シトの置き手紙
「復讐?母さんの事?」
レイミーが首を傾げた。
「どういう事なのでしょうか....」
ランコも小首を傾げる。
母さんっていうのは、シトさんのお母さんの事だろう。
「母さんって、ランコ達のお母さんは何かあったのか?」
「あ」
ランコが、何かを思いついたように僕を見たが、すぐに顔を伏せた。
「どうした?」
「いえ、また後でいう事にするよ。それより、私達のお母さんについてだよね....昔病気で亡くなったけど、何かお母さんについて確かめる事なんて....」
ランコは、レイミーと顔を見合わせて首を傾げた。
「続きはなんて書いてあるの」
フムが、フムにも見せてと手紙の前でピョンピョン跳ねた。
レイミーが手紙を読み上げてくれるので僕達は後ろでそれを見守っていた。
「んと...子供達と兄貴は昔仲良くなったらしい。だが色々あって離れ離れになり、子供達はその後...施設に捕まって人体実験されていたぁ!?」
レイミーが、手紙を読みながら大きな声をあげた。
僕達も驚愕した。
人体実験....だからあんなに継ぎ接ぎだらけだったのか?そんな事あるかよ....しかも彼女達と友達だって事はその事実を知って相当シトさんは心を痛めただろう。
「今日俺達の元に現れたのは明確な復讐の為らしい。仲間も何人も殺された。その施設に追いやったのが俺の親父だったクソ野郎だ。奴への復讐の為に施設の人達を殺して抜け出してきたらしい」
「ボクは自分の血を呪うよ。そんな腐れ外道が自分の父親だなんて」
レイミーが手紙をぎゅっと握った。
ランコは拳を握りしめて俯いた。
子供達は、仲間も殺され自分も人体実験されて、恨みが募っていった。
何かしらで黒幕があのハゲのおっさんだと知って施設から復讐の為に抜け出してきたって事か。
「アイツを殺した後どうするのか子供達に聞くと、肝心なボスに逃げられたらしくそいつを探してぶち殺すらしい。先にこちらに来たのは復讐者がどこにいるかわかっている方から先に殺そうと思ったから」
「成る程。ここまで書いてあるがどこにボク達の母さんの事に関しては一切記されてないな。ん、2枚目がある....ここからはアーサーも関わってくるんだが...え?アーサー!?」
読んでいたレイミーが目を見開き僕を見る。
いや僕も驚きだ。
どうしてこの流れで僕が関わってくるんだ!?
「子供達の中の一人が、俺とアーサー、レイミーとランコの四人が母さんとクズ野郎と写っている小さい頃の写真を見た事があったらしい。その写真はたまたまその標的のボスが落とした物を拾った時に見てしまったそうだ」
「いや、何言ってんだよ」
思わず頭を抱えた。
本当に僕なのかそれは。
僕はランコや、レイミーや、シトさんともおっさんとでさえ、初めてあったんだぞ。
「俺は正直母さんの記憶に関して思い出そうとすると曖昧になったり、ぼやけたりするんだ。そいつは俺の過去の事、母さんの事を何か知っているかもしれない。だから子供達についていく事にした。最後に──」
レイミーは、口を閉ざした。
「俺は家を出て子供達と暮らす事にした。もう家には戻らないだろう。短い間だったが、俺とは別の天才であるアーサーに会えてよかった。元気でな。あーちゃんには、最後に会えなくて、勝手なマスターでごめんなって伝えてくれ.....終わりだ」
レイミーが僕の方を振り返る。
僕は、頭が混乱して、何が何だかわからなかった。
僕が昔イアンビリー家に来たことがある?
いや、ないはずだ。
何で?写真?人違いじゃないのか?
