ep141 手のひらの上で踊る
パソコン画面に映し出された長髪の青年を見て琉架が人名を口にした。蒼はすぐに隣に立っていた琉架を見た。
「この人、琉架さんの知り合い?」
「あっ、うん。同級生。だから、天音も知ってるよ?」
「そうなんだ。何者?」
蒼は気になったことをすぐに言葉にする。琉架は少し困ったように笑う。
「ごめんね、高校までの同級生だけど、そんなに親交はなくて。今は何をやってるかも知らないんだ」
「そうか、でもこの三毛猫はカメラを運んでいる猫なのは間違いない気がするんだよな」
うーんと蒼は無意識に顎に手をやりながら唸る。
「友達に情報通がいるから、連絡先知っているか聞いてみようか?」
そんな蒼を見て琉架が少し考えながら携帯を取り出した。
「連絡取れるなら、取って欲しいかも。三毛猫の正体が少し気になって」
「三毛猫の?」
「うん、賢いだけなのかもしれないけど、動きが少し規則的でなんか、気持ち悪くて」
「そうかな、僕はあまり気にならなかったけど……」
琉架は首をかしげながら、携帯を操作していた。慣れた様子で文字を打ち込むのをなんとなく蒼は見守る。
「とりあえず、返事待ちかな。それよりも、これさっき言っていた隠しファイルのだよね?なんで一宮の写真が入っていたんだろう?」
「多分、三毛猫の写真があるから猫関連だとは思うんだよな」
琉架の質問に答えながら蒼は考える。写真の人物は琉架の知り合いだった。もしかしたら文章ファイルも琉架から手がかりがもらえる可能性があるのではないかと結論を出す。三毛猫の映像を一緒に見たことで蒼の中で琉架の解像度が上がった。
きっと、隠しファイルの件でなにかに巻き込まれることになっても、琉架の芯の強さならなんとかなると今なら思える。
「琉架さん。さっきは巻き込まないようにしようかなと思ったけど、やっぱり巻き込んでいい?」
「もう巻き込まれていると思うし、いいよ。僕は全然巻き込んでもらって構わないからさ。ただ、美苑や華恋ちゃん……この2人まで巻き込まれそうになるなら別かな? 2人は神庭会《この家》にいるとはいえ、一般人に近いからさ」
「わかってる!」
蒼は、頷くと迷わずに文章ファイルを開いた。
「うーん、これは報告書?」
「やっぱり、琉架さんもそう思う?」
「しかも、ざっと見た感じだと特に問題もなさそうだよね? 本当にこれが隠しファイルの中にあったの?」
不思議そうに琉架は首をかしげた。蒼も頷きながら、文章ファイルを見直す。
何かの実験の報告書のように見えるそれは、内容は今琉架に見せたもの以外は、人体実験や新しい盗聴器の実験結果なども書かれていたので見せるわけにはいかないが、ノアズ計画とは関係なさそうだった。
今じゃなければ、もう少し内容について精査したんだけどなと蒼は考える。
その時、携帯の着信音が響いた。
「ごめんね」
発信者を確認しながら、琉架が蒼から離れて電話に出た。何かを話している声を聞きながら、蒼はもう一度文章を読む。そして、ふと気になり、他の文章ファイルを開いていく。
後ろから琉架の声が聞こえるが、集中した蒼の頭には意味のある言葉として届かない。
(……やっぱり、どの報告書にも『人形』って言葉が入っている。それと、猫や犬みたいなペットとしていても問題のないような小動物。何か関係があるのか?)
報告書の中に人形や小動物の単語が考えてみると不自然なほどに出てきている。先程の画像に写っていた人物と三毛猫に関係がある。一気に蒼の中で可能性が強くなった。
「えっ!?」
思考が一段落したところで、琉架の驚く声が聞こえて思わず振り返る。
琉架は電話口を手で隠しながら相手と小声でやりとりを始めてしまい、声が聞こえなくなる。
蒼は盗み聞きを諦めて、人体実験について書かれた文章ファイルを開いた。
○月×日。
被検体へと使用していた投薬を、人形にも行う。何日か継続して行うと人と全く同じ効果が見られた。
○月△日。
人形に被検体の記憶を入れたら、被検体に成り代われるのかと話題になる。被検体の記憶を抜き出して、人形に入れてみた。最初の数日は不具合があったがそれ以降は、上手く成り代わっている。今後、重要な任務は人形に任せるのもありだろう。
×月○日。
人形を本物のように操れる能力者の存在を知る。これは、さらに便利な兵器が作れる。能力者の能力さえも人形にコピーできたら、さらなる高みにいけるだろう。
(うーん、やっぱりただの夢見る馬鹿って感じなんだよな)
蒼はさっき思ったのと同じ感想を抱く。でも、ノアズ計画には関係ないデータだ。何故、わざわざ気付かれるように唯華はこのデータを隠しファイルに入れたのか、そこが腑に落ちない。
「うーん……?」
蒼は無意識にうなり声を上げる。そして、見ていたデータファイルを閉じると、後ろを振り返った。
「電話で何か分かった?」
「うん、もしかしたらさっきの文章データに関係あるかもしれない」
携帯片手に戻ってきた琉架は少し神妙な顔をしていた。蒼の顔を見ながら少し悩ましげに視線を逸らす。
「琉架さん、時間は有限だから。どうせ話すことになるなら早いに越したことはない」
「あはは、そうだね。……今の電話は一宮からでさ」
琉架は逸らしていた視線を蒼へと向けると、笑顔を作ろうとして失敗したようなそんな歪んだ顔をした。
「能力者だったらしいんだ。そして、明日、自分の元に来て欲しいって。……何故か蒼さんも名指しで」
琉架の言葉を聞き、蒼は唯華の手の上で転がされている事実を把握した。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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