ep146 お試しから始まる協力関係
――禍月組。大本は本島にある指定暴力団常闇会の派生組織だ。御影島の特殊さにいち早く気付き、御影島が今の体型になった初期から存在している組織だ。
島の上層部とも繋がりがあり、警察も下手に手を出せない権力を持っている。
それでも少し前までは島の上層部も、能力者の存在を秘匿することが出来ていた。
「それが、禍月組に変人科学者が入って、つなぎ役の職員に糸型に編み込んだ盗聴器をしかけて、能力者の情報を引っこ抜くって面倒を起こした。で、禍月が権力を使って脅して上層部の管理する能力者情報の一部を手に入れた」
「その中に、オレが入っていたってわけね」
「そういうこと。……で、禍月組のその科学者チームは元々限りなく人間に近い兵器の開発をしていた」
吹雪はそこで言葉を切ると、葵の用意した珈琲を飲んだ。肇はただ、吹雪の次の言葉を待った。
なんとなく、自分の能力が狙われた理由は分かったが、それをはやく言語化して欲しかった。予測よりもきちんとした答えが欲しい。
肇の不安を感じ取ったのか、猫が「にゃぁ」と膝の上にのった。
猫の背中を撫でながら、肇は落ち着こうと努める。
「なんで、限りなく人間に近くする必要があるんだ?」
背後に控えていた葵が不思議そうに尋ねる。従者のように感じたが、情報共有はされていないのかとどこか冷静な頭の片隅が判断する。吹雪は口元を楽しそうに歪めると、体を肇から葵に向け直す。
「そりゃ、人間相手の方が相手《敵》は手を出しづらいだろ?」
「……」
何でもないことのように言う吹雪に薄ら寒いものを感じる。葵に関しては信頼してもいいのではないかと思えてきたが、目の前で空間を支配している吹雪はやはり信用できない。
「まぁ、そういうことだ。人間らしくするために、実験として人の記憶を人形に移植して記憶の持った人型兵器を作ることには成功していた」
「人の記憶を……ってどうやって?」
肇は猫を撫でる手が早くなる。少しでも冷たくなった毛先を人形とはいえ、確かにぬくもりのある我が子に癒して欲しかった。
「多分、君には専門外だろうから簡単に説明すると、秘密裏に本島との間で人身売買取引が行われている。その非合法で手に入れた人間《検体》を眠らせて、脳から電気信号として記憶を抜き出した。……禍月組の科学者チームのトップはそこまでイカレている。で、それの応用で最近、能力者の能力、その一部を電気信号で捉えることに成功した」
吹雪は興味なさげに視線を肇に戻しながら続ける。
「そして、人の記憶を持ち、些細ながら能力を使用できる兵器の完成だ。そうすると次に考えるのは、その兵器が個別に考えて行動を自立すること。AIを使用するだとまだ少しタイムラグや不安要素が残る。……で、君の能力だ」
吹雪は人差し指を肇に向ける。
「……オレの能力を利用して、完全自立型の兵器を作成する。そのために、オレに声をかけてきたと?」
「そう。ちなみに既に君の家と工房にも手が回ってる。あのままだったら確実に利用させられていたよ。……君が拷問に耐えられるのなら、話は別だけど」
「……オレを助けるといったのは?」
「正直、そんな兵器が出来たら面倒だからね。そのうち研究室も潰すけどとりあえずは摘める芽は早めに摘んでおきたい」
吹雪は面倒そうにテーブルの上に肘をつくと、腕を組み、その上に顎を乗せた。
「さっきも言ったが、こちらの要求はこの件が落ち着くまでは君にここで生活をしてもらうことだ。身の回りの世話や買い出しは全てここにいる葵が行う。人形作りに必要なものは準備しているが、必要な物があれば葵に言え。こちらで用意する」
「そもそも、ここはどこなわけ?」
「宮端商店街は知っているか?」
返答は期待しなかったが、肇は気になったのでつい疑問を口に出す。しかし、予想に反して吹雪は口を開いた。
「知っているけど、もしかしてその近く?」
「そうだ。近くにある住宅街だ。ここは地下室になっていて、上に平屋がある。念のため、君には自分の人形を作って、能力を使用してもらう。それでカモフラージュをして、君本人はこの地下から出ない」
「……人は日の光を浴びないと精神に良くないのだが? それに外の様子から作品のインスピレーションを得ている」
言いなりになるのも癪だと肇は譲歩を得られないか、交渉しようとする。
「君が自分の人権を手放すのなら好きにすればいい。守られる気がない者を守るのは他を危険にさらす可能性がある。その場合は別の手段をとるだけだ」
しかし、吹雪は交渉のテーブルにすら着席してはくれなかった。
「……わかった。君を信用するか見定めるためにも1ヶ月はここでの生活を受け入れよう。それより先は君達が信用できたら考える」
「へぇ、まぁ別にそれでもこっちは構わない」
「ついでに君にも見張りをつけたい」
「……見張り?」
特に気にした様子もない吹雪にこの提案は既に織り込み済みだった可能性があるなと底知れなさに怯む。
身の安全は大事だが、得体の知れないものに全てを預けるほど肇は考えなしではなかった。
肇は撫でていた猫を持ち上げると吹雪に見せる。
「この猫はオレの相棒だ。こいつに君を見張らせる。怪しい動きをした場合はすぐにわかる」
「へぇ、ちなみに君の力は人形と視覚を共有できるのか?」
「それは出来ない。でも、オレが命令した内容には忠実だ。例えば、君が不審な動きをとった場合はオレの近くに来い、とかな」
「なるほどな。さっき見ていた様子だと、ある程度の距離までは人形の居場所を把握できるってわけか」
「……それ以上伝える気はない」
「まぁ、そうだよな」
吹雪はおかしそうに笑う。肇はどこか不気味なものを感じたが、最悪を回避するためにこの悪魔のような人物と手を組むことに決めた。
吹雪は肇の能力が利用されるのを嫌がっているだけで、人形《うちの子》達には興味がなさそうに感じたからだ。
肇はとりあえず、猫を床に下ろすと立ち上がり、吹雪の前まで移動する。
「とりあえず、まずは1ヶ月。お互いに悪いようにならないことを祈るよ?」
右手を差し出しながら、眼鏡の奥から探るように吹雪を見る。吹雪はニヤリと笑うと差し出された手を取った。
「そちらも、せいぜい我が身可愛ければ、余計なことを考えるなよ」
お互いに腹の内を探りながらの握手を吹雪の後ろから眺めていた葵は盛大にため息をついた。
そして、肇の地下での生活は幕を開けた。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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