色々な思いがぐるぐると、もやもやと僕の心を蝕んでいく。
「ますたぁ....」
あーちゃんが、呆然と立ち尽くしていた。
あーちゃんが消えてしまうかもしれなかった時に、マスターであるシトさんはそこにはいなかったのだ。
そして、あーちゃんの目の前からシトさんは姿を消した。
「勝手すぎるよ兄貴。何だよこれ。ボク達も連れて行けばよかったじゃないか!ボク達にも関わっていることなんだから」
レイミーが手紙を握りしめて叫んだ。
ランコは、その様子を悲しげな顔で見ていた。
「お兄様は、子供達を何人も指示されたからとはいえ改造したくらい権力を持っている恐ろしい人と関わる事になるから私達を危険に巻き込みたくなかったんじゃないですか?」
伏せ目がちに拳を胸に当て言うランコに、レイミーはうーんと考えた。
「いや、だったら...何故シトは行き先まで告げたんだ?黙って普通に家出でもなんでもいえばよかったじゃないか?」
確かにそうだ。
僕達にわざわざ場所を示したと言う事はつまり──。
「ますたぁ....もうあえないの?...ますたぁ」
あーちゃんは、表情にも出せず、涙が出ないが今にも泣きそうな雰囲気で、ついには俯いてしゃがみこんでしまった。
「大丈夫だよ」
僕は、あーちゃんに声をかけた。
「僕はこれからシトさんを探しに行こうと思う。それに、権力なら相手に指示する側のイアンビリー家の方が上だよ。シトさんはそれを利用して写真を持っていた相手に近づこうとしているのかもしれない」
僕は、しゃがみこんだあーちゃんの前にしゃがみ、微笑んだ。
「大丈夫だ。絶対僕がまた君とシトさんを再会させてみせるよ。僕も聞きたい事あるし、シトさんを探したい」
あーちゃんは、僕の顔を見た。
その顔は暗闇から光を見たような表情をしていた。
「あーちゃんも、いく」
あーちゃんはぴょんと飛んできて僕の両手を自分の手で包んだ。
「あぁ、一緒に行こう」
「じゃあ準備しようか。ちょっと遠いし」
レイミーが手紙を封筒に入れてせっせと部屋を出ようとしていた。
「え!?レイミーも行くの?」
「当たり前だろう。ボクも気になる事多いし、それに君達二人じゃ何だか危なっかしい。お姉さんがついて行くよ」
レイミーは、僕を振り返りぱちんとウインクし、部屋を出た。
レイミーは準備に時間がかかるからなぁ...。
「わ、私も行ってもいい?」
「うわっ!」
いつのまにかランコが僕の隣でしゃがんでこっちを見ていた。
「あぁ、ランコも....いいけど危ない旅になるかもしれないぞ」
「大丈夫だよ。アーサーとならどこへでも行くわ...後、その、さっき言おうと思ったんだけど」
「ん?」
「えっと...私」
「何フムをほったらかしにしてぬけがけしようとしてるの」
フムがじとーっと僕達をにらんでいた。
「わ!フム...あ、そうだ。さっき僕達が話していた事ってあーちゃんと、共有はしているのか?」
「してるよマスター。まぁ、あーちゃんと合体してからだけど。これからマチミヤ地区へいくんでしょう?マチミヤ地区、さっき脳の中で地図を見て見たけれどここからだとちょっと遠いみたいだね」
「あぁ、大丈夫だよ.....フム、何かあーちゃんと融合してからちょっとお姉さんっぽくなった?」
「なんの話?マスター、フムはフムだよ」
ちらりとランコの方を見たフムは、ふいっと別の方向を向いた。
「遠出なら私達も少しは準備しないと」
ランコが立ち上がった。
「ランコ、準備って、何を準備するんだ?」
「一応工具セットを持って行こうかなって。何かに使うかもしれないし、今までで何回か使う機会があったからね。それに私達は発明家よ。発明する道具がなきゃ」
ランコは、いそいそと部屋を出て行った。
残された僕とフムは顔を見合わせた。
「さて、僕達はどうしようか」
「マスター、ランコ達の母親についてマスターは何も知らないんですよね?」
フムが考えるように腕を組んで僕を見た。
「あぁ、知らない。全く覚えがない。僕の両親は二人とも亡くなっていて、ずっと祖父と二人で暮らしてきた。それにランコとレイミー、シトさんに出会った時に会ったことがあるなら気付くはずじゃないか?」
「たしかに何でマスターが皆と写っている写真なんかがあったんだろうね」
ドタドタとせわしなくこっちに走ってくる足音が聞こえた。
「アーサー!ランコ!おかしいんだ!」
レイミーが焦った様子でバンッと現れた。
「何がおかしいんだ?」
「ボク達の母さんに関しての写真とかを探せばもしかしたらアーサーの写っている写真が一枚でもあるかと思って見たのだが、アーサーが写っている写真は愚か、ボク達が母さんと撮った写真すら一枚もないんだ!」
「....ふむ、それはつまり」
「いつの間にかこの家から母さんに関する全ての事が消されていた。ボクは仕事が忙しくて愚かにもそれに全く気がつかなかった。当たり前にあると思っていた家族写真も、母さんの生きてきた痕跡もこの家には一つもなかったんだ!」
「どうしてレイミー達のお母さんの生きてきた痕跡が消されているんだろう...」
「....わからない。わからないが、絶対何かある。ハゲはもう死んじまったから聞けない。もうその写真を持っていた相手に聞くしかないようだ」
「あぁ.....それも僕がイアンビリー一家の写真に写っていた事と関係があるのか?」
謎が謎を生んでぐるぐるともやもやと僕達を取り囲んでいた。
しばらくして、ランコとレイミーの準備が整ったと声がかかり、僕達はシトさんと子供達の向かったマチミヤ地下へと向かった。
そこに行って、きっとこのもやもやを解く鍵を持つ人物に会うんだ!
本日も読んでくださってありがとうございます。
これから最終章が始まっていきます。




