廃炭鉱ともぐらのオーディエンス
暗く、長い炭鉱を楽士の少女ハマナスとふくろう精霊のコナタが進んでいる。
「ねぇコナタ。本当にこの道であってるの?」
「オレを信じろって。確かにこの先から音がするから大丈夫だ」
「同じところをぐるぐる回ってる気がするよぉ…」
しかし、ランタンで周りを照らすが、どこを見ても同じような景色ばかり。
木の枠組み、つるはし、石炭の入っていた箱、なにかよくわからない道具の数々。
「なにもいないよね…」
ハマナスがおびえながら一歩、前へ進む。
「おい、ハマナス! つかまれ!」
「ひょあ!?」
コナタが足を差し出すが、ハマナスは気の抜けた返事を返すだけ。
そのまま、土砂の道を滑り落ちていく。
「ひえええ!? ごめんなさいごめんなさい、おかあさんおとうさん先生町の人」
とっさに死を覚悟したハマナスはなにも果たせず死んでいくことに謝り続ける。
しかし、数メートル下の崩れた岩山へ滑り落ち、止まった。
「いてて、あれ、生きてる……?」
「おーい、大丈夫か」
飛んできたコナタはふわりと、ハマナスの頭に降りてくる。
落下したハマナスは、落ちたランタンがまだ無事なことを確かめると何匹かの小さなもぐら精霊と目が合った。
「ひええええー!?!?」
「わーにんげんだー!」「すべりだいたのしそー」「ぼくもやりたーい」
ハマナスの悲鳴に、もぐらたちは笑顔で返してくれる。
なんだなんだと他のもぐらたちが集まってきた。
「ひとだー!」「ひさしぶりにみたー」「おなかへったー」
もぐらたちは久しぶりにみた人に、興味津々といった様子。
「あの、えと、そのぉ」
我先にと集まるもぐらたちに、なんと返事したらいいか迷うハマナス。
「オレはコナタ。こっちのはハマナス。ちょうど迷っててな。この先の街へ行きたいんだが、案内してくれるか?」
「いいよー」「でもただじゃなー」「おんがくきかせてー」「こっちへ来てー」
もぐらの返事に、2人はひとまず一安心する。
ハマナスは「やっぱり迷ってたんじゃん…」と小言をコナタに投げつけるが、当の本人は口笛を吹いている。
もぐらの案内のまま、先へ進むと開けた場所へ出た。
錆び付いて壊れた鉱石ラジオや炭鉱用の道具が洞窟内にちらほら落ちている。
ノイズの被害が少なかったのだろう、もぐらたちは元気な様子だ。
「ここで聞かせて-」
手頃な木箱に腰をかけると、一息つく。
落ち着いたハマナスはもぐらたちを見る。
「もぐらさんたち、どんな曲が好き?」
もぐらたちは口をそろえて話す。
「おっちゃんたちが聞いてた曲がいい」
「どんな曲か覚えてる?」
「うーんとねー、あかるい曲!」「楽しい曲!」「とんてんかん!とんてんかん!ってカンジ!」
あいまいな返事に、コナタは首をかしげる。
「まったくわからん…。ハマナス、できそうか?」
「うーん。…難しいけど、やってみる」
ハマナスは一度目を閉じて、耳を澄ませる。
「なにしてるのー?」
「まぁ見てな。すぐ聞かせてくれるだろうさ」
もぐらとコナタを横目に、ハマナスがつぶやき始める。
「たくさんの人が、つるはしを叩いてる。鉄琴みたいな音がする。あと歌。歌を歌ってるみたい」
うつろな目のハマナス。その目はどこか遠くを見ている。
もぐらたちのささやき声は徐々に遠くなり、今はなき人々の声が聞こえてくる。
「こいつはな、人の思いとか心が聞こえるのさ」
炭鉱がまだ生きていた頃。人々の活気が洞窟に満ちていた頃の音。
ハマナスは自分のからくり楽器を組み替えて、小さな鉄琴を作り出す。
聞こえてきたリズムに合わせて、カンカンと楽器をたたき始める。
「わぁ、この曲だー」「みんなうたうぞー」「なつかしいー」
もぐらたちが目を輝かせ、喜びの声と一緒に、手拍子とともに歌い出す。
「おれらもぐらの、どうくつだ~。ながいみちのり、えんやこら~。掘って石炭、おたからのやま~」
気を良くしたコナタも歌に混じり、炭鉱の広場はコンサートホールになった。
ハマナスが鉄琴を叩くと、もぐらたちは身につけたヘルメットを叩く。
キンキン、コンコン。
金属音の合間に、コナタともぐらの歌声が響く。
小気味良いリズムが混ざり合い、炭鉱の土壁に木霊する。
その音はどこまでも、深く、深く響いていく。
それは過ぎ去ってしまった炭鉱に活気が戻ってくるかのようだった。
しばらくして、気を良くしたもぐらたちに連れられてハマナスとコナタは案内されるがまま、長い洞窟を歩く。
もぐらたちはハマナスたちのスピードに合わせてくれているが、曲がりくねった暗い道を危なげなく歩きつづける。
「すごい。スイスイ行くね…」
「おいらたち、もぐら。ここにいてながいのだー」「ベテランですからー」「でも人がいなくてちょっとさみしいー」
なんて返したらいいのだろう、とハマナスは黙ってしまう。
人がいなくなってどれだけの月日を過ごしたんだろう。
素敵な歌やリズムが洞窟に響かず、静かな暗闇の中で過ごす日々を想像し、ハマナスは恐怖した。
そんなことを考えているうち、あっという間に出口へたどり着く。
出口から差し込む夕日はすでに傾きかけている。
まだ先は長いが、遠くには町が見えた。
「外の空気だー! やっと出てきたー!」
「まさか出口がこんな近いとはな」
「えっへん、おいらたちをなめてもらっちゃこまるぜー」「今日はありがとー」
もぐらたちが一斉に手を振る。
ハマナスは座り、もぐらたちを見る。
「もぐらさんたち。もし、その、もしよかったら人のたくさんいるところ教えるよ」
もぐらたちはそれぞれ顔を合わせるが、すぐに首を横へ振った。
一匹のもぐらが前へ出る。
「ぼくらのいばしょはここなんだ。ここが好き。いつか、人が戻ってきたら、一緒にうたうの」
「そっか。うん、わかった。みんなも元気でね」
ハマナスとコナタはもぐらたちに改めてお礼をして、先へと進む。
「いつか、世界からノイズを晴らして、人がまた来れるようにしたいね」
「あぁ、そうだな。そのときはまたあの歌を聞かせにいってやろう」
2人は炭鉱のうたを口ずさみながら、旅を先へ進む。




