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ぱんどら  作者: 星川宙
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第一章―はじまりー⑩

「当夜、どこ行ってたんだ?」


 翼に連れられて寮に戻ってきた当夜を純は呆れたように部屋に入れる。


「九条さん、ありがとね」

「別に私は良いよ」


 純のお礼を適当に流しつつ、翼も部屋に入った。


「お前の部屋は隣だとさ」

「さっき九条から聞いた」


特に興味がなさそうに当夜はそう言って我が物顔で純のベッドに腰掛ける。それを苦笑しながら見ると純は翼に向き直った。


「やっぱり迷子か?」

「うん」


翼は当夜の方を見て頷いた。


「とりあえず寮長に見つかるまでに帰ってこれて良かったよ」


 そして翼が胸を撫で下ろした瞬間に部屋にノック音が響いた。


「あっ、はい」


 純は来訪者を確かめに向かう。そしてすぐに1人の背の高い女性を連れて戻ってきた。


「誰だ、そいつ?」


 幼馴染の後ろにいる人物を訝しげに見ながら尋ねる当夜。一方の翼は微かに顔が青くなっていた。


「如月先輩……」

「ほぉ、九条がいるとは珍しいな。そして結城当夜、私は如月(きさらぎ)和希(かずき)。この第二寮の寮長だ」


 当夜の問いに堂々と答えながら和希はニヤッと笑った。


「新入生ーーといっても本島から来た奴らだけだが、この寮の決まりを説明しに来た」

「話なら九条から聞いてる」


 偉そうに話す和希を睨みつけながら当夜は挑発するように言う。しかし名前を出された翼は溜まったものではない。如月和希は怒らせると手がつけられない事で有名だ。中等部時に寮が一緒だった事もあり、翼は和希と縁があるし、彼女の事は良くも悪くも理解していた。そしてその結果、なるべく怒っているところに遭遇したくないと結論を出していたのだ。


「九条が説明した内容と私が説明しようとしている内容が一緒だとは限らない。よく聞いておけ"新入り"。私はこの寮の寮長だ。ここじゃ1番偉い。よって私がルールだ。わかったか!!」


 まるでその辺のチンピラのような事を言いながら、当夜に人差し指をさして言う。そんな和希を見て、純は小さく翼に尋ねることにした。


「九条……」

「うーん、問題を起こしたり、明らかに逆らったりしなければ、害のない人だから……」


 苦笑しながら答えになっていない事を小声で返す。そしてため息を一度つくと和希に向き直った。


「先輩、時間は大丈夫ですか?」

「ん?あと20分ぐらいで夕食の時間だからまだ問題ない。それにこいつらが最後だからな」


 腕時計を確かめながらそう答えると和希は2人に向き直った。その隙に部屋から逃げ出そうと試みた翼だったが、和希はそれを許さなかった。


「九条、お前もいろ。2人の方が効率がいい」


 指をポキポキと鳴らしながらそんな事を言う。


(……なんの?)


 当夜と純は和希の気迫に負けてたじろぐ。翼はまるで慣れているかのようにもう一度ため息をつくと和希の隣まで歩を進めた。


「先輩……真面目にやってください。そして私は先輩の部下じゃありません」


 先程とは違い、翼の言葉の中には棘がたくさんあった。しかし和希はそれを笑って流す。


「さてと、ますわ全寮共通ののルールからだ。学園の意向でほとんど"自由"なんだがな」

「あれは自由っていうよりも……」

「九条、余計な事は言わんでいい。で、とりあえず寮の部屋割りからだ。1階は主に全員で共有で使う部屋が多い。食堂や図書館などだ。そして今年度は2階が2年、3階が3年、4階が1年の部屋がある。特に階内での行動は自由だが、常識の範囲内で行動しろ」

「ちなみに昔、鍵をかけ忘れた如月先輩の部屋に入り込んだ馬鹿がいたけどバレて半殺しにされていた」


 翼が淡々と昔あった例を挙げる。2人は何故かその光景が目に映るようだった。


 "この人ならやりかねない"


