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シャイニング~朝陽~

 翌日。

 リスタはベッドの中でゆったりと目を開けた。まず最初に白い天井が目に入り、次いで周囲を見回したことで彼女はここが洋館の宿泊室であると再確認する。


「やっぱり、夢じゃなかったんだ」


 彼女は昨夜の出来事が嘘でも幻でもないと知り、嬉しいやら悲しいやら複雑な感情にさいなまれた。

 それからなんとなく顔を横に向けてみる。するとリスタの枕元には、椅子に腰かけ目を閉じるオーナーがいた。数秒じっと見つめて、彼女は昨日自分がオーナーに眠るまでそばにいてほしいとお願いしたことを思い出す。


 一拍遅れて彼女の顔から煙が上がった。茹で上がった顔が布団に潜り込む。


「のわぁぁぁぁ! は、恥ずかしい……!」


 昨夜の自分の言動を思い返し、リスタはベッドの中で悶絶した。

 精神の疲労から心細くなったのかもしれないが、だからと言って見ず知らずの男性にあんなお願いをするなど恥ずかしいことこの上ない。

 彼女は昨日の自分を殴りたい衝動に駆られるが、すでに後の祭りだ。どうすることもできない。

 それが一層もどかしく、布団を殴り蹴り上げ暴れ続ける。と、


「お目覚めになりましたか、リスタ様?」


 不意に布団の外から声をかけられ、彼女はぴたりと静止する。それから顔の上半分だけを出して外の様子を覗いてみれば、椅子に座ったオーナーが柔らかい笑みをこちらに向けていた。

 その笑顔にリスタの心臓がまた跳ねる。この動悸がただの羞恥心から来るものなのか、別の意味を含んでいるものなのかは今の彼女には判別できない。

 とりあえず彼女はやや目線を逸らしながら挨拶する。


「お、おはようございます……」

「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」

「はい……おかげさまで」

「それはよかった」


 心から嬉しそうに笑うその顔を見て、リスタはなぜかズルいと思った。



 起床後身だしなみを整えたリスタは、食事を取るため昨晩のレストランを訪れていた。ちなみに今は十二時手前だ。昨日一日中歩き続けた疲労で、彼女は昼過ぎまで眠っていたらしい。


「お客様、本日のご予定はもうお決まりでしょうか?」


 食事を終えたタイミングを見計らってオーナーが声をかけてくる。

 その問いかけがリスタを現実に引き戻す。自分の置かれている状況を思い出して彼女はそっとうつむいた。


「そうですね……チェックアウトしようと思います。お金もないですし……」

「……どこか行く当てがおありなのですか?」


 リスタは静かに首を振る。


「行く当てはないんですが……今は歩き続けないといけないんです。誰もたどり着けないような場所まで」

「込み入った事情がおありのようですね」


 余計な詮索をしない気遣いなのか、オーナーはそれ以上訊いてこようとはしない。その代りとして、彼は片膝をついて暗い表情で下を向く少女に目線を合わせた。


「もしよろしければ、もう一泊していかれませんか?」

「え……でも、お金が」

「構いません。昨夜の騒動のお詫びと思っていただければ」


 それはリスタにとって願ってもない申し出だったが、それでも遠慮という感情が彼女を躊躇ためらわせる。それを理解してオーナーはそっと彼女の手に自分の手を添えた。


「そのように泣きそうな顔のお客様を旅立たせるのは、わたくしとしても心苦しいのです。わたくし共の役目はお客様を笑顔にすることです。どうか人助けだと思って、あともう一泊だけでもしていただけないでしょうか? しがないオーナーのささやかなお願いです」


 そう言われては断るに断れない。きっとそれが彼の狙いであり、配慮なのだろう。

 やはりこのオーナーはズルいとリスタは思った。


「……分かりました。ご迷惑でなければ、喜んで泊まらせていただきます」


 リスタが微笑んで了承すると、彼もまた嬉しそうに破顔する。


「ありがとうございます。では食後はどういたしましょうか? うちには娯楽施設も多数ございますが?」

「あー、館で過ごすのも悪くないんですが、一度外に出てみようと思います」


 慣れたとはいえ、さすがにこのいわくつきの洋館で一日を過ごす勇気はない。


「作用でございますか。でしたらわたくし共が近くの町までご案内いたします」

「そんな、悪いですよ。ここから町まですごく遠いですし」

「遠慮はいりません。お客様のためでしたら千里先でも喜んで送迎いたします」


 千里先など普通なら誇張に聞こえるが、このオーナーなら平然とやってのけそうな気がする。

 リスタは一夜にして彼の人となりを嫌というほど理解していた。

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