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ぱんどら  作者: 星川宙
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第二章ー騒動ー⑥

 "サーカス"の一団は吹雪から聞いた侵入経路を進み、無事に連絡船へとバレずに乗船できた。リーダー格の男は他のメンバーと別れ、1人船の乗船口へと向かう。他のメンバーは2手に分かれ、それぞれ船の中に入っていく。


 リーダーの男は船に乗り込む人々に向け微笑みながら言葉を交わす。そして船内に行くようにそれとなく伝える。すると乗船者達はまるで何かに操られたかのように順番に船内に入り、椅子に座っていく。乗客が全て乗り終わったのを確認すると、船員に笑いかける。すると船員は表情を消して頷き、出稿の準備をしていく。

 男は懐から無線を取り出すと、操舵室に向かった仲間に連絡を入れる。 


「こちらは終わった。そちらはどうだ?」

『リーダー、こちらも制圧は終わりました。全員に寝てもらっています』

「了解。こちらは計画通りに乗客を1箇所に集めた。そちらはすぐに出航を」


 そう伝え、無線を切る。乗客達の様子を確認するように船内に男も入る。しばらくすると甲板から操舵室に向かったのとは別動隊が船内に入ってきた。お互いに情報交換をしながら今後の計画について話し合っていると、操舵室から連絡が入る。


「どうした」


 男はすぐに無線に出ると状況の確認をする。


『……問題が起きました。操舵室のシステムが滅茶苦茶に弄られています。これではすぐに出航する事は難しいです』

「直るか?」

『すぐには難しいですが時間をかければなんとかなると思います』

「そうか。それならできるだけ早めに頼む。こちらも対応しよう」


 無線の男が了承を伝えるのを聞き、リーダー格の男は無線を切る。そして仲間達に情報を共有する。


「……情報と違うな」


 男は冷静にそう呟く。


「あの何でも屋は全てを知っているかと思ったが、やはりそんな人間はいないのか……」

「リーダー、やはりあんな奴は信用できないよ。あんな感情のない人形みたいな奴の言うことなんざ」


 男の隣にいた中心メンバーの1人である女は吹雪に不信感を持っており、それを迷わずに口にする。


「そう言うな、それに感情がないって事は私情を持ち込まれる心配がないとも取れるだろう」


 そう仲間を宥めながら、リーダーは携帯を取り出し、どこかに電話をかけ始める。しかしすぐに携帯をポケットにしまう。


「どうかしたの?」

「何でも屋と連絡がとれない」

「!? あいつ、やっぱりあたし達を嵌めたのよ!!」


 リーダーの言葉を聞き、女は癇癪を起こしたように声を荒げる。


「落ち着け」


 男はそう言いながら、天井を見上げた。


(予定よりも時間が押している。最悪失敗になる可能性もあるな)


 男は心中で最悪な事態を想像して覚悟を決めた。それからどうすることも出来ず、30分が経過しようとした時、男が慌てたように、リーダーの男の元に駆け寄ってきた。駆け寄ってきた男は港の様子を見張りを担当していた。嫌な予感を覚える。


「大変です、港が警察に囲まれています」


 すると無線にも連絡が入った。


『何者かがシステムに侵入してきて復旧を邪魔してきています。予定以上に時間がかかる可能性があります』


 少し焦った様子で無線の先にいる男が告げる。あと少しで復旧できるとなった瞬間に何者かがハッキングを仕掛けてきて、復旧したデータをさらに複雑に書き換えてきたという。そしてハッキングは現在進行形で起こっている。復旧にはさらに時間がかかると伝えられた。


「緊急時用に手動で船を動かせる方法がある筈だ。俺は洗脳が弱まるといけないからこの場を離れられない。いくつかのグループに別れて、探してきてくれ」


 無線の先とこの場にいる仲間にそう伝えると、見張りの男に向き直る。


「君はそのまま警察の動向を見張っていてくれ。動きがあればすぐに教えてくれ」


 そして中心メンバーである女の方を向き直る。


「私はここを動けない。君は全体の連絡係を頼む。状況によってはそちらで指示を出してもらって構わない」 


 そう指示を出すと女は頷き、1つのグループと一緒に船外に出た。




 ♢♢♢♢




「さて、どうしようか?」


 蒼は換気口の中からその会話を聞き、1人呟く。とりあえず、先に非常時用の手動の舵は使えないように細工をしてきた。普通の人相手なら個別に無力化していけばいいが、どんな能力を持ってるかもわからない為、下手に手を出せない。


 息を殺しながらも次の手を考えながら、その場を後にする。見張りの男が透明化の能力を持っているのを早々に確認した蒼は換気口など、自分の体格を活かして、見つからないように気配を消して動き回っていた。暗躍は得意だが、下手に手を出すと悪手となりかねないこの状況をどこか楽しみながら蒼はこのシージャックを失敗させるために動き始める。




