第二章ー騒動ー①
翌日の昼、港は騒がしかった。
一隻の連絡船の周りに人集りが出来ており、その先頭には警察が控えている。
"サーカス"と名乗る一団に御影島から本島に向かう連絡船の昼の便が乗っ取られたのだ。そんな騒動を少し離れた位置から眺めているどこか苛立たしそうにした中年の男がいた。
「あいつ、"明日面白いものが見えるぞ"って、こうなる事が分かってたのか!?」
「落ち着いてください、中原さん。今はこの状況をなんとかするのが重要です。相手は"サーカス"を名乗っているんですよ」
中原と呼ばれた男は隣にいる人物を見た。中性的な印象を持たせる白銀の髪の青年は"サーカス"という単語を発する時だけやや眉間に皺を寄せながらも物腰柔らかく微笑みをたたえている。
「しかし、この状況をどうしろっていうんだ!?日向、お前は何かいい案でもあるのか」
「ありませんよ。とりあえず目的を考えましょう。それが何かの糸口になるかもしれませんから」
青年ーー日向昴は困ったように苦笑しながら自身が乗ってる車の前に立っている警察官ーー中原に自分の考えを伝える。
「すでに1時間ほど経過してますね。目的は島からの脱出かと思いましたが、違うのでしょうか。とりあえず一度この場から離れましょう」
「なんでだ」
不機嫌さを隠す事もなく中原は昴を睨みながら言った。
「あなたは一度、頭を冷やすべきです。それにここまで大ごとになってしまったら中原さんはこの件に表から関われないでしょう?それに和泉さん達なら何か知っている気がしますし」
「……それもそうだな」
自分が今、冷静手間はない事を自覚していた中原はしばらく考えた後に頷くと、車に乗り込んだ。
そして、車のエンジンをかけて港を後にした。車が発信すると昴は運転している中原を見る。
「良かったんですか?」
「何がだ」
「いえ、提案した私が言うのもなんですが、現場を離れてしまってです」
「それならなんの問題もない」
そう言って中原は悪戯っ子のように笑う。
「お前もさっき言ってたが、あそこまで大ごとになっちまったんだ。だから俺らの出番はない」
「そうですか。それなら安心です」
そう言い、昴は整った顔に微笑を浮かべた。それから車内は無言で道を進んでいった。
♢♢♢♢
「あら、珍しいお客様ね」
港から10分程車で走り、2人は目的の場所に辿り着いた。広い屋敷の前の邪魔にならない位置に車を停めて、屋敷の中に入る。
屋敷に入り、靴を脱ぎ玄関続きの扉を開けると広大な空間が広がっており、机や椅子、ソファが至る所に置いてあり、どこかホテルのエントランスを沸騰とさせる。慣れた様子で中に入ると屋敷の住人の1人である女性がソファに腰掛けたまま物珍しそうに2人にいった。
「姫さん、こんにちわ。和泉さんか美月さんはいますか?」
柔和な笑みを浮かべながら昴は屋敷を訪れた理由を口にする。
「和泉は隣でお仕事中で美月は買い物に出かけましたよ?今ここに居るのは私と双子だけですわ」
鬼頭姫はそう言って笑う。
「残念でしたわね」
するとその言葉に反応するように顔がそっくりな小学低学年ぐらいの少女が2人、姫の座っているソファの横から飛び出してきた。
「お客さんだぁ」
「お客さん、いらっしゃい」
人懐っこい笑顔を浮かべて、2人は中原達に近づく。
「2人共、お客様は遊びに来たわけでわはないですわ。もう少ししたら他の子達も帰ってくるでしょうから離れたところでまた遊んでなさいな」
「「はーい」」
2人は元気に返事をすると離れた場所にある大型テレビの前に戻り、ゲームの続きを始める。
「お二人は相変わらず見たいですね」
そんな2人を優しく眺めながら昴は笑った。
「そうですわね。悪い見本が近くにいるから、教育上大丈夫か心配ですけど」
そう言い、2人を自分の向かいのソファに座るように促した。
ソファに座るとすぐに中原は本題にはいる。
「鬼頭、今港で起きている事件を知ってるか?」
中原が真剣に問う。深刻な問題だと声で察した姫は姿勢を正す。
「知りませんわ。テレビは双子が独占していますし、そう言う情報はいつも美月から聞いているんですの。それよりも情報屋に聞いた方が早いのではなくて?」
「そうだったな。あいつには電話してるが出ない!どうせいつもの如く事件にキリがつくまで着信拒否されてる」
中原はそう言うと黙り込んだ。何かが起こるとだけ昨日連絡してきてすぐに電話を切られ、以降は何度連絡しても繋がらない。頼れるならここにくる前に頼っている。
