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ぱんどら  作者: 星川宙
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第二章ー騒動ー⑤

「……そうか」


 部下の報告を聞き終えると中原は短くそう言って電話を切った。そして難しい顔をして何かを考え始める。


「どうしたんですか?」

「……結局、犯人は1人も捕まえられなかったらしい。そして乗客は犯人について何も覚えてなく、通報した奴は不明だ」


 昴の問いに中原は忌々しそうに答える。


「記憶操作されていると言う事ですか」

「ああ、結局あいつらの行動は失敗に終わったが、何一つ解決してねぇ」

「……」


 中原の呟きに昴が何か考え込む。しかし中原はそれに気づかずに立ち上がった。


「俺は仕事があるからこれで失礼する。日向、お前はここに残れ」


 そう言うと中原は客間を出ていく。残った3人は背の背中を見送る。


「で、昴君どうかしたの?」

「いえ、彼らの目的を考えていたんです」


 浮かない顔をした昴に美月が声をかける。


「島からの脱出だろうね。能力者にとってはここは監獄みたいな場所だから……」

「そうですよね。そらは納得できるんです。私が気になっているのはそこではなくーー」

「何故、奴らは船を占拠してすぐに出航しなかったのか……だろ?」


 昴の言葉を途中から他の声が遮って続きを言う。声がした方を見ると、そこには小学生ぐらいの帽子を被った子どもが仁王立ちで立っていた。3人の視線を受け流しながら、その人物は言葉を紡ぐ。


「理由を知りたい?」

「あの……どちら様ですか?」


 楽しそうに話す子どもに昴が不思議そうに尋ねる。そんな2人を遠目で見ながら姫が美月に小声で聞く。


「この声、もしかして」

「……そのもしかしてだね」


 コソコソと2人で話しているのを横目で見ながら子どもは特に気した様子もなく昴の問いに答える。


「俺は椎名(しいな)(あお)だ。あんたは?」

「日向昴です」

「日向さんか、よろしくな」


 そう言って蒼は人懐っこい笑顔を浮かべる。


「蒼……いつ帰ってきてたの?」


 そんな蒼に美月は呆れたように言う。


「ここに来たのはさっきだよ。この島に帰ってきたのは昨日の昼便だな」


「……それで、野次馬でもしてたのかしら?」

「違うって、昨日の昼便の隠し部屋で寝てたら巻き込まれたんだ」


 今にも言い争いを始めそうな雰囲気の2人に不安を感じながらも昴は美月に話しかける。


「美月さん……あの方は?」

「椎名蒼。自由奔放な半居候です」


 美月ははっきりとそう言うと昴に笑いかけた。


「詳しくは本人と直接話せば嫌と言うほどわかると思いますよ?」


 美月にしては珍しく揶揄うような口調で言う。それに思わずといったように昴は笑った。


「えっと、日向さん。さっきの疑問の答えだけどさ」


 姫との言い争いをやめた蒼は昴に向き直ると楽しそうに笑う。


「あいつらは出航したかったのに出来なかったんだ。舵のプログラムがめちゃくちゃになっていて船が動かせなかったんだよ」


 そう切り出し、蒼は自分が見た出来事を語り出した。




 ♢♢♢♢




 連絡船に隠し部屋がある事は前々から知っており、1人になりたくて勝手にその1つに入り込んで、気づいたら眠ってしまい、起きたらすでにお昼近くになっていた。船が出るまでに抜け出さないとと周りの様子を窺っていると、怪し気な集団が本来の乗り場とは違う場所から乗り込んでいるのを発見する。息を殺しながら様子を伺う。最悪出航してしまったら泳いで帰ればいいやと蒼は軽い気持ちでいた。


 怪しい集団から1人の男が乗船場付近に近づき、乗ってきた乗客に話しかける。そうすると乗客は操られたかのように同じ部屋に入っていく。それを繰り返しており、嫌な予感がした蒼は船のシステムに介入した。すると既に舵のプログラムがめちゃくちゃに弄られており、船が出航できないようになっていた。これは何かあるなと感じた蒼は集団の動きを観察する。一部の人間が操舵室に入っていくのを見て、シージャックだと気づいた蒼は犯人達に見つからないように息を殺しながら隠し部屋に戻る。


「さて、どうしようかな」


 そして楽しそうに呟くといそいそとスマートフォンを取り出し、鼻歌を歌いながら船と港の監視カメラにハッキングを仕掛けていく。


「おっ、乗船予定者は全員乗ってる感じか」


 状況を把握しながらこれからどうするか戦略を練っていく。既に、この件を片付けて一度下されるであろう乗客に紛れて下船する計画を練る。


「とりあえず、船が出ないのは確定だな。後は犯人に諦めてもらうために場を引っ掻き回すのが1番かな。時間を稼げばなんとかなるかな?」


 楽観的にそう考えながら監視カメラから犯人達の動向を探っていく。集団が別口から入った際に顔を全員確認していた為、乗客に紛れていても誰が犯人かは把握できている。ある程度の情報を確認してから、蒼は警察に通報した。


「それにしても、乗客の混乱がない。入口に陣取った奴は精神操作系の能力者か?」


 シージャックが起きてるにも関わらず混乱が乗じずに静かな船内にそう当たりをつけ、蒼は暗躍するために、隠し部屋から静かに出るのだった。

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