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ep142 予想外の人物

 朝の8時頃、蒼は徹夜で少し眠たい目をこすりながら琉架の部屋をノックした。


 昨夜、天音達がよく麻雀大会を開催しているから暇つぶしに乗り込もうかと思ったが、会場となっている部屋はもぬけの殻だった。流石に今の状況じゃ娯楽には興じられないよなと思わず笑う。

 蒼は自分に振り分けられた部屋へ戻ると、携帯を弄りながら情報の整理をして夜が明けるのを待った。

 安心して眠れる場所は、駿河家と師崎家以外にはないのだから。


 部屋のノックをすると比較的すぐに扉が開いた。中からまだ少し眠そうな琉架が出てくる。


「おはよう、蒼さん。早いね」

「おう! 気になったら早めに片付けたいからさ!」

「元気なのはいいことだけど、約束の時間は10時だよ? まだ余裕がある」

「うん、だからそれまでの時間パソコンを借りたくてさ! 一緒に出かけるから探しに行かなくても良いし、一石二鳥だろ」


 蒼は部屋に入りながらピースサインをする。琉架は変わらない笑顔で迎え入れてくれた。

 美月と同様に、ある一線さえ越えなければニコニコしているタイプだなと昨日今日で大体把握できた気がした。


「パソコンは昨日と一緒ので大丈夫?」

「大丈夫。というか、すげー使いやすかった」

「ならよかった。自作なんだ」

「マジ? すごいな」


 蒼はパソコンの前に座ると、ちらりと琉架を見る。


「琉架さん、防犯カメラのハッキングとかしても問題ない?」


 少し迷ったが、蒼は自分がこの部屋に来た真の目的を果たすことを優先する。琉架の笑顔が『ハッキング』という言葉を聞いて固まった。しかし、ソレも一瞬ですぐに柔和な笑顔が現れた。


「ここは神庭会のセキュリティ確認の場でもあるから、問題ないよ。何度もハッキングにそのパソコン使われているから」

「へぇー、なら遠慮なく」


 蒼はパソコンに向き合うとそのまま慣れた手つきで宮端商店街の防犯カメラのハッキングを始めた。



 ◇◇◇◇



 「――さん、蒼さん」


 パソコンに映し出されている映像に集中していると、誰かに肩を揺すられる感覚があった。蒼の意識が現実へと戻る。


「ん? 琉架さん、どうした?」

「そろそろ出る時間だから、準備しようか」

「え? もうそんな時間か」


 蒼は驚いて、パソコンの右端で『9:20』と表示されている時刻を見て、集中しすぎたなと笑う。


「約束の場所まではそんなに遠くはないけど、車で行こうと思って。蒼さんは人の運転する車大丈夫?」

「問題ないよ。それより、本当にオヤジさんや天音さんに言わなくていいのか?」

「……うん、とりあえずは同級生に久しぶりに会いに行くだけだしね。そのついでに蒼さんを送っていくってことになったから話は合わせてね?」

「わかってるよ」


 口頭で最終確認をすると琉架に続いて蒼も部屋を出た。階段を降りて、玄関へと向かう。

 驚くほど誰とも会わない。


「そういえば、今更なんだけど蒼さん、学校は……?」

「ん? 基本保健室登校でテストさえ出ればサボっていいって、校長? あれ、理事長だったか? から許可もらってるから平気」


 今日が月曜日だとやっと気付いた様子の琉架が少しオロオロとする。蒼は気にしなくてもいいのになと笑いながら答えたが、なんとも言えない表情をされた。

 流石に一児の父親に学校はサボっても問題ないというのはまずかったか? と少しだけ反省する。


「僕としては、平気? って思うけど蒼さんにも蒼さんなりの事情があるんだよね。これは僕が口を挟むことじゃないか」

「そうしてくれると助かるな」


 やや不服そうな様子を隠しもしない琉架に蒼はバレないように笑った。昨日一緒に過ごしただけで琉架にとって蒼は取り繕わなくてもいいという分類になったようだ。

 ない腹を探るよりも楽なため、蒼としてもありがたい。そして、昨日は天音が運転していた車の運転席に琉架は乗り込んだ。蒼もすぐに助手席に座る。


「じゃぁ、行こうか」


 琉架の合図とともにエンジンのかかった車はゆっくりと走り出した。



 ◇◇◇◇



 閑静な住宅街を走り、10分ほどが経過した。もう少し車を走らせれば宮端商店街に着くなと窓の外を眺めながら蒼は思う。

 琉架の運転する車は、大通りから1本細い道へと曲がると、少しして停止した。

 琉架は窓から見える小さな平屋と携帯を交互に見ていた。


「ここ?」

「うん、送ってもらった住所だとね。車どこに停めようか」


 車を路駐するには道は少し細かった。キョロキョロと琉架は車を停められそうな場所を探している。

 すると、平屋から1人の青年が出てきた。


「……え?」


 その青年の顔を見て思わず蒼は声をこぼす。その声につられたように琉架も平屋を見た。


「一宮じゃないな。蒼さん、知り合い?」

「あー、うん……。なんかさ、思った以上に俺らの動きは知り合いの手のひらの上だったみたいだ」


 流石にここまで来ると唯華は蒼に何かをやらせるために仕組んでいるとしか思えなかった。平屋から出てきた、唯華《吹雪》の自称従者である葵を見ながら、蒼は乾いた笑いを浮かべる。


「というか、アイさんまで出張ってくるのは予想外すぎるだろう」


 琉架と天音の同級生にあたる能力者、一宮は一体何者だと蒼は少しの好奇心を内側に押し隠しながら気を引き締めた。

 葵は運転席に座る琉架に声をかけて、敷地内へ車の誘導を行っていた。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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