ここに来たのは失敗だったかと考えていると、今まで黙って何かを考え込んでいた昴が動いた。
無言で姫に近づくと、彼女の額に自分の右掌を乗せる。
「今から私が先程見た光景を貴女の頭の中に映します。話はそれからで……」
そう言うと昴は集中するように瞼を閉じる。非現実的な事を昴は言ったが誰1人疑問に思った様子はない。それどころか当たり前のように受け入れていた。
「……おいおい、なんであいつ経由の知り合いは本職を無視して話を進めるんだか」
その様子を見ながら中原が小さくぼやく。しかし昴を止めようとする様子はない。
そして胸ポケットからタバコとライターを取り出し、一本吸おうとした。
「ここは禁煙ですよ」
しかし玄関から新たに入ってきた人物によりそれは止められた。そこには買い物袋を持った女性と少年がいた。
「あっ、悪い」
中原はバツが悪そうに謝るとタバコとライターをしまう。それを確認すると買い物袋を近くの机に置いて、女性は中原に笑いかけた。
「こんにちわ。昴くんが姫に映像を見せているのはいつもの事ですけど……中原さんまで来ているって事は何かこちら絡みの事件でも?」
「ああ、港での事件は知ってるか?」
「えぇ、先程大地君と見てきましたから、ね?」
そう言って隣の少年ーー大地に確認するように笑う。
「うん。買い物の帰りに人がいっぱいいたから、僕が美月お姉ちゃんにお願いして見に行ったんだよ!」
大地は元気よく答える。
「でも、両目の色が違うお兄ちゃんに早く帰れって美月お姉ちゃんが怒られちゃって……」
「……おい、駿河」
"両目の色が違うお兄ちゃん"という単語に中原はピクリと眉を動かして駿河美月に声をかけた。
大地の言うオッドアイの男に中原は覚えがあった。
「えっと……中原さんの想像通りの人物ですよ」
「はぁ……何をやろうとしてるんだ、あいつは」
口では軽い調子で言うが中原は内心でため息をつく。
(あいつが動いてるって事は碌なことにならんな……)
「あら?美月達帰っていらしてたの?」
中原が落ち込んでいると、その後ろから姫が声をかけた。
「ええ、先程戻ったばかりよ。昴君がいるって事はすでに港で起きてる事を報告する必要はないかな?」
美月の言葉に姫は頷く。
「昴さんに全て見せてもらいましたわ」
姫から手を離した昴は横でにこりと笑っている。
「お邪魔しています、美月さん。私と姫さんの能力の相性はいいですから」
「いらっしゃい、昴君。昴君の能力が姫の目になっていて助かってるわ」
姫は生まれつき目が見えない。音や気配で人や物の位置を把握しているがその目は光を映す事はない。しかし、姫は色も人の顔も把握していた。それは昴の持つ力は世間では超能力と言われる物だ。
フィクションの存在だと思われている透視や瞬間移動、水や火を操るそんな超能力は実際に存在していた。しかし、その事実を知っている者は少ない。他とは違うものを迫害する人間の性か、存在を知っている無能力者は強力な力を持つ者たちを能力者と呼び、差別と管理をしていた。能力者だと国や島の上層部にバレると強制的にこの御影島に連れて来られ、一生島外に出る事を許さない。
この島の連絡船が毎日運行していない理由として、能力者を逃さない為だ。はるか昔より決まっていた理不尽な差別。この島は能力者にとっては監獄にも等しい。国や島の指示に従う者には能力を人前で使わないという誓約の元、島の中に限りだが自由に生活する事が許されていた。
しかし、島の外に出ようとしたり、反抗的な者は島の端の一角に掃き溜めのように押し込まれ、普通の生活を送ることさえ困難な状態に追い込まれている。それがこの島の裏の顔だった。
能力者対策部署。それが中原の警察内での所属であり、比較的島に協力的な能力者がこの屋敷の住人である。中原は必要悪はあると考えており、度々この屋敷に協力を仰ぎにきているのだった。
「とりあえず客間に案内します。いつまでもここで話すのもあれですから」
中原達に対してそう伝えると、一緒に帰ってきた大地のに向かってほほ笑む。
「大地君、その荷物を運んだら部屋に戻っていいからね」
「うん」
大地は元気よく頷くと、自分の荷物を持って奥のリビングへと向かう。
「姫、客間までの案内をお願いね」
美月は姫にそう指示を出し、買い物袋を持ち、大地の後を追うようにリビングへと消えていった。
「盲目ですけど、この家の中なら問題ないですわ、それではお二方、こちらです」
そして姫は2人を客間へと案内した。




