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第六十九章~五郎、困る~

「や、やっと着いた……!」


清洲へと着いた五郎は大きく息を吐くと、思った以上に疲れ切った身体から力を抜くと地面にへたり込んだ。

そんな五郎を見てそっと肩に手を置いた康政は苦笑すると、『お疲れさん』と声を掛けてくれた。

二人がお互いに労っていると、前方で騒いでいる元康と藤吉郎を見てここまでの旅路を思い出す。




それは岡崎を出発して二日ほど経った頃合だろうか、四人はその日の宿を求めて町を歩いていた。

順調に進む旅の行程に五郎が安堵しながら元康に引っ張られながら歩いていると、元康が何かを見つけたのだろう、五郎を引っ張り店に入ろうとする。


「お、お~い……元康?」

「お兄ちゃん!あそこ、美味しそうなお団子があるよ!」

「……本当だ、茶屋があるね」

「ねぇ~、行こうよ~」

「ちょ、ちょっと!引っ張らないでくれ~」

「早く早く!」


一応、五郎に出来る限り身体を踏ん張るのだが……。

(な、なんて力……!引き摺られるっ!?)

丸一日以上、一緒に過ごしていると康政が『元康様は強いから大丈夫』と言っていた事が誇張ではないと思わされる。

確かに五郎はまだまだひ弱な部類だろうが、こんな体格差で簡単に引き摺られる力が元康の何処にあるというのか。


「分かった!行くから!落ち着いて……ね?」

「は~い」


急かす元康を宥めて康政に目で許可を求めると、苦笑しながらも許可を出してくれた。

藤吉郎に渡されていた路銀を一応確認してから、わくわくしている元康を連れて茶屋へと入った。


「いやぁ、仲の良い親子みたいだね……あはは」

「……」

「藤吉郎?どうしたんだい?」

「……いえ、別に」


康政が微笑ましそうに二人を見送り、隣で沈黙している藤吉郎に気づいて声を掛けたのだが、彼は眉間に皺を寄せて何やら思案していたようだ。

はて?と首を傾げた康政は茶屋をチラリと見てから、藤吉郎に再度声を掛けた。


「藤吉郎、俺達も行こう」

「……え? あ、はい!」

「先に軽く食べて宿を探そう」

「分かりました」


康政は藤吉郎に先を譲ると、その後から二人が入った茶屋に入った。

入ってみると、既に二人は団子を頬張っていたようで特に元康は口元を汚しては五郎に拭ってもらっているようだ。

しかし、康政が気になったのは二人の前に置かれている団子が盛られた皿である。

五郎は控えめに頼んだのだろうか、串3本程度しか団子が盛られていないが……。


「も、元康様……」


珍しく目頭を手で揉みながら康政が困った表情をした。

元康の前に置かれた皿には大盛りの団子がその存在感をアピールしている。

その光景を同じく見た藤吉郎は顔を引き攣らせていた。

そんな二人の様子を気にも留めず、元康は順調にその団子を胃へと放り込んでいる。


「参ったねぇ……」

「……あ、あのチビ」

「……ん?」


藤吉郎がぼそりと何事か呟いた気がして視線を向ける。

康政の視線に気づいた藤吉郎は『なんでもないです』と答えて静かに二人に向かって行ったのである。


「う~ん、昨日もだけど……元康様にはもう少し我慢して貰わないと駄目かもね」


『なんでもない』と言ってはいたが、藤吉郎は出来る限り五郎それに康政と元康に快適に旅をしてもらおうと色々考えていたようだ。

その為に率先して宿や飯屋を探してくれていたし、路銀の管理も無理のないように考えてくれている。

だが今回のように元康が衝動で買い物をするのだ、その度に藤吉郎は丁寧に注意したが元康は全く聞く気配がないのである。


「五郎に頼むしかないか」


考えた結果、五郎に元康を諌めて貰おうと決めた康政は藤吉郎に続いて二人が居る席に向かった。


「五郎、ちょっと……」


元康と団子を食べていると、いつの間にか横に立っていた康政に声を掛けられる。

ちゃんと藤吉郎も居るようだ、本当は店を出る際に二人分団子を包んでもらおうと思っていたのだが、これなら茶屋に入る前に聞いておけば良かったかもしれない。


