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憧れのカリスマが怖い人だと思っていたのに、実は私よりビビりだった件  作者: エティルク・ラ・ハオン/Etilk.Ra.Haon
第一章:春の秘密

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閑話2:後方腕組保護者の観察記録

 吉野めいという子がいる。


 美術部の同期で、別のクラスの子だ。

 引っ込み思案で、おっちょこちょいで、よく教室でびっくりしている。

 びっくりさせているのは、たいてい私だけど。


 廊下から顔を出してめいを驚かすのが、私の趣味だ。

 生きがいの一つ、と言ってもいい。


 なんでそんなことをするのかというと、めいが面白いからだ。

 驚く顔が、いちいちかわいい。

 ビクッてなって、「もう!」ってなって、でも本気では怒らない。

 なんか、ちょっと虐めたくなる感じ、というか。

 放っておけない感じ、というか。


 めいって、そういう子なんだよね。


 本人は全然気づいてないと思うけど。

 あの子、自分が人にどう見えているか、あんまり気にしないタイプだから。

 それがまた、いいんだよなあ。


 ……なんて、こんなことを考えているのは、最近ちょっと気になることがあるからだ。


 めいが、最近楽しそうだ。


 なんとなく、雰囲気が違う。

 前から明るい子だったけど、なんか、もっとふわっとしている感じ。

 表情が柔らかい、というか。

 ぼんやりしていることが増えた、というか。


 何が変わったのかは、わからなかった。

 でも、何かが変わったのは確かだった。


 それだけじゃない。


 最近、部活後に一緒に帰れていない。


 前はほぼ毎日一緒に帰っていたのに、最近めいは部活が終わるとどこかへ行ってしまう。

 「どこ行ってるの?」と聞いたら、「ちょっと用事があって」とか「委員会的なやつ」とか言って、はぐらかされた。


 ……めい、嘘つくの下手すぎる。


 目が泳いでたし、声が上ずってたし、「委員会的なやつ」ってなんだよ。

 委員会的なやつって何。


 でも、それ以上は聞かなかった。

 聞いても絶対にはぐらかされるのが目に見えていたし、なんか、あんまりグイグイ聞くのも違う気がして。


 思い返せば、心当たりがないわけじゃなかった。


 一度だけ、放課後にめいの教室の前を通ったことがあった。

 めいが部室に忘れ物をした時だ。

 なんとなく顔を出してみたら、めいが教室の中にいた。

 それだけなら不思議ではないことなんだけど、隣に白石くんがいた。


 白石くん。

 学校のカリスマ、とか言われてる人。

 顔がいいのは知ってる。頭もいいらしい。生徒会にも入ってるらしい。

 あんまり接点がないから、よくは知らないけど。


 その時のめいは「生徒会の話をちょっと聞いてただけ」と言った。

 白石くんも涼しい顔で、別に気にした様子がなかった。


 そっか、そういうこともあるか、と思って、その日は流した。

 流したんだけど。


 よく考えたら、その日の少し前から「部活後にどこかへ行く」というのが始まった気がする。


 ……もしかして、と思わないでもなかった。

 でも確証がなかったし、めいに限って、という気持ちもあった。

 あの子、恋愛に関してはちょっと、というか、かなり、というか。

 自分のこととなると、驚くほど鈍いから。


    ***


 そして今日、確証を得た。


 テスト期間中に図書館で勉強しようと思って入ったら、窓際のカウンター席にめいがいた。

 夕方の光が窓から差し込んでいて、カウンター席に横並びで座る二人のシルエットが、なんか絵みたいだった。

 思わず立ち止まってしまった。


 あ、めいだ、と思った瞬間、隣に誰かいることに気づいた。


 白石くんだった。


 二人で参考書を並べて、何かを話していた。

 声は遠くて聞こえなかった。

 でも、なんか、すごく自然な感じだった。

 距離が近いとか、そういうことじゃなくて。

 ただ、なんか、二人でいることがすごく自然な感じ、というか。


 邪魔しようとして、一歩踏み出しかけた。

 でも、足が止まった。


 その瞬間、白石くんがめいの方に軽くグーを差し出した。

 めいがきょとんとして、一秒くらい固まって、それからこつんと合わせた。


 白石くんが、笑った。


 私は今まで白石くんのことをよく知らなかったけど、あの笑い方は知らなかった。

 なんか、ちょっと違った。

 学校でよく見るカリスマな感じの笑い方じゃなくて、もっと、素に近い感じの。


 あ、と思った。


 これは本気だ。


 そっとその場を離れた。


 外に出て、ベンチに腰を落ち着けながら、少しの間ぼんやりした。


