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ぱんどら  作者: 星川宙
第二章ー騒動ー
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住処からのお別れ

「大問題が起きたわ」


 詩織達の家を訪ねて来た奏は開口一番そう言った。あまりにも奏が切羽詰まった様子だった為、2人は一瞬彼女が何を言っているかわからなかった。


「問題が起きたのは分かりましたが、一体何がですか?」 

「前に"サーカス"については話したよね?」

「……反御影島勢力の能力者集団の通称でしたよね?」


 奏の問いに詩織は落ち着いて答える。

 能力者ーー。非現実的な響きだが、実際に能力者と呼ばれる人間達がこの世にはいる。詩織と瑞稀は昔からその存在を知っていた。そして何故かこの島在住の能力者は島のルールを批判している。その理由までは知らなかった。


 "サーカス"とはその集団が問題を起こす際に自分たちから名乗った通称だ。数年前に突如現れたこの集団は定期的に島の上層部に交渉を持ちかけている。その内容は公表されておらず、ただ島の在り方を否定していることだけ詩織達の耳には入って来ていた。

 月詠の巫女の役割の一つに島の安寧を守ると言う物がある。だから天宮の人間は警察に多く勤めており、必要に応じて月詠の巫女に情報共有をしている。その為、詩織は他の島民よりも多くの情報を持っていた。そして瑞稀も協力者として情報を共有してもらっている。


 天宮の一族は多くが警察官として働いているが、何においても月詠の巫女を最優先する。警察内でもそのことは有名で奏が事件が起きてから現場に向かわずに詩織達の元に訪れても何も言われることはない。そんな特殊な立ち位置にいた。


「そいつらがどうかしたのか?」


 瑞稀は珍しく慌てている奏の様子に嫌な予感を覚えながらも、真剣に問いかける。隣では詩織も真剣な面持ちで奏の言葉の続きを待っている。


「さっき、本島行きの連絡船が"サーカス"を名乗る集団に占拠され、乗客が人質になっているって通報があったの」


 そう切り出し、奏は港で起こった事件について説明する。話を聞いていくうちに、詩織の顔はどんどん青ざめていく。


「どうしよう、瑞稀。おばあちゃんが……!!」


「落ち着け、ばあさんは朝の便で行っただろ。大丈夫だ……到着の連絡はまだないけどさ」


 安心させるように笑いながら詩織に語る瑞稀の顔色も悪い。朝の便に乗る予定だったが、なにかあって昼の便に変更して巻き込まれていたらどうしようと内心の不安を隠しながらも気丈に振る舞う。


「安心して。乗客名簿の中に君達の知人の名前は無かったわ。まぁ私の知る限りだけども」


 2人の様子から何かを察した奏は安心してと微笑む。事前に乗客名簿の確認をしていたのだ。2人の知人が乗船していた場合、伝え方を考えないといけないと考えていたからだ。

 それを聞き2人はほっと息をつく。


「そうですか」


 安心し、胸を撫で下ろす詩織。しかし自分たちの知人はいないが、巻き込まれてしまっている人達はいるのだ。今まで"サーカス"は無関係な人を巻き込む事はなかった。しかし、今回は大勢の人達を巻き込んでいる。その違いに違和感を覚えながらも、詩織は考える。


「船を占拠して何をやろうとしているの……?」

「だな。犯行声明がないのもまた気になる。……それとこの件に唯華が巻き込まれてなければいいんだけどな……」


 詩織の独り言に返事をしながら瑞稀もまた、懸念材料を口にする。そして2人は今朝の出来事を思い出す。




 ♢♢♢♢




「では、後は頼みましたよ」

「うん、飛鳥姉によろしくね。手紙もお願います」


 玄関でキャリーバッグを片手に出かけようとしている彩音に詩織は笑いかけた。昨日飛鳥のおめでたを聞き、すぐに贈り物の用意はできなかった為、瑞稀と相談して手紙を書き、誕生の知らせを聞いてから出産祝いを郵送しようと決めた。2人は書き終えた手紙を彩音にリビングで渡していた。


「はい。忘れずに渡しますから安心してくださいね」


 彩音は嬉しそうに微笑み慈愛に満ちた顔で見つめる。しばらくのお別れに2人は寂しい気持ちを押し込めながら、元気に送り出す。


「まったく、唯華はどこに行ったんだ。まだ朝も早いって言うのに……」


 しかし、住人が1人足りないことが気になり、瑞稀はぼやく。それに対して彩音は気にした様子がないように言葉を紡ぐ。


「気にしなくていいですよ。唯華ちゃんとは昨日ね?」


 優しく微笑むと彩音は詩織の頭を撫でる。そして瑞稀の方を見る。


「瑞稀君、詩織ちゃんと唯華ちゃんをよろしくお願いしますね」

「ああ、ばあさんも体気をつけろよ?」

「大丈夫ですよ。飛鳥の家に着いたら連絡しますね。きっと午後になってしまうと思いますけど」

「うん、おばあちゃん気をつけて、行ってらっしゃい!」


 そう言って詩織は笑顔で彩音を見送る。寂しさを隠しながらも彩音も微笑むと、手を振り家を出た。長く住んでいた家に心の中で別れを告げ、港に向かう。

 これでお別れになるとしらない2人は無邪気に彩音の後ろ姿を見送った。



 これが今朝の出来事だった。 

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