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憧れのカリスマが怖い人だと思っていたのに、実は私よりビビりだった件  作者: エティルク・ラ・ハオン/Etilk.Ra.Haon
第一章:春の秘密

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第12話:図書館の攻防

 今日は、白石くんより先に図書館に向かった。


 白石くんは生徒会に少し用があるということで、あとから来るらしい。

 チャットには「少し遅れる」とだけあった。


 図書館の自動ドアを抜ける。

 昨日より、少し蒸し暑い気がした。

 空調が、あまり効いていないのかもしれない。

 六月の始まりの空気が、館内にもじわりと漂っていた。


 昨日と同じ窓際のカウンター席に座った。

 参考書を開いた。

 でも、あまり頭に入らなかった。

 なんとなく、入り口の方を気にしていた。


 気にしていないふりをしながら、気にしていた。

 一分に一回くらい、視線が入り口に向いていた。

 我ながら、全然気にしていないふりになっていなかった。


 ……別に、急いでこなくていいんだけど。


 しばらくして、自動ドアが開いた。

 白石くんだった。


 いつもの涼しい顔は、そのままだった。

 でも、呼吸が、少しだけ乱れていた気がした。

 歩くペースも、いつもより少しだけ速い。

 急いできてくれたのかもしれない、と思った。

 思ってから、なんとなく、視線を参考書に戻した。

 見ていたのが、ばれたくなかった。


「遅くなってごめん」


 席に着きながら、白石くんが言った。


「全然。さっき来たところだよ」


 思わず、口からするりと出た。

 言ってから、気づいた。


 ……なんか、これ、デートの待ち合わせみたいなやり取りだ。


 白石くんが、くすっと笑った。

 小さな笑い声だった。

 「はは」でも「ふふ」でもない、もう少し素に近い感じの笑い方だった。


 なんで笑うんだ。


 顔が、少し熱くなった。

 視線を参考書に落とした。

 俯いたまま、ページをめくった。


 パラッ。


 めくる必要はなかったけど、なんとなく、めくった。


 勉強会が始まった。


 昨日より、少しだけ問題が解けた。

 白石くんの説明が、じわじわと頭に染み込んでいる感じがした。


 でも、昨日より少し、集中できていない気もした。


 ……気のせいだ。


「ここ、もう一回やってみて」


 白石くんが、私のノートを指さした。

 さっき間違えた問題だった。


 私はシャープペンを持って、もう一度式を書いた。

 今度は、合っていた。


「……ん」


 白石くんが、こちらを見た。

 軽くグーを作って、私の方に控えめに差し出してくる。


 ……え。


 きょとんとした。

 一秒くらい、意味がわからなかった。


 あ、そういうことか。


 私も、グーを作った。

 こつん、と合わせた。


「やるね」


 小声で言った。

 その時の白石くんの顔が、なんか、いつもと少し違った。

 涼しい顔は、そのままだった。

 でも、その涼しさの中に、なんというか、温かいものがあった気がした。

 うまく言えない。

 なんか、仄かに綻んだような、はにかんだような、いい顔をしていた。


 ……なんで私、白石くんの顔をそんなに細かく観察してるんだろう。


 視線を、ノートに戻す。


 それにしても、「やるね」か。

 「すごい」でも「正解」でもなく、「やるね」だった。

 なんかツボをついてくる褒め方をする人だ。

 なんでこの人は、こういう言い方ができるんだろう。


「なんで白石くんって、教えるのうまいの?」


 なんとなく、聞いてみた。


「さあ」


 一言だった。

 涼しい顔のまま、自分のノートに視線を戻した。


 ……さあ、って。


 その「さあ」の言い方が、なんか、妙に余裕があった。

 知ってるけど教えない、みたいな感じの「さあ」だった。

 少しムッとした。


 私がムッとした顔をしているのが、わかったのかもしれない。


 白石くんが、口元を緩めた。


「笑ってる?」


「笑ってない」


 即答だった。

 でも、絶対笑っていた。

 口元が、明らかに動いていた。


 ……この人、絶対わかってやってる。


 そう思ったら、余計にムッとした。

 でも、なんか、怒れなかった。

 怒る気になれなかった、というか。


 白石くんが「続き、やろう」と言った。

 涼しい顔に戻っていた。

 何事もなかったみたいに。


 私は参考書に向き直った。

 問題を解いた。

 また間違えた。

 また教えてもらった。


 図書館の窓から、外の光が少しずつ変わっていった。

 夕方が近づいていた。

 空調がほとんど効いていないせいか、じわじわと蒸し暑かった。

 白石くんの腕が、机の上に置かれていた。

 自分の腕との距離が、どのくらいか、少し気になった。


 蒸し暑いのか、それとも別の理由なのか、

 耳のあたりが、少し熱かった。


 ……気にしなくていい。

 気にしてない。

 断じて。


 問題を解いた。

 今度も、合っていた。


 そのさりげない出来事に、私は――私たちはまったく気づいていなかった。


 白石くんの「続き、やろう」という声に頷いて、また問題に向かっていた。

 その間も、図書館のどこかで、誰かが私たちを見ていたなんて。


    ***


 宮田桜は、参考書を抱えたまま、図書館の自習スペースの角で足を止めた。


 窓際のカウンター席に、見覚えのある後ろ姿があった。

 めいだった。

 隣に座っている男子の横顔も、見覚えがあった。

 というか、知らない人はいないんじゃないかというくらい有名な顔だった。


(え?)


 桜は目を細めた。


(え、あの二人って……そういう……?!)


 ドキッ!


 心臓が跳ねた。

 二人は気づいていなかった。

 並んで参考書を覗き込んで、何かを話していた。


 めいが、小さく声を上げた。

 問題が解けたらしかった。

 男子の方が、軽くグーを差し出した。

 めいが、きょとんとして、それからこつんと合わせた。

 男子の口元が、わずかに緩んだ。


(……あの顔は、やばい)


 桜の中で、何かが確信に変わった。


(あ、これは、絶対邪魔できない)


 桜はにこにこしながら、音を立てないようにそっとその場を離れた。


    ***


 帰り道、スマホが鳴った。

 桜ちゃんからだった。


  ────────────────

  邪魔しなくてよかったでしょ? (*^-^*)

  ────────────────


 ……何が?


  ────────────────

  何が?

  ────────────────


 送った。

 すぐに返信が来た。


  ────────────────

  図書館での出来事♪

  ────────────────


 ……あ。


 気づいた。

 桜ちゃん、いたのか。

 図書館に。

 しかも、見ていたのか。

 私たちを。


  ────────────────

  何が?!勉強会だよ!!

  ────────────────


 送った。

 すぐに返信が来た。


  ────────────────

  はいはい (*^-^*)

  ────────────────


 それだけだった。

 それだけで、終わった。


 ……はいはい、って何!?


  ────────────────

  全然わかってない!? ほんとに違うから!

  ────────────────


  ────────────────

  はいはい (*^-^*)

  ────────────────


 全く取り合ってもらえなかった。

 何を言っても、きっとこの返信しか来ない気がした。

 桜ちゃんの、にこにこした顔が浮かんだ。

 勝手に納得している顔だった。


 やめてほしい。

 本当に、ただの勉強会だった。


 ……そうだよね?

最後までお読みいただきありがとうございます!

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