 ほんの少し言葉を交わしただけだが不思議と確信していた。


「昔の話は出さんでいい。もしくだらねぇ事しやがったらペナルティがあるから覚悟しておけ」

「いや、そこはやるなと言いませんか!?」

「やるなと言ってもやる奴はやるからな」


 何かを思い出したように拳を震わせながら和希は続ける。


「……で各階ってか学年に代表を1人ずつ決めて、もし、緊急事態が起きたらそいつに報告して寮長ーーまぁ私にそれを連絡するというめんどくさいものがあってだな」

「多分、話についてこれてないと思いますよ?」


 和希の話を首を傾げながら聞いている2人を見て翼は助け舟を出す。


「なら、お前が説明しろ」

「嫌ですね、めんどくさい」


 しばらくの間、2人は睨み合いを続ける。しかし決着はすぐについた。


「九条、寮長命令が聞けないのか?」

「……職権濫用」


 翼は小さく呟くと2人の方を向き直る。


「えっと、寮長1人で寮の生徒全員に目を配らせる事は不可能だから学年でそれぞれ代表を1人決めて補佐をしようと言うことになったらしいの。さっき先輩が言おうとしたのは、誰かがイレギュラーな事を起こした時にまずはその代表に知らせて、代表でもどうにも出来なかった場合は寮長に報告して学園の指示を仰ぐっていうマニュアルがあるんだって。まぁ、そんな事はよっぽどの事がない限り、意味ないんだけどね」


 翼はそう言うとわかった?と2人に尋ねた。そして2人が頷いたのを見て微笑む。


「ちなみに、1年の代表は九条だ」

「へぇー」

「そうなんですか」

「は!?」


 和希の言葉に当夜と純はもちろん、名前を呼ばれた翼が1番驚いていた。


「お断りします。そんな生贄嫌ですね」

「生贄って……。お前に拒否権はないぞ。何か問題が起きた時に冷静に対処出来そうなのがお前しかいない。というか前々から言っているが、私はお前と山吹は普段よりもイレギュラーが起きた時の方が頭が冴えていると思うんだ」

「それが?」


 翼が寮の学年代表を生贄と初めて説明を聞いた時に言っていた事を和希は知っていた。しかし、新入生全員に挨拶した上で翼以上の適任者はいないと思ったのは事実だ。 心底嫌そうな顔をしている翼を適当に流しながら、当夜達に向き直る。


「二寮のルールは2つ。1つは問題を起こさない事。そして2つ目は私に逆らうな」

「……つまり二寮としてのルールはないって事か」 


 大胆不敵に言った和希に当夜は思った事を言った。それを聞き、翼がいきなり笑い出して、当夜の疑問に回答する。


「元々変なルールあったんだけど、如月先輩がバッサリと切って捨ててなくなったらしいよ」

「はぁ……、まぁガキにキレても仕方がないか。結城は無駄だとして、三好は何か質問はあるか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか、もうすぐ夕食の時間になる。遅れずに食堂に行けよ」


 純にそう返すと和希は笑いながら翼の襟首を掴む。

「ん?」


 そして翼を片腕で引きずりながら部屋の出口に向かう。


「では、九条は借りていくぞ。あと最近何かとこの島は物騒だから夜の外出は控えるようにな」


 そう言って文句を言う翼を無視して一緒に部屋を出ていった。


「嵐のような人だったな……」

「ああ……」


 そんな姿を見送って、2人は正直な感想を口にした。



♢♢♢♢



 暗闇の中、武装した集団が一つの机を囲み話し合っている。


「吹雪の情報によると、侵入口はここだな」


 机の上に広げた船の見取り図の一角をリーダー格の男が指差す。


「計画は順調だ。一応武器も入手した。これでこの生活からおさらばしようぜ」


 リーダー格の発言に周りに集まっていた仲間達は腕を上げ士気を高める。

 その様子を黒い服に身を包んだ女が覗いていることに気づかずにーー。


そして夜は更けていき、朝が来る。

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