 ♢♢♢♢




 それから1時間ほど経過した。特に警察も動きがなくこちらの動向を確認している。乗客が人質になっている状況から下手に手を出せないのだろう。リーダーの男は少しの焦りを感じていた。吹雪から情報を買い、念入りに計画を立てていた。そしてこの計画は彼ら以外は知らない筈だ。吹雪には多めに金を払い、誰にもこの情報を売らない事を約束させた。船に乗り込むまでは順調のはずだった。しかし、今のこの状況はなんだ? まさか内通者がいるのか? と一度疑いかけたがすぐに否定する。

 内通者がいたとして、この島から出たいという気持ちは一緒のはずだ。脱出できる可能性をわざわざ無碍にする理由がない。どこか不気味なものを感じながら男は考える。しかし、結局は答えは出なかった。


 それからしばらくして、2人の仲間が船内に駆け込んできた。


「リーダー! 非常用の舵が使えないように小細工されているのを発見しました。ここにいる乗客や船員以外に誰かいる可能性があります」

「リーダー! さっき甲板に人影がありました。この計画を邪魔している何者かがいる可能性があります! 洗脳されてないその者が警察に連絡したと思われます!」 

 その者達の報告を聞き、リーダーの男は顔を顰めた。この時間まで捜索を掻い潜り見つからずに妨害をしているという事は只者ではない。仮に船が動いたとして、その者が乗っている状態で本島に辿り着けるのだろうか?

 一度指示を出し、操舵室にてシステムの復旧を行なっている部隊以外を船内に呼び寄せる。そして現在の状況を共有する。計画が上手くいっていないことに苛立った様子で1人の男が声を荒げた。


「やっぱり、あんたは俺達のリーダーじゃねぇ。悪いが降りさせてもらう。失敗は火を見るより明らかだ」 

 その発言に何人かが同意するように頷く。

「……好きにすればいい」


 リーダーの男は短く答えるとこめかみを押さえる。それを聞き、男は何人かの仲間と船内から出ていく。認識阻害の能力を持っている仲間がいた為、侵入した場所から能力を使って出ていくのだろう。その後ろ姿を見送っていると中心メンバーの女が話しかける。


「ちょっといいの?」

「この計画は破棄する。俺達も逃げる準備をするぞ」 


 女の問いにすこし焦りを交えながらリーダーの男は言う。


「ここまで来ると計画を壊そうとしている奴がいるのは明白だ。ここにいたんじゃ、そいつの手の中だ」

「しかし……!!」

「また計画を立てるさ。しばらくは大人しくしていよう」 


 そう言いながら、一ヶ所に集めた乗客と船員の前まで歩く。


「君達は何も覚えていない。いいね?」


 そう伝えると、まるで1つの生命体のように同時に全員が頷いた。


「今から洗脳を解く。パニックに乗じて乗客と一緒に脱出するぞ。とりあえず全員、この中に紛れ込んでくれ」 

 そうして仲間達が乗客達に紛れ込むようにしたのを確認すると男もその中に入り、洗脳を解除する。すると周りの乗客達が不思議そうに周りを見渡し、船内の時計を見て、時間の経過に驚きパニックになる。船員達も混乱しながらも、落ち着くように乗客に話しかけながら、現状把握に努める。そして船員の1人が甲板に出て、まだ港におり、港に警察がいる事に驚き、慌てて下船し情報を仕入れる。今までシージャックをされていたと言う事実に驚愕しながらも船に警察と共に戻った。そして警察の先導のもと、混乱しながらも全員が下船する。警察はその中に犯人達が紛れ込んでいることに気づけなかった。乗船者に事情聴取を行うも全員、船に乗ったのまでは覚えているがその後の記憶がないと語った為、そのまま船員だけ残して解散となった。


 そして、本来本島に向かう予定だった船と乗客は臨時に明日出発する連絡船に乗船するとなりこの事件は幕を閉じたのだった。




 ♢♢♢♢




 港からすこし離れた位置から蒼はその様子を確認した。リーダーの男が全員を集めた瞬間に、非常用の舵への小細工と船のシステムを証拠を残さないように元に戻した蒼は、先に脱出しようと隠し通路に向かっていた。その際に視線を感じて船の外を見る。すると少し離れた場所にある灯台にいる人物と目が合った気がした。誰がいるかわかると蒼はピースサインを作り、すぐにその場を後にした。そして隠し通路から周りにバレないように船から脱出する。


 そして事件解決を確認すると、居候先の1つである屋敷に向かったのだった。

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