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憧れのカリスマが怖い人だと思っていたのに、実は私よりビビりだった件  作者: エティルク・ラ・ハオン/Etilk.Ra.Haon
第一章:春の秘密

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第10話:ネオ様と、仮面の向こう側

※この話には映画「カルト」(2013年公開・白石晃士監督)のネタバレが含まれます。

 次の日、いつもの時間。


 再生ボタンを押した。


 前半の最後、動かなくなった霊能力者の場面から、そのまま続きが始まった。


「……」


 白石くんの肩が、また少し固まった。

 私も、固まった。


 でも。


 しばらくして、画面の空気が、がらっと変わった。


 新しい人物が現れた。

 金髪だった。

 例の、ネオという人物だそうだ。

 登場の仕方が、前半に出てきた霊能力者たちとは、明らかに違った。

 なんというか、格が違う感じがした。

 画面越しでも、わかった。


 ……この人、強い。


 白石くんの肩から、力が少し抜けた気がした。

 私の肩からも、抜けた。


 その人は、さっそく力を示した。

 淡々と、でも圧倒的に。

 前半の霊能力者たちが束になっても敵わなかったものを、あっさりと。


 ……なんか、急に違う映画になった。


 笑いをこらえるのが、忙しくなってきた。

 場に似つかわしくない、どこかホストのようなカリスマを持ったネオの登場に何か安心したのだ。

 ちらっと白石くんを見た。

 白石くんも、口元を少し引きつらせていた。

 笑いをこらえている顔だった。

 目が合った。

 二人で、すぐに前を向いた。


 後半は、展開が早かった。


 ネオが、次々と手を打っていく。

 呪いの根源を突き止めて、仕掛け人を特定して、一網打尽にして。

 前半の、じわじわと積み上がっていく恐怖とは全然違う、別の映画のような勢いだった。


 途中、不穏な場面もあった。

 親子の様子がおかしくなる場面や、暗視モードのカメラが何か恐ろしいものをとらえる場面は、前半と変わらず怖かった。


「っ」


「っ」


 二人で同時に声が出た。

 でも、前半ほど固まらなかった。

 ネオが、なんとかしてくれる気がしていた。


 そしてクライマックス。

 真相が明かされた。

 母親だと思っていた人物が、母親ではなかった。

 女の子の体を使って、自分たちの神を降ろそうとしていた集団――カルトの話。


「カルト……」


 私は思わず呟いた。

 タイトルの意味が、ここで繋がった。


 最後の戦い。

 ネオが、最後の力を振り絞って。

 全部終わったかと思ったら、ガタン、と突然棚が倒れて。

 浮いた人物が現れて。


「っ……!!」


「っ……!!」


 また二人同時に声が出た。

 今度は、前半に近い感じの声だった。


 それも、ネオがなんとかした。

 本当の戦いはこれからだ、という言葉を残して、画面が暗くなった。


 エンドロールが、流れ始めた。


 エンドロールが流れる間、二人とも黙っていた。


 怖かったのか。

 笑えたのか。

 なんか、すごかったのか。


 全部、同時にある感じがした。


 白石くんも、画面を見たまま、何も言わなかった。


 ぷつ、と画面が暗くなった。


 しばらく、教室の静けさだけがあった。

 チョークの粉の匂いが、夜の空気に混じっていた。


「……思ったより、見れた」


 白石くんが、静かに言った。


「うん」


 私も頷いた。


「前半は怖かったけど、後半から別の映画になったよね」


「そう。……あの金髪の人が出てきてから」


「完全に、違う映画だった」


 二人で、少しの間黙った。


 私は、ずっと頭の中にあったことを、思わず口にしていた。


「ネオ様、カッコよかった……」


 言ってから、少し恥ずかしくなった。

 でも、本当にそう思っていたので、仕方がない。


 白石くんが、少しの間、黙った。

 スマホを机に置いたまま、動かなかった。


「……ああいう男の人が好き?」


 さりげない感じで聞いていたけど、なんか、少し間があった。


 ……え、なんで?


 私は特に気にしなかった。


「え? まあ、ああいうキャラは好きかな。仮面ライダーオーズのアンクとか知ってる? 同じ人なんだよ」


「……そう」


 白石くんが、短く返した。

 アンクを知らなそうな顔だった。

 でも聞き返さなかった。

 聞いたら負けだと思っているのかもしれない。


「白石くんはどうだった? ネオ様、カッコよくなかった?」


「……まあ、ね」


 いつもの口癖だった。

 でも、なんか、今回は少し温度が低い気がした。

 気のせいかもしれない。


 私は気にしないことにした。


「昨日も話したけど、前半の、二人の霊能力者が倒れていくの、すっごく怖かったよね」


「うん。強そうだったから、余計に」


「あのモキュメンタリーの撮り方、本当にドキュメンタリーみたいだった」


「そう。すごくリアリティがあって、そんな番組が本当にあるかと思った」


「だから怖いんだよね」


「……うん」


 白石くんが、少しだけ苦い顔をした。

 思い出しているらしい。

 私も、少し思い出した。


「続編、ないらしいんだよね」


「……え」


 白石くんが、初めてこちらを向いた。


「ないの?」


「ないみたい。レビューに書いてあった」


「……それは」


 白石くんが、少し眉を寄せた。


「続きが、気になる」


「わかる」


 二人で、しばらく黙った。

 窓の外が、だいぶ暗くなっていた。

 気づいたら、かなり時間が経っていた。


 荷物をまとめ始めた。

 スマホをしまって、ごそごそと鞄を持つ。


 帰ろう、と思った、その時だった。


「……吉野さんは」


 白石くんが、荷物を持ったまま、少し間を置いた。

 視線が、少し下がっていた。


「なんで、修業しようと思ったの?」


 思いがけない質問だった。

 今まで、そういうことを聞かれたことがなかった。


 少しの間、考えた。

 考えたけど、答えはすぐに出てきた。


「白石くんのこと、助けたかったから」


 言ってから、少し恥ずかしくなった。

 なんか、真剣すぎた気がした。

 ゴキブリとホラー映画の話をしているだけなのに。


 白石くんが、黙った。

 しばらく、黙っていた。

 窓の外の夜が、教室の中に少し入ってきているような、静けさだった。


「……ありがとう」


 いつもより、少し低い声だった。

 胸のあたりが、じわっとした。

 うまく言葉にできないけど、じわっとした。

 それだけ言って、白石くんは鞄を持ち直した。

 顔は、見なかった。


    ***


 帰り道、ずっと考えていた。


 助けたかったから、なんて。

 なんであんなこと言ってしまったんだろう。


 嘘じゃない。

 本当にそう思っていた。

 でも、なんか、改めて言葉にすると、急に恥ずかしくなってくる。


 白石くんは、「ありがとう」と言っただけで、それ以上は何も言わなかった。

 それがかえって、なんか、どうすればよかったかわからなくて。


 電車に乗り込んだ。

 端の席に座って、窓の外を見た。

 夜の街が、流れていく。


 助けたかった、か。


 それって、どういう意味なんだろう。

 共犯者として、当然のことをしたかっただけだ。

 一緒に修業をしようと言い出したのは私だし。

 秘密を守ると決めたのも、私だし。

 だから、助けたかった、というのは、単純にそういう意味だ。


 スマホを取り出して、画面を見た。

 何も通知は来ていなかった。

 ……しまおう。


 断じて、これは共犯者としての責任感だ。


 窓の外の夜景が、流れていく。

 街灯が、線になって消えていく。


 ……たぶん。

最後までお読みいただきありがとうございます!

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