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ぱんどら  作者: 星川宙
第二章ー騒動ー
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そうだ、乗り込もう!

 港の近くにある灯台の付近に2つの人影があった。港の状況を一望できる場所なのだが、2人以外は誰もいない。


「すごい穴場だね。ってか唯華、なんでこんな場所知ってるの?」

「なんでだろうね」


 翼の問いに唯華はとぼけるように言う。30分程前に翼から港で起こっている事件について相談された唯華は待ち合わせ場所としてこの灯台を指定した。


「でも助かったよ。ありがとう」

「別にいいよ。如月先輩が面倒なのはいつもの事だし」


 特に気にした様子もなく、唯華は港の騒ぎを眺める。それにならい翼もその隣りで目を凝らして船の様子を見た。この場所からだと船の上の様子も少し見えるが、全員船内にいるのか甲板には人影はない。

 2人はそれぞれ船や港を見ながら考え込んでおり、沈黙が起きる。


「巻き込むのは良くないと思うんだけどさ」


 そこで言葉を切って翼は真剣な顔でこれからの行動を提案した。


「あそこに忍び込もうと思う」

「ふーん」


 翼の発言に驚くこともなく唯華は適当に返事をする。


「って、あれ?」


 自分が想像していた返答よりもさらに他人事のように返された為、翼は珍しく狼狽した。


「どうかした?」

「いや、なんでもない」


 唯華にそう答えながら、翼は昨日和希が言っていた事を思い出した。


『私はお前と山吹は普段よりもイレギュラーが起きた時の方が頭が冴えていると思うんだ』


(確かに先輩の言う通りだよ。そして唯華は私以上だ……)


 わかっていたつもりだったが、改めて知った親友の性格に畏怖の念すら覚える。


「で、翼。どうやってあの船に侵入する?」

「それは結構簡単だよ。この島に来た時に、暇つぶしで船内を散策したからだいたいの造りは頭の中に入ってる。それに理由はわからないんだけど非常口以外に何ヶ所か船へ出入りできる場所があったの。隠されるようにしてね」

「なるほど、その一ヶ所なら忍び込むのか」

「うん、とりあえず効率がいいのは……」


 そう言って翼はいくつかの案を語る。静かに話を聞いていた唯華は全ての案を聞き終えると純粋な感想を口にする。


「どれも時間がかかりそうだね」


 そしてある一点を凝視して静かに口を開く。


「……でもその必要はないかも」


 翼も唯華の視線の先を見て確かめようとしたが、唯華が何を言おうとしているのかわからなかった。しかし翼のそんな様子も気にせず、唯華は淡々と語った。


「知り合いがこっちに向かってピースサインしてたから、多分すぐにこの騒ぎは終わるよ。……めちゃくちゃに場を乱した後な笑顔だったし」

「えっ!? 唯華どういうこと? ってか知り合いが乗船してたの?」


 驚く翼を気にした様子もなく、唯華はそれ以上、何も語らなかった。

 そして彼女の発言通り、それからすぐに騒動は幕を閉じた。



 ♢♢♢♢




 当夜は純の部屋でテレビを見ていた。適当にチャンネルを変えながら純のベッドの上で横になり寛いでいる。


「にしてもすごいよな、1部屋に1台テレビがあるってさ」


 そんな当夜の後ろに純は部屋を片付けながら声をかける。


「確かにな。ったく、いつまで外出禁止なんだろうな」


 長い付き合いから純は禁止令が解かれるまで当夜はここに居続けるだろうと当たりをつける。我が物顔で部屋の主人よりも寛いでいる当夜は元々今日は島を探検すると今朝楽しそうに話していた為、機嫌が悪い。文句を言いながらテレビを見るまでもなくチャンネルを変え続けている。



 <ーー先程、人質が無事に解放されたとの事です。情報規制により事件発生時には速報で報道はできませんでしたが、本日昼頃に御影島で起こったーー>



 ニュース番組に変わるとそこには見覚えのある港が映し出されており、スタジオからアナウンサーがニュース原稿を読んでいる。


「なんだ?」

「……もしかして、これが外出禁止の理由か?」


 ニュースから流れて来る情報を聞きながら2人は思った事を口にしていく。


「寮長が昨晩、何かと物騒って言ってたよな?」 


 昨日の和樹の言葉を思い出して、純が当夜に問う。


「大丈夫だと思うよ? そこまで心配しなくても」


 しかし、その問いは当夜ではなく第3者が返答にならない答えを返す。


「如月先輩から外出禁止が解けたって連絡があったよ。まぁ今日は必要な外出以外は控えるようにって条件付きだけど」


 当たり前のように純の部屋に入ってきた翼が携帯を片手に手を振る。


「本当か!?」


 当夜は嬉しそうにベッドから体を起こす。


「でもさっきニュースで……」


 それに対して純は心配そうに翅に問う。


「聞いた話によると大丈夫みたい。犯人は捕まってないけど、しばらくは警察が警備を厳重にするらしいよ。私は他の人たちにも知らせて来るね」


 翼はそう告げると部屋を後にした。


「だってさ」

「お前は単純で羨ましいよ」


 嬉しそうに笑いかけてくる当夜にそう言って純は小さくため息をついた。

 どこか不安を感じながら……。




 ♢♢♢♢




 1年の寮生全員に外出禁止が解けた事を伝えると翼は和希の部屋を訪れた。扉を軽くノックすると和希はすぐに翼を部屋に招き入れる。


「どうしたんだ? お前が自分から私を訪ねて来るとは珍しいない。用件ならさっきの電話で良かったんじゃないか?」

「そうですか?」

「……お前、もしかしね相当苛立っているのか?」


 和希は翼の様子にどこか違和感を覚える。


「何言ってるんですか? 私は今、いつも以上に冷静ですよ?」

「……」


 満面の笑みでそう言う翼を見て、和希は背筋がゾッとするのを感じた。その笑みには何の感情もなかった。


「如月先輩」


 不意にその笑みを引っ込めて、翼は真剣な表情で部屋を訪れた目的を語る。


「港にあいつ(・・・)がいました。それを直接報告しようと思ったんです」

「あいつ? ……まさか!?」

「そのまさかです」

「……ありがとな、九条。これは私以外の誰かに伝えたか?」


 微かに目を見開き、動揺しながらも和希は冷静を装う。


「いえ、伝えてないです。言わない方がいいと思ったので」

「そうだな」


 それから2人は今後のことも含めて話し合った。


「なら私はこれで」


 話が終わると翼はそう言って部屋の入口へ向かう。


「九条」


 その後ろ姿を和希は呼び止めた。そして、振り返ろうともしない背中に声を掛ける。


「あまり無茶話はするなよ」


 その言葉を聞き、翼は妖しい笑みをたたえて首を捻り顔だけを後ろに向ける。


「先輩にだけは言われたくないですね」


 そう告げると今度こそ部屋を後にした。


「ったく、ホント最近は物騒だ」


 小さくそう呟いて和希は窓から外を眺める。


「嫌な天気だ。こりゃ一雨くるかもな」

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