フムの微笑み
マイコプラズマがほぼ治りました。
もう二度とマイコとは縁を持ちたくない。あばよマイコ!
テキパキとした手さばきでランコが僕がその時欲しい道具を渡してくれるおかげで作業は順調に進み、ピカピカと高速で点滅していた機械は落ち着きを取り戻した。
そして変な電流が流れる仕組みになっているようなのでそれを取り除き、あーちゃんが頭に装着した時に痛くないように少しゆとりを持たせ、クッション部分を化学繊維を詰めて増やしたが、機械の面積を削って少し重量を減らしたりもした。
「すごいなぁ....君は若いのに本当に天才なんだな」
レイミーが感心しながら僕を覗き込んだ。
正直悪い気はしない。
だが僕にとってこんなものを治すのは朝飯前だった。
「ほら、できたよ」
ほい、とレイミーに機械を渡すと
「ものの30分で治しちゃったよ....」
レイミーは驚愕しながら僕と機械を交互に見て機会を受け取った。
「小さくなってるし!しかも軽くなってる!君は天才だなイアンビリー家にこないか?ランコと結婚すればいい」
レイミーがニヤリと笑って僕を見た。
「な、なにをいっているのお姉様!」
ランコが顔を赤くしてレイミーに怒る。
ランコと結婚か.....考えたこともなかったな。
「ふむ......まぁでも今はそういう話をしている場合じゃないだろう」
少し考えたが、ランコは可愛いし優しいし話も合うし、結婚するってなったら普通に結婚したいけど、今はそんな大事な話をしている場合じゃなかった。
「そ、そんな話!」
ランコは心なしかしょんぼりしているように見えた。どうしたのだろうか。
「ランコすまない....そ、そうだな。じゃああーちゃんに装着しよう」
あーちゃんは、僕達が発明している間ずっと画面越しのフムと会話をしていたようで、コンピューターのモニターにぺったりくっついて離れなかった。
「大丈夫。あーちゃん必ず一緒に戻ろう」
フムの呼びかけに、こくりと大きく頷きあーちゃんは長テーブルに寝た。
そして機械をあーちゃんの頭に被せた。
重いと思ったので機械の面積を減らした為に頭がすっぽり入ってしまうサイズだったのを帽子サイズに改良している。
「痛くないか?」
「いたくない」
僕を見て澄んだ瞳で言ったフムそっくりの彼女に、僕は素直に彼女には消えて欲しくないなと思った。
僕はフムが助かって欲しい。
でも、ランコと同じ気持ちでもある。
あーちゃんが消えるのはあまりにも可哀想だ。
「さて、そろそろ起動させよう。このボタンを押せば起動だろうな。コンピューターの方の準備ができている」
密閉されたロッカーのような転送装置にフムも画面の向こうで入っていた。
「あーちゃん、君は準備はいいかい?」
レイミーが声をかけると、あーちゃんはじっとレイミーを見つめた。
「な、なんだ?ボクをじっと見つめて」
「あのとき」
「え?」
「あのとき、けってごめんね」
「.......!」
レイミーがシトさんに掴みかかった時にあーちゃんがレイミーに飛び蹴りをくらわせたあの時か!
そう言って、あーちゃんは静かに目を閉じた。
「そんな事はいいんだよ.....こっちこそ、君が消えてしまうかもしれないのに無神経な事ばかり言ってすまなかったな。絶対助けるから」
起動ボタンを押した後、ランコはあーちゃんの左手を握った。
だから、僕は右手を握りフム、あーちゃん、頑張れ、と心の中で応援した。
必ず二人共こちらに戻ってきてほしい。
「さて、ここからがお姉さんの腕の見せ所ね」
レイミーが、またパソコンに向かって凄い速さでキーボードを叩いた。
「フムちゃんがこっちに戻ってくるまでの間に激流を少しでも弱めるからもうちょっと頑張って!」
ランコ、僕が祈るようにあーちゃんの手を握り、レイミーは彼女達を助ける為に戦ってくれている。
「頑張れ!フム!頑張れ!あーちゃん!」
「頑張って、頑張ってフムちゃん!あーちゃん!」
僕とランコは心の内を口に出していた。
「大丈夫だ....絶対助けるからボクの全てをかけてでも」
レイミーの頑張りと僕達の応援が届いたのか.......数時間後フムはパチリと目を覚ます。
「フム!フム!!」
「フムちゃん!よかったわ...よかった」
「フムちゃん....よかった。目を覚ましてくれなかったらどうしようかと思ったよ」
皆の呼びかけにフムは、ぱちくりと瞬きした後、僕の方を向いた。
「マスター」
そして、ランコの方を向いた。
「ランコ」
最後に、レイミーの方を向いた後。
