閑話4:キラキラの裏側3
それからしばらく勉強を進めた。
そろそろ帰宅しようかという時間になったので、参考書を閉じる。
パタン。
まだ、今日の分の日記を書けていない。
カバンから日記を再び取り出した。
今日のことを書く前に、前のページから読み返した方がいい気がした。
先程、途中で閉じたページがある。
パラッ。
ページをめくる。
6/1(月)のページを開いた。
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6/1(月)晴れ
吉野さんが、今度の中間テストに自信が無さそうだった。
勉強を教えることにした。
修業のお礼、という名目だ。
テスト期間ということもあり、放課後のいつもの教室は人が多かったため、図書館に行くことにした。
図書館で横並びに座った。
吉野さんは素直で吸収力があり、すごく教え甲斐がある。
教えながら、ふと気づいたことがある。
紅茶の爽やかな香りがした。
吉野さんの香水だと思う。
さすがに言及してはセクハラになると思い伝えなかったが、センスのいい香りだった。
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(……さすがに最後の一言は余計だったか。変態と思われても仕方がない)
次のページを開いた。
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6/2(火)曇り
今日も図書館で勉強を教えた。
吉野さんが問題を解けた時、グーを差し出していた。
気づいたら、そうしていた。
特に意図があったわけではない。
吉野さんが、きょとんとした顔で固まった。
一秒くらい経ってから、こつんと合わせてくれた。
なんか、笑ってしまった。
なぜ笑ったのか、うまく書けない。
そういえば、吉野さんから、教え方がうまいと言われた。
でも、それは吉野さんが生徒として優秀だからだ。
彼女に教えるのは、すごく楽しい。
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(そういえば、宮田さんが図書館にいたことには、気づいていた。あちらもなぜか隠れている様子だったので、声をかけるのはやめておいた)
少しページを飛ばして開いた。
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6/15(月)晴れ
今日はテスト前日。
連日の通り、吉野さんに勉強を教えた。
吉野さんが、僕の字がきれいだと言った。
あまり言われたことがなかったので、少し驚いた。
お返しに、吉野さんの字とペンの持ち方を褒めた。
細い指で、丁寧な持ち方だと思ったので。
吉野さんが、顔を赤くしながら「……び、美術部だからね」と言った。
噛んでいた。
彼女が問題を解けた時、思わず「かわいい」と言ってしまった。
すぐに「解き方が」と言い直したが、自分でも驚いた。
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(……吉野さんの解き方は、確かにかわいいと思う。それだけだ)
次のページを開いた。
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6/16(火)曇り
テスト当日。
数学Bの問題を確認した。
吉野さんが解けるはずの問題が出ていた。
少し、気になった。
廊下で吉野さんと目が合った。
何も言わなかった。
吉野さんも何も言わなかった。
でも、吉野さんが小さく頷いた。
それで、十分だった。
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(言葉が必要な気がしなかった。それが少し、不思議だった)
また少しページを飛ばした。
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6/19(金)雨
吉野さんが、テストの結果を持ってきた。
自分から来てくれた。
控えめに、嬉しそうな顔をしていた。
答案を見た。
よく頑張ったと思った。
でも、最初に「ここ、惜しかったね」と言ってしまった。
言い方はやわらかくした。
すぐに「褒めてるよ」と続けた。
それでも、内心冷や汗をかいていた。
嬉しそうに見せてくれたのに。
自分が一番嫌いなやり方を、自分がしてしまった。
僕は、純粋に祝福を送りたかっただけなのに……。
吉野さんが、勉強のお礼をしたい、と言ってくれた。
元々、僕の修業に付き合ってくれていたお礼で勉強を見ていたんだけど。
その気持ちだけで嬉しかった。
「また修業、付き合って」と言ったのは、ちょっとズルかったかもしれない。
僕はたくさん貰っているのに。
吉野さんは「それはもともとやるつもりだったんだけど」と返してくれた。
すごく有難い。
さっきの冷や汗は、少し引いていた気がした。
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最後のページまで来た。
今日の出来事を書くとしよう。
ペンを持った。
書きかけて、少し手が止まった。
……今日のことを、どこから書けばいいのか。
『家にいるより、学校の方が静かだから』
吉野さんが聞いてきた時、嘘をつく気にならなかった。
なぜかについては、うまく書けない。
あれ以上話していたら、どこまで話してしまったかわからない、という気もする。
……吉野さんには、話せてしまいそうな気がする。
それが何を意味しているのか、今日のところはまだ書けない。
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6/22(月)晴れ
テストが終わり、修業が再開した。
暗闇の修業をしてみた。
カーテンを閉めて、電気を消した。
怖くなかった。
吉野さんも怖くなかったらしい。
夕方の光が漏れ込んでいたので、薄暗いだけだった。
修業としては失敗だった。
電気をつけ直さないまま、しばらく二人で話した。
薄暗い教室で、吉野さんと雑談した。
なんか、悪くなかった。
吉野さんに、なぜ早く来て遅くまでいるのか、と聞かれた。
「家にいるより、学校の方が静かだから」と答えた。
なぜそう答えたのか、よくわからない。
嘘ではない。
むしろ、これ以上ないほど、正直に話してしまった。
でも、それ以上話す気にはなれなかった。
「修業、続けよう」と言って、話題を変えた。
吉野さんは「そっか」とだけ言って、それ以上聞かなかった。
責めるような顔もしなかった。
哀れむような顔もしなかった。
ただ、受け取ってくれた。
あの受け取り方は、吉野さんらしかった。
本当はもう少し話してもよかったかもしれない、と少し思った。
でも、次の言葉が出てこなかった。
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日記を書き終えた。
ペンを置く。
しばらく、書いた文字を見ていた。
ページの端に、まだ余白がある。
何か書こうとして、少しの間考えた。
それから、書いた。
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吉野さんのことを、もう少し知りたいと思っている。
これは、修業とは関係がない。
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書いてから、消そうかと思った。
でも、消さないでおいた。
日記を閉じた。
パタン。
カバンからシールを取り出した。
しばらく、どれにしようか考えた。
星の形をしたものを選んで、表紙に貼った。
蛍光灯の光を受けて、シールがきらっと光った。
次に修業がある日が、少し楽しみだ。
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