 ……あのめいが。


 驚き、というか、納得、というか。

 両方が同時にあった。


 確かに、めいってそういう子なんだよな。

 あの子、無自覚に人を引きつけるんだよ。

 驚かすと全力でビビるし、からかうと全力で動揺するし、話しかけると全力で向き合う。

 全部が正直すぎる。

 なんか、放っておけない感じになるんだよね、あの子。


 白石くんも、そういうとこを見てしまったんだろうな。


 ……でも、めい自身は全然気づいてないんだろうな。


 そう思ったら、なんかちょっと笑えてきた。

 呆れとか、愛おしさとか、そういうものが混ざった笑いだった。


 あの子ほんとに、自分のことになると驚くほど鈍いから。

 白石くんが自分に向けているものが何なのか、きっとまだわかっていない。

 というか、永遠にわからないんじゃないかという気さえする。


 ……まあ、今日のところは、邪魔しなくてよかった。


 帰宅後、スマホを取り出して、めいにチャットを送った。


  ────────────────

  邪魔しなくてよかったでしょ? (*^-^*)

  ────────────────


 さて、どう返ってくるかな。


 すぐに返信が来た。


  ────────────────

  何が?

  ────────────────


 ……何が、って。


 わかってないのか、本当に。


  ────────────────

  図書館での出来事♪

  ────────────────


 送った。

 また、すぐに返信が来た。


  ────────────────

  何が?!勉強会だよ!!

  ────────────────


 来た来た。


  ────────────────

  はいはい (*^-^*)

  ────────────────


 返した。


 しばらくして、また来た。


  ────────────────

  全然わかってない!?ほんとに違うから!

  ────────────────


  ────────────────

  はいはい (*^-^*)

  ────────────────


 スマホを置いて、少しの間、天井を見た。


 わかってるよ、めい。

 勉強会なのはわかってる。

 でも、あなた自身が一番わかってないんだよ。

 白石くんが向けているものも、あなた自身が感じているものも。


 ……ほんとに、もう。


 でも、急かすつもりはない。


 めいのペースがある。

 あの子は、自分で気づいた時にしか動けないタイプだから。

 誰かに言われて気づくより、自分でじわじわ気づいていく方が、めいらしい。


 それに、白石くんの方も、まだ時間がかかりそうだし。


 ……あとは、時間の問題だと思う。

 二人とも、もうすでにそっちに向かっているんだから。


 私にできることがあれば、それとなくフォローしよう。

 邪魔はしない。

 秘密は守る。

 何かあった時には、さりげなく場を取り持つ。


 今日、図書館で邪魔しなかったのも、その第一歩だ。

 我ながら、なかなかいい判断だったと思う。


    ***


 数日後、テスト前日。


 また図書館に来ていた。

 ここ数日、テスト期間中はずっと図書館に来ている。

 テスト勉強のため、というのは半分本当で、半分は……まあ、いい。

 参考書は開いているけど、正直あまり頭に入らない。

 二人が来るかどうか、なんとなく、気になっていた。


 そして、いた。

 やっぱり、いた。


 窓際のカウンター席に、めいと白石くんが並んでいた。

 今日も二人で、今日も自然な感じで。


 今日も尊いものを目撃させてもらった。


 図書館のカウンター席で、めいが問題を解けた瞬間、白石くんが「かわいい」と言った。

 小声だったけど、聞こえた。


 その直後、白石くんが「いや、解き方が」と言い直した。

 めいは首を傾げていた。

 全然気づいていなかった。


 ……白石くん。

 だいぶ来てるじゃないですか。


 スマホを手に取った。

 チャット画面を開いた。

 めいの名前が一番上に来ている。


 少し考えて、メッセージを打った。


  ────────────────

  今日も、めいが可愛かったです。丸

  ────────────────


 送信した。

 またすぐに「何が!?」って返ってくるんだろうな、と思いながら。

 それでいい。

 めいが全部わかった時に、この「丸」の意味も全部わかればいい。


 それまでは、私は見守るだけでいい。

最後までお読みいただきありがとうございます!

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