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ep144 肇と怪しい人物

 とりあえず、落ち着こうと笑う肇に促されて、蒼達はテーブルに着く。

 葵は慣れた様子で、お茶の準備をしていた。


「ごめんね、先にこれ食べちゃっていい?」

「相変わらずのマイペースだね、一宮」

「そう? まぁ、オレは変わる気がなかったからね。それにしても神庭が1人ってのは見慣れないな。いつも天童と花園を従えていたからさ」

「いや、天音も華恋ちゃんも僕は従えてないよ?」


 トーストを食べながら少し揶揄うように肇は琉架を見た。そして、クククと楽しそうに笑う。


「そういうことにしておこう」


 珈琲を優雅に飲むと彼の朝食は終わったようだ。それと同時に葵がお茶を全員の前に出し、肇の食べ終えた皿とマグカップを回収してシンクへと置いた。

 そして、少し離れた壁に背中を預けた。


「さてと……」


 肇はお茶を一口飲むとおもむろに口を開いた。


「とりあえず、神庭は知っているが、2人は自己紹介をお願いしていい? 流石に知らない人間にここから先を話すのはさ」

「それもそうだな。俺は、椎名蒼。で、こっちが日向昴」


 肇の言葉にもっともだなと蒼は頷くとついでとばかりに昴も一緒に紹介する。

 

「へぇ、君が吹雪の言っていたトラブルメーカーで、こっちが"サーカス"のリーダーか」


 どこか探るように眼鏡越しの瞳が蒼と昴を交互に見る。これは最初から分かっていた上で聞いてきたなと、蒼は即座に判断する。

 唯華経由だ、一筋縄でいかない可能性も考慮するべきだろうと思考を切り替えた。


「それで、禍月組を敵に回しているような言い方だったけど、なんでお兄さんは狙われてるわけ?」

「くくっ、直球で来るね。それは、禍月がオレの能力を利用したいからだ。壊れない不死身の軍隊。どうやら本島にそれを売り渡す計画があるらしい。あいつらは、自分達の技術で能力を付与する方法を独自で編み出し、人形に移植することまでは成功している……らしい」


 肇はまた一口お茶を飲む。離れたところに控えていた葵がテーブルへと近付いてきた。


「あいつ曰く、ノアズ計画の参加者に紛れている内通者が船を本島ではなく、禍月の持っている港へと移動させる計画が立っているそうだ。そして、一宮さんの能力で不自然者をなくした人形に能力と記憶の一部を移植して、本人達は監禁。それが、今回のノアズ計画の裏にあるもう一つの潰さないといけない計画だ」

「……」


 あまりにも予想外の情報に蒼ですら言葉を失った。無意識に右腕のブレスレットを握る。

 チラリと横目で確認すると、相変わらず内心を読ませない笑顔の肇、そして顔色の悪い琉架と昴が目に入る。

 昴は特に堪えるよなと蒼は思わず視線を逸らす。


「……一宮はずっとここに隠れてるつもり?」

「ずっとは無理だろうね。でもとりあえず一段落つくまではここでの半軟禁生活を甘んじて受け入れるつもり。必要なものは朽梨が準備してくれるし、作業もここで可能だからな」

「作業……ですか?」

「うん。オレの本業は人形作家だからさ」


 昴の問いに肇は楽しそうに笑う。食えない人だなと蒼は観察をする。


「でも、どうやってそれに気付いたんだ?」

「んー? 気になる? それなら語るのもやぶさかではないかな」


肇は笑いながら、半年ほど前の出来事を話し出した。




 ◇◇◇◇




 普段通りに職場として間借りしている工房からの帰り道。いつもならそこそこ人通りのあるはずの道に、肇以外は誰もいないことにしばらく歩いてから気付く。

 そういえば、最近は変な目線を感じていたなと今更ながらに思い出した。


 能力者として肇は慎ましやかに生きている。特対や島の上層部が秘密裏に設置している能力者対策の連中にも目をつけられることはしていないはずだ。

 違和感はある、でもそのためにわざわざ遠回りをしてまで帰る理由もない。

 肇は脳内で自由に散策しているであろう猫の人形を呼びよせる。


「にやぁー」


 少しすると路地裏から1匹の三毛猫が肇の足にまとわりついた。


(さーて、こいつが来た方には問題がないはずだから、警戒の必要はなし。前か後ろかー。家バレてたら面倒だなー)


肇は警戒しながらも近くに来た三毛猫を抱き抱える。


 コツン。


 背後から足音が急に聞こえた。明らかに肇に存在を気付かせようとする足音に、無意識に歩が早まる。


「一宮肇さん……ですよね?」

「……はぁ」


名指しで呼ばれては肇はどうしようもなく立ち止まって振り向いた。黒装束の男が1人、少し離れた場所に立っている。思わず、口から息が漏れた。


「なんですか? もしかしてオレのファンです? 人形に関しては明日、工房に来てくれませんかねぇ」


肇は片目を閉じて、近くにいる人形《鳥達》を探り、近くに来るように指示をする。

 猫を抱える腕に僅かに力が入っていることに気付き、小さく息を吐きながら、力を一緒に抜く。


「お前の人形には興味ない。興味があるのはお前の能力だ」

「……はい? 能力ですか? それはオレの人形作家として高い能力ってことですかね?」

「ふざけているのか? お前の人形を本物のように動かせる能力のことだ!」


苛立たしげな男に肇は「はて?」とわざとらしく首を傾げる。


「それは、オレの作品が本物みたいだって褒めてくださってるんです? それは嬉しいですねぇ」

「誰も、そんなこと言ってないだろ! お前が能力者だってことは調べがついてる。一緒に来てもらおうか」


男はそう言いながら、懐から拳銃を取り出した。


(これは、まずいかもしれないな)


 肇は背筋がブルリと震えるのを感じた。安心させるようにか、抱いている猫のザラッとした舌が肇の手を舐める。

 どうしたものかと考えていた、その瞬間に男の背後に人影が突然現れた。

 人影は銃を構えている男に対して、一切の躊躇なく首へと手刀を切った。


 倒れていく男の後ろから、小柄な黒いフードを被った人物とその後ろに控えるように一人の茶髪の青年が見えた。

 目元までフードで顔を隠した人物はニヤリと口元を歪ませながら、どこか観劇でも見るかのように楽しげだ。


「一宮肇だな? 身の安全の保護と引き換えに取引をしないか?」


 有無を言わさない発言に、拳銃を向けられるよりもやばい奴が来たのでは? と肇は無意識に一歩後ろへと下がった。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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