!? だからこんなに雨が強いのか……!?」
「……私がこいつを見つけたのはついさっきだ。雨が降った後」
呆れたように蒼を見ながら唯華は仔猫を差し出す。
「体力が相当落ちている。私じゃ無理だから後は頼む」
「はぁ!? いや、別にいいけど……。みぃさん達に丸投げするだけだし」
仔猫を器用に片手で抱きながら蒼は少し不服そうに言った。
「自分でやればいいじゃんか、お前知識だけはムカつくほどあるんだしさっ」
「……喧嘩売ってんの?」
蒼の言葉に唯華のこめかみに青筋が浮かぶ。しかし、蒼はそんな様子を見て、口笛を吹いた。
「チビがいなくて雨が降ってなかったらよかったんだけどな」
「……久しぶりだけど、相変わらず、か」
「それはお互い様だろ?」
楽しそうに言う蒼に憐れみを含んだ視線を送る。そして苦笑する。
「まぁいいや、そいつ頼んだ」
そう言って唯華はその場を去ろうとする。
「ゆい、風邪引くかもしれないし、みぃさんの所よって行ったら?」
「年下に心配されるほど柔じゃない。それに、今日はあまり人と関わりたくないんだ」
1度足を止めて振り返る。
そして寂し気な微笑みを蒼に向けた。唯華の急な行動に蒼はキョトンと目を瞬かせた。
「子どもは早く家に帰りな」
唯華は揶揄うように言うと、今度こそ雨に紛れてどこかに行ってしまった。
「……子ども扱いすんなっての」
蒼は小さくつぶやくと盛大に息を吐く。そしてしばらく唯華の背中を見つめていたが「みゃぁ」と力なく子猫が鳴き、存在を思い出し慌てたように視線をずらした。
「俺らは帰るか」
心なしか重くなった空気を打ち消すように首を左右に振ると、居候先に向けて歩き出した。




