鉱石ラジオと発明の音色
旅の道中、時折ハマナスとコナタは廃墟の軒先を借りることがある。
静かな小屋であり、住人の気配はない。
部屋はリビングらしく小ぶりなテーブルと2人分のイス、暖炉があるのみだった。
ハマナスはおびえたフクロウのように、もしくは縮めたアコーディオンのように身を細くする。
「ちょっとお借りしますね~…」
「ハマナス、毎回小声で言い訳しなくてもいいんじゃないか?」
「誰が聞いてるわけでもないし、どうどうとしてりゃいいんだよ」
コナタはハマナスの頭の帽子から古びたイスの背もたれへ移ると毛繕いを始めた。
「誰か聞いてたときが問題なんだって。すみません、悪気はないんです。ちょっとお借りしますね~…」
そんなとき、ふと隣の部屋から人の声が聞こえてきた。
「はひゃぁ!?!? しゅみません!」
「おぉ、悪いがちょっと軒を借りるぜー」
2人の返答に対し、人の声は途切れ途切れに。しかしぶつぶつと何かをつぶやくのみ。
ハマナスとコナタは不審に思い、顔を見合わせて隣の部屋へ向かう。
向かった部屋は寝室であり、人の気配はない。
しかしベッドの下からは確実に人の声らしきものが聞こえてくる。
「ひっ! な、だ!?」
「なんでそんなところに、だいじょうぶですか?ってか。さぁな、もしかしたら人ならざる悪霊だったりしてな」
「ほんとうにコナタやめて!?」
コナタが足で器用にベッドのシーツをめくると、下には誰もいない。
声の主は1つの小さな小箱だった。
ハマナスが手に取ると断続的な声は次第にクリアになり、歌が聞こえてくる。
「なんだ、この変な箱は?」
「これ鉱石ラジオってやつだ。昔、お父さんが持ってた」
「ラジオ?」
首をかしげるコナタに、ハマナスはリビングへ戻ってそれを丁寧にテーブルの上へ置く。
「うん。私が生まれたくらいのときの発明品なんだって。遠くの離れた音が聞こえる機械だったっけ?」
ハマナスはうれしさや寂しさが残る声で、暖炉に火を灯す。
暖炉の熱と鉱石ラジオから流れる懐かしさの残る曲が部屋に満ちていく。
「それじゃ今もどこかの誰かがこの曲を流してるってことか?」
「そのはず。どこか音を流すための塔があって、そこから流れてるはずだよ」
「ふぅん、人が滅び行くかもしれないってときにか。そいつは……いいな。曲といいセンスといい、なかなかイイ趣味してるぜ」
コナタは曲を気に入った様子で聞き、くちばしをコツコツ鳴らして音を食べている。
ハマナスも落ち着いた様子で暖炉の火で暖まりながら、ラジオの音に耳を傾ける。
代わる代わる、様々な曲が流れてゆく。
街で流行りの曲、懐かしい曲、両親が好きだった曲、遠い国で歌われてきた曲。
今、どんな人がどこで聞いてるのだろう。
それぞれの人の思いがラジオから流れてくるようだった。
ラジオに耳を澄ませるハマナスに、コナタは良いアイデアを思いついたと、得意げに鼻を鳴らす。
その様子にコナタは良いアイデアを思いついたと、得意げに鼻を鳴らした。
「明日、そのラジオ塔とやらを探してみないか? ここからそう遠くないはずなんだろ?」
「うん。そのはず。でも行ってどうするの?」
「そんなもん決まってるじゃないか。この音楽の礼を言いに行くのさ。ハマナスの演奏を土産にしてな」
「え!? う、うーん。ちょっぴり恥ずかしいけれど、お礼なら、頑張る、かな」
どこもかしこも人が滅びた気配や傷ついた精霊ばかり。
でも、今日一日だけ2人は暖かな気持ちで静かな夜を過ごした。