「康政殿、藤吉郎、席に座って注文しよう」

「そうだね、先にそうしようか」

「康政殿、俺が頼みますよ」

「すまないね、御願いするよ」


康政は藤吉郎に注文を任せると、元康が団子に夢中になってる間に五郎に声を掛ける。


「五郎、ちょっと耳を」

「はいはい」

「……後でいいからさ、もう少し元康様に我慢して頂くように諌めてくれないかい」

「……俺がですか?」

「俺だと、拗ねてしまわれるだけになりそうだからさ」

「それは俺が言っても一緒なんじゃ」

「俺よりも五郎が言った方がまだ聞いてくれると思うんだ、頼むよ」

「……いいですけど、聞いてくれればですが」

「このままだと、藤吉郎の苦労が無駄になるからさ」

「あ~……」

「君の大事な護衛だろう?俺からも元康様には注意するから」


五郎は康政に頷くと、どのタイミングで元康に話すか考えながら団子を頬張る。

確かに昨日も藤吉郎は難しい顔で、路銀を勘定していた。

一応、岡崎に着いた時点で余裕はあったし、康政もそれなりの路銀を持ってきてくれていたのだが……この調子で元康が消費すれば幾ら残るか怪しいのは確かだ。

それに康政は知らないだろうが、二人は正体を明かすまで子供の喧嘩紛いのやり取りをした事もある。

それでも藤吉郎が、信長の使者として振舞うために丁寧に元康を扱っているが。偶に何か言いたげな顔をする時があるのを五郎は気づいている。


「宿を決めたら、言ってみます」

「宜しくね」


まだまだ旅の序盤である、このまま放って置くと藤吉郎の堪忍袋の緒がいつ切れるか怪しい。

そんな事になれば、清洲に着くまで毎日手を焼く事になりそうだ。

五郎がお茶を啜りながら考え込んでいると、隣に座っていた元康が声を上げる。


「お代わり!」


元康の一言に五郎と康政は同時に茶を噴き出す。

あれだけの団子を食って尚注文するというのか、恐ろしい胃袋である。

ハッとして五郎は視線を藤吉郎に向ける、その瞬間席を立った藤吉郎は元康の頭に手を乗せると。


「こ、このチビ助!いい加減に遠慮しろ!」

「うにゃ~~~~!!」


わしゃわしゃと頭を手で揺らす、元康は叫び声を上げながら必死に藤吉郎の手を払おうともがいているが、中々上手くいかないようだ。

暫く揺らされた元康は目を回しながら藤吉郎を睨む、そして席から立ち上がって口を開いた。


「何するの!」

「食い過ぎだ!路銀がどんどん減るだろうが!」

「沢山あるでしょ?康政がちゃんと持ってきてくれてるもん!」

「そういう問題じゃない!それにそれ以上食べる気か!」

「まだ入るもん!いいでしょ!」

「こ、この……」


騒ぎ始める二人を康政と五郎が抑える、五郎は康政に頼んで残った団子を包んで貰えるかお願いして、代金を渡す。

二人を宥めながら店から出ると、二人は顔を突き合わせて口論を始める。


「五郎さんは、辛抱して岡崎まで行ったんだぞ!そのお陰で路銀も余裕が出来たっていうのに……」

「ふーんだっ!キーキー騒がないでよ……猿爺!」

「何だと!?だらしない腹しやがって、このチビ狸が!」


五郎は二人のやり取りを見て頭を抱える、その間に店から出てきた康政が五郎に視線を送ってきたので、首を振って合図したのであった。

その後も暫く喧嘩する二人を五郎が取り成そうと試みたが、結局日暮れまで続いた。

その間に康政が宿を探してくれていたので移動してその日は終わったのである。




「寧ろ、ここまでよく着いたな……」


二人が喧嘩をしてからこの清洲まで、元康は五郎、康政は藤吉郎を説得しながら進んだのだが一向に仲直り出来る気配はない。

折角だから仲良くして欲しいと五郎は思っているが、清洲に着いた以上藤吉郎もお役御免になるだろう。

喧嘩別れにならないようになんとかしたいのだが……。


「……(ぷいっ)」

「……」


お互い頑なに顔を合わさない二人を見る限り難しいかもしれない。

仕方なく清洲城に向かう事にした五郎は康政に声を掛けると、溜息をつきながら信長の待つ城へと歩き始めた。

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