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ep147 シナリオは関係ない!

 肇は過去の話を語り終えるとお茶を1口飲む。

 その様子を見て、蒼は頭の中で情報を整理する。その間も話は進んでいた。


「それで、まぁ思ったよりもお試しの1ヶ月が快適で今に至ると。朽梨君が予想以上に有能なことと、ここの環境も想像以上に良かったから、なんだかんだで気付いたら半年経っていたんだよね」

「……いや、だからって半年って」


 あっけらかんと笑う肇を琉架は呆れたように見つめる。


「それよりも、オレとしては神庭が能力者の存在を知っていたどころか、極道の御曹司だったってことに驚いた」

「……まぁ、話すことはなかったもんね。それよりもこのままここで生活するの? なんなら、神庭会《うち》で面倒見るけど?」

「いやぁ、全然ここ快適だし、吹雪曰くあと2ヶ月ぐらいでけりがつくらしいからさ」


 お茶をまた一口飲みながら肇は笑う。


「えっ、吹雪は2ヶ月で片がつくって?」

「ああ。昨日、神庭から連絡来る前に朽梨君経由で連絡が来てさ。それで神庭の件とかも聞いたんだ」


 蒼の疑問に肇は頷いた。蒼は悔しくて仕方がなかった。


(やっぱり、ゆいの手のひらの上か。ただ、神庭会を巻き込んだのは俺も予想外だったからな。計画《シナリオ》を組み直した? それで琉架さんと一宮、すーさんを繋げた?)


 蒼はチラリと葵を見る。葵もちょうど蒼を見たようで目が合った。しかし、すぐに視線を逸らされる。


(……まだ、何かある? それともアイさんは何も知らない?)


 謎だけが深まっていく。どうした物かと考えようとしたが、蒼はふと気付いた。別に唯華の裏を探る必要はないんじゃないか? という事実に。

 そもそも、今までも唯華の計画《シナリオ》は気にせずに好き勝手やっていた。

 相手が予想以上に大きかったからつい、唯華の動きを探ろうとしたが、それは自分らしくないのではないかと、そもそも唯華自身も蒼が唯華の都合を考慮した上で動くとは思っていないから、最低限の情報だけおいて好きにしろのスタンスだったことも思い出した。


(……なるほど。とりあえずはノアズ計画は潰せ。可能なら、内通者の確保がゆいが求めてる成果か?)


 蒼は、勝手にそう結論付ける。相手の裏を探らないと決めると少しだけ気が楽になった。無意識で気を張っていた事実に思わず笑う。


「それって、吹雪と直接? それともアイさん経由?」

「……半年前のあの日以来、吹雪とは会っても話してもいないねぇ。そういえば。朽梨君が優秀であまり気にしていなかったね」

「……そこそこ大変な立ち位置なのに、相変わらずすぎない、一宮」


 呆れたように、琉架が口を挟む。それまで傍観を決め込んでいた葵が少し身を乗り出し会話に入る。


「神庭さん、もっと言ってやってください。こう言っていますが、翌日には既にこの生活を楽しんで、俺もいいように使われていましたし」

「それは、朽梨君が有能なのが悪いんだよ? 得体が知れないから困らせようとしたのに、無理難題を何でもない顔でこなすもんだからさ」

「確かに、葵さんは淡々とこなしますもんね」


思い当たるところがあるようで、それまで黙っていた昴が頷く。


「そうなんだよねぇ。環境さえ整えば、少しの不自由も人間は許容できるみたいでさ。一つ勉強になったという話だな」

「ねぇ、お兄さん」

「うん? なんだい。それに30歳でお兄さんと呼ばれるのは嬉しいなぁ」


 お兄さんと呼ばれたことに対して嬉しそうに微笑む肇をスルーしながら蒼は今までの話をぶった切るようにただ気になったことを聞く。


「この猫だけどさ」


 蒼は携帯を弄り、昨日隠しファイル内にあった写真を表示すると肇に見せる。


「さっきの話に出てた吹雪に見張りとしてつけた猫ってこの三毛猫? 今は吹雪の手下みたいに、隠しカメラまで使っていいように使われてるじゃん?」

「へぇ、そこまで知ってるんだ。まっ、1ヶ月の様子見である程度信用できたし、猫の手も借りたいと吹雪がいっていたと朽梨君から聞いていたからね、なら猫を貸してあげようかと」


 ニコニコと話す、肇に蒼は必死に笑顔を貼り付けた。


(ゆいが猫の手なんていうと思えないから、アイさんに丸投げしたんだろうな。そして、結果的にアイさんがどんどん有能になっていく……。で、ゆいの要求も上がる。……なんて悪循環)


 蒼は心の中で葵に合掌する。しかし、その事実を肇に伝える必要は感じない。


「なるほど。お兄さんのおかげで、俺らも警戒対象を変えることが出来たから、助かった。ありがとな」

「何か分からないが、役に立ったのなら、よかったとでもいっておこう」

「そうだね、確かにあの映像は助かったもんね。一宮が能力者なことは驚いたけど……そうだ、連絡先交換しようか」

「唐突だな」


 琉架は笑いながら携帯を取り出す。肇も笑いながら懐を探り、2人で連絡先の交換をしていた。


「蒼さん」

「んー、どうした、すーさん?」


 突然、服の袖を少し引っ張られ横を向くと昴が小声で話しかけてきた。


「あの、琉架さんって何者ですか? 神庭会の人間だとは分かったのですが、苗字が……」

「ああ、次期組長だよ」

「えっ……」


 昴は声を詰まらせる。天音とは会っているから、余計に琉架の優男感から信じられないんだろうなと声を殺して笑う。


「まぁ、見かけによらずに肝は据わってるし、今後の神庭会を観察するのも面白そうだぜ? 同じ能力者主体組織だから仲良くなるのもありなんじゃない?」


 蒼は小声で返すと、2人を見る。

 連絡先を交換し、近況報告に話題が移りそうになっているのを見て、そろそろお開きかと葵を見る。すぐに蒼の視線の意味を読み取った葵はこくりと1回頷く。

 なら、ダメ元で頼むかと蒼は椅子から飛び降りると琉架と肇の間に入る。


「ねぇ、お兄さん。よかったら俺にも1つ人形を貸してくれない?」


 ゆっくりと蒼の方を向いた肇の瞳は眼鏡越しであったが、今までとは違い言葉の裏を探るような鋭さがあった。

 その視線を受けながら蒼は、ニヤリと不敵に笑った。


 その笑みを見て、肇が吹雪と重ねた事実を、蒼は知るよしもなかった。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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