「レイミーさん、ありがとう。本当に」
そう言ってフムは微笑んだ。
無表情だったフムが、にっこりと微笑んだのだ。
「マスター、ただいま。フムを助けてくれてありがとう。フムはマスターを信じてた」
僕の方をもう一回向いて僕の頰にキスをした。
「フム!?」
「ランコも、ありがとう」
そしてフムの隣にいたランコにも、
「レイミーさんもこっちきて」
レイミーにも頰にキスをした。
「わぁあ!!よかった!よかったよ!」
ランコが突然わぁあ!と大泣きしてフムに抱きついた。
「な、何よ!情けなく泣かないで!」
フムがランコの頭をよしよしと撫でていたので、僕も我慢できなくなってフムに抱きついた。
「ま、ままままマスター!?」
「わぁああ!よかった!よかったよ!フム!」
フムは両手で僕とランコの頭を撫でた。
本当に幸せな時だ。
僕は、フムが大好きだ。よかった、本当に。よかった......。
「あーちゃんは....その、救い出せたのか?」
僕達の大泣きが落ち着いた頃にレイミーが聞くと、フムは目を閉じて胸に手を当てた。
「あーちゃん、出てきて」
フムが優しくそういうと、フムが突然ぐいっと頭を下げ、その後すぐぐいっと顔を上げたかと思ったら心なしか幼いような表情になり、僕達を見て微笑んだ。
「あーちゃんは、きえなかったよ。たすけてくれた。ありがとう。みんな」
最近ずっと無表情だったフムに表情が見られるようになった。
表情に関しては天才の僕でもどうしてもどうにもならなかったけれど彼女は自身で様々な表情を見せてくれるようになった。
それが僕はとても嬉しかった。
ランコはまた大泣きしてあーちゃんに抱きついていた。
これでハッピーエンドだ。
僕はそう思っていた。
「あ、そういや兄貴の事忘れてた」
レイミーがぽんと手を打ち言い出したのを聞いて、僕とランコもそういえば!とシトさんの事を思い出した。
「兄貴.....って?」
フムが首を傾げた。
「ボクとランコの兄貴さ」
レイミーの言葉にフムは、一瞬ハッとしたような表情を見せたが、すぐに
「ランコとレイミーさんのお兄さんならきっと、素敵な人ね」
といつもの無表情に戻った。
シトさんはどこの部屋に行ったかは分からないけれど、どちらにしろこの部屋を出るにはあの死体の山の部屋を出るしかないのが気がかりだった。
フムにあんな光景見せたくない。
「とりあえず、兄貴と合流しよう。あの部屋を通るのは気がすすまないけどね」
フムには、見せたくなかったので目を閉じるように行って僕がフムの手を引いて部屋を通ることにした。
「変な匂いがする。マスター何?何この部屋は、とても嫌な感じがする」
フムは勘がいいからすぐに部屋の異変に気付いた。
いや、嫌でも血の匂いで溢れた血塗られたこの部屋を通れば誰でも異変に気づくとは思うのだが.....。フムは部屋に入った瞬間にその異変に気付いた。
「フム、何も聞かないでくれ」
部屋の事は内緒にしておくことにした。
言う必要もないし、言うこともないだろう。
「わかった。マスターがそう言うなら」
フムは僕の言う事を聞いて絶対目を開けずに詮索もせず、僕を信じてくれている。
本当にいい子だ。
「兄貴ー!どこにいるんだ」
レイミーが叫んでも、屋敷は静かで返事がなかった。
「お兄様!.....反応がないわ」
ランコが呼びかけても返事がなかった。
「手分けして兄貴を探....いや、殺人鬼も一緒だからな。皆で一部屋ずつ見て回ろうと思うのだが、みんなはどうだ?」
レイミーの提案に僕達は大きく頷いた。
僕達は、広いイアンビリー家の屋敷を一部屋ずつ見て回った。
だがどこにもシトさんの姿はなかった。
代わりに、シトさんの部屋だと言われた部屋に置き手紙が置いてあった。
最初の一文はこうだった。
【母さんの事で確かめたい事があるから、子供達とマチミヤ地区まで行ってくる。ついでに子供達の復讐に付き合ってくる事にした】
「あの人、こんな時に自由すぎるだろ」
だが、僕はこのシトさんの行動がいずれ自分の人生にも関係するような大きな事になるとはこの時の僕は全く思いもしなかったのだ。
今回も読んでくださり本当にありがとうございます。
やっと本作の目的であるフムの復活が叶いました。本来はここでハッピーエンドのはずだったのですが、まだ回収してない伏線があるので、もうすこしお付き合いください。
最後はハッピーエンドなのかそうじゃないのかは私にもまだ全くわかりません。




