第六話 完全なる計画、完璧なる敗北
金曜日の放課後。計画は恐ろしいほどスムーズに進行した。佐々木に誘導された瀬戸翔也が倉庫に入り、その三十秒後、遠藤に背中を押された高梨ちはるが中に入った。ガチャン!!!「うわっ、ごめん! 扉が風で閉まっちゃった!」外から荒木が大根役者な声を出し、宮本が素早く南京錠をかけた。 扉の外には、物陰に隠れたトキメキ同盟の八人が全員集結している。彼らは息を殺し、扉に耳をピタリと押し付けた。「……よし、閉じ込めた。二時間、ここを開けるなよ」 荒木が興奮で声を震わせる。「さあ、どう来る!? 悲鳴か!? 照れ隠しの怒鳴り声か!?」八人は固唾を飲んで、中の音を待った。しかし、数十秒の静寂の後、中から聞こえてきたのは、地鳴りのような静けさを孕んだ、ちはるのフラットな声だった。「……瀬戸くん、そこにある跳び箱、何段?」「……八段。っていうかこれ、この前の体力測定のやつだな」「あ、やっぱり? 私、あれ苦手なんだよね」扉の外の八人が、ずっこけそうになった。 違う。そうじゃない。何だその、近所のおじさん同士が天気の話をしてるみたいな空気感は。「おい、もっと焦れよ瀬戸!」佐々木が小声で悶絶する。しかし、中の二人のタイムラインは、外の喧騒を完全に遮断していた。 薄暗い倉庫の中、埃が舞う光の中で、瀬戸はただマットの上にどさりと座り込み、スマートフォンを取り出していた「開かねえな、これ」「うん、締まりが悪いって先生が言ってた気がする。誰か気づくまで待つしかないね」「そうだな。じゃあ、俺、次の時間の小テストの勉強するわ」「あ、私も世界史の年号見よ。ナポレオンのところ」二人はそれ以上、視線を交わすことすらなかった。暗闇の吊り橋効果など、彼らの前には無力だった。ちはるはスマホの画面の明かりで教科書を照らし、瀬戸は無言で英単語アプリをタップし始める。驚くべきことに、そこから二時間、中からは「画面をタップする音」と「教科書をめくる音」以外、何も聞こえてこなかった。
二時間後。 期待しすぎて疲れ果て、魂が抜けかけたような顔をした友達チームが、ついに南京錠を開けた。ガラガラと音を立てて扉が開く。「……あ、開いた」ちはるが何事もなかったかのように立ち上がり、スカートの埃を払った。その後ろから、瀬戸が首を回しながら出てくる。「お前ら、大丈夫だったか!?」荒木が必死に声をかけるが、瀬戸はただ眠そうに目をこすった。「ああ。静かで勉強が捗ったわ。じゃあな」「うん、また明日ね」二人はいつも通り、一メートル半の距離を保ったまま、並んで校門へと歩いていった。「嘘だろ……。二時間だぞ? 暗闇の倉庫で二時間二人きりだぞ……?」桜井美月がその場にへたり込み、結城莉子は「逆に怖い……」と頭を抱えた。トキメキ同盟の完全なる計画は、主人公二人の「完全なる無関心」の前に、一文字のドラマも残せず完璧に敗北したのだった。




