ep157 自信のある仮定
眞琴は慣れた手つきで、盆栽の鉢に粉、千円札には薬品を吹きかけた。そして、机の上に置いてあったテーブルライトのようなものを千円札の前に移動させるとボタンを押した。
「それが、早送りマシーン?」
蒼は興味を引かれて机に近付く。眞琴は机から目を離さずに呆れたような声を出す。作業の手も止めなかった。
「早送りマシーンってなんだ……。確かにこれは、時間を進める物だが。あと、椎名はそんなに近付くなよ? これは人体には使用しない前提で作成している。お前の不幸体質でぶつかった際に責任はとれない。お前もこれ以上背が縮みたくはないだろ?」
「待って!? なんで時間を進めるのに俺は背が低くなる前提なんだ?」
「少し、静かにしていろ。結果が分かったら伝えるから日向達と話でもしていろ」
眞琴は鬱陶しそうに蒼に離れるように指示をする。
不満はあったが、結果の方が大事なため、蒼は眞琴から離れて、昴達の元へと向かう。
歩きながら携帯で映像を確認する。特に店での動きはない。
今日1日は店の入口をカラスに違和感がない程度に飛び回りながら店を監視するように伝えてある。
蒼は、真剣な表情で話している昴と琉架に突撃した。
「やっぱり、能力付与の能力者は同一人物だと思うか?」
そして、2人に近付くと迷わずに本題を切り出す。
「……可能性は高いと思うよ。来宮さんの知り合いならあとで紹介してもらって会えるとまた変わるかも」
「でも、須藤さんに洗脳されていたんですよね? 能力を使った記憶もないのでは?」
「そこなんだよな、でも、記憶がなくても能力の解除が出来るか否かの確認はしたいんだよね。……出来たら、一番めんどくさい計画の要が破壊される。さらに、過激派の連中は能力を解除されたことに気付かない」
蒼は、ニヤリと笑いながら、言葉を続ける。
「ちょうどよく、ミサンガが1個ある。ミサンガの事情を知ってる能力者も何人かこの家にいる。それで能力解除されたか確認できるだろ」
「……待って、蒼さん。なんで気付かないと断言できるの?」
「え? ああ、琉架さんはミサンガを見てないもんな。見るからに変哲もないミサンガだからな。……盗聴器と発信器しかけられてたみたいだけど」
蒼はぼそりと呟く。
「待ってください。そうなると、ここが危ないのでは!?」
「大丈夫だよ、すーさん。駿河家に来る前にゆいがさらっと、ジャミングしがてら電波を破壊したって言ってたから」
「……そうですか」
駿河家への危険を考慮した昴の問いに答えると、蒼はまた琉架を見た。
「それで断定できる理由はな、見た目が変わる要素が思いつかない。能力を解除したことにより色が変わるとは想像できない。ただ、能力が解除されるだけ。能力使用時や解除時に光り輝いたり視覚で分かるとも考えづらい。……となると、能力者本人とそれを知っている人以外が認識できるわけなくね?」
「……確かにそうだけど、確認してからじゃないと断言はしない方が良いんじゃないかな?」
「琉架さんは真面目だなー」
蒼は笑う。真剣な表情の琉架は悪い可能性ばかり考えているようだが、蒼は自分の仮説はほとんど当たっていると確信を持っていた。
能力者と接触して、無意識下の能力を解除できたら、ノアズ計画はほぼ潰したも同然だ。あとは、島の上層部に掻っ攫われないようにこちらで対処する。
見えない船に乗り込んだり、見つけたりするのは難しい。しかしその前提さえなくなれば、手の打ちようはいくらでもある。
とりあえず、今は眞琴の指紋採取の結果待ちだ。ノアズ計画よりも人形の方がこの島にとっては脅威になる。それは確実だから。
集中している眞琴の後ろ姿を見ながら蒼は考える。
「あっ!」
「どうしました?」
「どうしたの?」
そして、あることを思いつき、そこそこな声を出すと蒼の近くで相談してた昴と琉架が反応した。
蒼は、2人に笑いかけながら、携帯を取り出す。地下だが電波が通っていることはさっき映像を見たときに確認している。
「いや、万が一のことを考えてRENに春宮の指紋を採取できないか確認しておこうかとさ」
仮に精巧な人形で指紋があった場合、指紋さえも元となった人間の物を模倣している可能性がある。それの確認のためには春宮の指紋が必要だ。
映像を見た限り、手袋を常時している人間ではなかった。なんとか出来ないかなと考える。
「レンさんを危険な目に遭わせるのはやめてください。蒼さんよりは年上ですが、彼もまだ子供です」
「……"サーカス"なら、隼斗がいるよね? 隼斗に頼んでみようか?」
昴が蒼の提案を珍しく否定する。その様子を見て、琉架が代案を出す。
「隼斗なら、学生時代も天音に対抗して似たようなことをやっていたから、出来ると思うよ? 必要なら僕から頼むけど」
「確かに、隼斗さんはそういうの得意そうでしたが……」
「ああ、昴君にとっては、隼斗に対して思うところあるよね、ごめん。でも、危険な行動をした場合に神庭会へ報告するだけだったから、昴君達の情報はほとんど聞いていないよ。隼斗も昴君のこと気に入っているみたいだったし」
「そうですか……」
2人の間に気まずい沈黙が流れた。蒼は空気を読まずに壊そうかなと一歩足を前に出した。
「何を遊んでいる、結果が出たぞ」
しかし、蒼が口を開く前に眞琴が振り向きながら3人に声をかけた。
蒼達は顔を見合わせると眞琴が作業していた机に近付いた。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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