ep140 映像、そして画像に写っていたものは?
すぐに映像は始まる。基本的に猫がいても違和感のない場所を歩いているようだ。それにしても、猫というものはもっと自由気ままに動くものではないのかとどこか規則的に思える動きに蒼は違和感を覚えた。
「これが"サーカス"のアジトなんだ。結構ちゃんとしてるね」
「まぁ、人が生活しているのを考えるとなぁ。それにこの島の能力者って、漫画とかで見るような明らかに戦えます! 異能バトル勃発です! ってのより日常生活を少しだけ便利にする系の方が多いんだよな。だから、建物を補強したりする能力者がいても不思議じゃない」
「確かに、そうだね」
琉架はクスクスと笑う。やはり、能力者のいるコミュニティーで生きていると同じことを思う人もいるんだなと蒼はぼんやりと考えた。
その間にも映像は続く。猫の首輪に設置されているからか、基本的に映像は地面が近い。
『あれー? 猫だ。可愛いな。綾乃、部屋の中に猫入れても大丈夫?』
『邪魔しないなら、大丈夫です』
映像から人の声が聞こえた。蒼は思考を止めてモニターを見る。そこには先程も映像で見た立華の顔のアップが映っていた。猫を持ち上げているからだろうなとあたりをつける。会話の内容から一緒にいるのは綾乃だ。
猫は持ち上げられた状態で部屋の中へと連れ込まれた。まだ船の制作は始まっておらず、ペーパークラフト用の紙が机の上に大量に置いてあるのがチラリと確認できた。
『それにしても、こんな紙から船が出来るなんて凄いね。ボクも物づくりは好きだから少し羨ましい。でも手伝ったら邪魔なんだよね?』
『そうですね、昔実験で他の子が作った折り紙に能力を使用しても効果がなかったから、気持ちだけ受け取りますね』
『ちょっと、残念。まぁ、ボクは物づくりを見るのも好きだからいいんだけどねぇ』
立華は笑いながら猫を床に置いた。その際に、チリンと首についている鈴を鳴らす。
『首輪がついてるから、飼い猫かな? 可愛いねぇ』
『白鷺さんは、動物が好きなんですか?』
『立華だよ、綾乃』
『えっと……』
『ボク、苗字で呼ばれるの嫌いなんだ。ダメ?』
『……立華さん』
『よし! で、なんだっけ? 動物が好きかだっけ? ボクは人間含めて生物が大好きダヨ?』
猫が顔を上にあげたようで、2人の顔が画面に映り込む。
笑顔でどこか表情を読ませない立華を見て、琉架が思わずというように声を漏らした。
「……先程の映像でも思いましたが、白鷺さんのキャラはわざと作ってる感じがするね」
「あっ、やっぱりそう思う? なんか、裏がありそうだよね。こういう、人と距離を詰めるのが早い人って」
「そうかな? 僕は蒼さんも人との距離詰めるの得意な気がしてるけど」
「俺の場合は、下手に腹の内を探らせないためだから……え? もしかしてこのお姉さん、実は何か裏がある可能性もあるのか? 春宮とも仲がよさげだったし」
「その可能性は高そうだね」
蒼と琉架は顔を見合わせて頷き合う。
蒼達が話をしている間にも映像は進んでいた。綾乃は机の上に置かれた紙を1枚1枚確認しながら、船の制作作業に入っている。それを立華は猫と戯れながら見ていた。
しばらく変わり映えのない映像が続く。特に話し声もなく、画面内では時折、鈴の音が響いていた。
そして、唐突に映像が切れた。
「……この先は特に代わり映えしないってことだろうね、次行くか」
蒼はすぐに映像が途切れた理由に当たりをつけると次の日付をクリックした。
そのまま映像を琉架と全て見る。そして、ハッキングして得た映像は全て見終わった。
「琉架さん、どう思う?」
「……多分、蒼さんと同じだと思います」
「だよな……」
お互いに息がこぼれた。
「春宮珠来の方が、もしかしたらわかりやすい人間かもしれないね。白鷺立華は腹の内が読めない」
「同感。なんか、実は春宮を白鷺が裏で操っていましたって言っても俺は驚かない自信がある。まぁ、そんな面倒なことをやる性格ではなさそうだけど」
「そうだね、腹の底までは読めないけど、映像から軽くプロファイリングしただけだと、快楽主義者な感じだもんね」
琉架の言葉に蒼も頷く。話が通じて、説明の必要がなくて楽だなと蒼は琉架の評価を改めた。
「なー、それと島から出ることよりもこの計画を楽しんでそうな節があるよな」
「確かに……。後から"サーカス"に合流した坂下綾乃よりも島からの脱出に興味がなさそうだよね」
「中心人物でいながら、このスタンス。これ、泥船の可能性すら出てきたな。春宮の演説では1枚岩に思えたけど、すでに一人違う方向を向いている奴がいる」
蒼は顎に手を当てて考える。なにかあと1つでもピースがあればと思う。
そして、思い出す。先程の隠しファイルの存在を。
「もしかして……?」
蒼は琉架が見ていることも忘れてマウスを動かし、先程の隠しファイルを開く。そして、そういえば確認していなかったなと画像ファイルを開いた。
「え?」
「あれ? 一宮?」
そこには先程までの映像を記録していた三毛猫を抱いた一人の青年が映っていた。




