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第一章 平行線のまま、踏切を渡る

クラスメイトの男子は、しばらくの間「おかしい、絶対におかしい」とブツブツ呟いていたが、私と瀬戸くんがあまりにも普通に歩き続けるものだから、やがて諦めたように別の路地へと消えていった。 後に残されたのは、やはりいつも通りの静寂だった。カタン、コトン、と遠くから電車の走る音が聞こえてくる。 歩調を合わせているわけではないのに、私と瀬戸くんの距離は、つねに一メートル半ほどを維持したままだった。近づきもしないが、離れもしない。ただ、同じ方角を目指す二つの物体として、私たちは並んで移動している。「……あ」瀬戸くんが小さく声を漏らした。見上げると、前方の踏切の警報機が赤く点滅を始め、カンカンカンと高い音を響かせ始めていた。遮断機がゆっくりと降りてくる。私たちはほぼ同時に足を止め、遮断機の手前で立ち止まった。黄色と黒の縞模様のバーを挟んで、目の前を激しい風とともに電車が通り過ぎていく。電車の窓から漏れる光が、交互に私たちの顔を照らした。ふと、瀬戸くんが私の足元に視線を落とした。正確には、私のローファーのつま先を見ているようだった。「お前、さっきの階段のとき、靴紐とかないのに何に引っかかったんだ?」電車が通り過ぎる轟音に混じって、彼の低い声が届いた。 私は自分の足元を見つめ、少し考えてから答えた。「……わかんない。でも、なんとなく、空気に足が引っかかったみたいな感じがした」「空気にか。意味不明だな」「うん、自分でもそう思う」瀬戸くんはそれ以上追及してこなかったし、私もそれ以上言い訳をしなかった。彼はポケットに両手を突っ込んだまま、ただ通り過ぎていく電車の車両を数えるように見つめている。私はといえば、彼の制服の肩にくっついている、小さな糸くずのようなものが気になっていた。教えてあげたほうがいいのだろうか。いや、でもわざわざ他人の糸くずに干渉するのも面倒だし、次の瞬間の風で飛んでいくかもしれない。そう思って、結局何も言わなかった。やがて電車が通り過ぎ、遮断機が静かに上がっていく。カンカンという音が止み、あたりにはまた夕暮れの街の音が戻ってきた。



 「じゃあ」踏切を渡りきったところで、道が二つに分かれる。瀬戸くんは右の坂道を上り、私は左の平坦な道を進む。 彼は短くそう言うと、振り返ることもなく右の道を歩いていった。「うん、また明日」私もまた、左の道へと足を進めた。お互いの家が近づき、ようやくこの無言の同行が終わる。寂しいとか、名残惜しいとか、そういう感情は一滴も湧いてこなかった。ただ、今日も無事に家に着きそうだという安心感だけがあった。明日の朝になれば、また学校のどこかで彼とすれ違うかもしれない。あるいは、すれ違わないかもしれない。 どちらでもいいな、と思いながら、私はカバンの紐を握り直した。



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