第六十八章~清洲へ出発進行!~
「さて、これで準備はいいかな」
五郎は出発の支度を終えると藤吉郎が戻るのを待つ。
昨日は話し合いが終わってから暫く松平家の家臣に捉まったのだ、藤吉郎と一緒に交流を深めた後、宿に帰ろうとしたのだが……今度は康政が申し訳なさそうに元康の部屋へと連行したのであった。
結局、日暮れ間近まで元康の相手をした五郎は茶屋に寄る元気も無く、宿に戻って寝てしまった。
「藤吉郎は康政に付いて行っちゃうし……まぁ元康の相手をするのは嫌いじゃないけど」
これから暫くの間、一緒に旅をするのだ拗ねないように注意しないと大変そうだ……主に自分と康政がだが。
しかし康政が一緒に来てくれる事が心強い、松平家の家臣の中では一番五郎と気軽に話しかけてくれるし、何より一緒に居て安心感を与えてくれる雰囲気がある。
それに目にした事は無いが、腕も相当立つと聞いている。
「元康もあんな感じだけど、強いって聞くし……」
よく考えたら……全く戦えないのは五郎だけだという事に気づく、もし道中で何者かに襲われたら元康を守るべく戦う事が必要だと思うのだが……。
「だ、駄目だ!三人に俺が守られている状況しか浮かばない……っ!」
五郎は頭を抱えると、何事も無く清洲まで着きますようにと祈るのであった。
「五郎さん、そろそろ出ようぜ~」
藤吉郎の声でハッとした五郎は、返事をして戸を開ける。
そこには準備万端といった格好の藤吉郎が立っていた。
「ごめんごめん、じゃ行こうか?」
「そうしましょう」
二人は連れ立って宿を出ると、岡崎城へと向かう。
もしかしたら康政は既に五郎達を待っているかもしれない、このまま行けば予定時刻よりも早めに到着するとだろうが、昨日の元康を見る限り康政が暴走しないように早い内から元康を抑えている可能性がある。
「藤吉郎、宜しく頼むよ」
「任せてくださいよ」
「あはは」
藤吉郎の自信満々な態度に笑っていると、岡崎城の城門が見えてきた。
五郎は藤吉郎を待たせて門番に用件を伝える、すると城内へと通してくれた。
藤吉郎に目配せをして一緒に城内へ入ると案内人が二人を待っていた。
二人は城内の一室に案内されて大人しく待っていると、二人分の足音が外から聞こえてくる。
バン!と勢いよく戸が開かれると、ご機嫌な元康と疲れた様子で苦笑いを浮かべる康政が居た。
「お兄ちゃん!待ってたよ!」
「え、え~っと」
「五郎、すまない騒々しくて」
「いえ……それは構いませんが」
「早く出発しよう!」
「元康様、落ち着いて下さい」
康政に窘められて元康は少しテンションを下げると、五郎の隣に座り込んだ。
やれやれと呟いて溜息をついた康政は五郎と藤吉郎に改めて挨拶をした。
「清洲まで元康様とお世話になるね、宜しく頼むよ」
「此方こそ、宜しく御願いします」
「まぁ元康様の我が儘は適当に流していいから」
「あはは……頑張ってみます」
五郎の返事にふっと笑うと、康政は藤吉郎にも頭を下げた。
藤吉郎が慌てて礼を返すと元康に視線を戻して一言。
「元康様、行きますよ」
「うん!」
元気よく声を上げると元康は五郎を引っ張って行く。
二人を見送った藤吉郎と康政はお互い顔を見合わせると後を追うのであった。
「それじゃ、行こうかって……元康様、それは……」
「兄様……じゃなかった、信長殿へのお土産です!」
「……康政さん、どうしましょう?」
「……手隙の者を呼びます」
元康が沢山の土産を抱えていた事に頭を抱えた五郎が康政に助けを求めた結果……その殆どが小姓の手によって持ち去られた。
元康は必死に抵抗したのだが、五郎と康政の説得によって不承不承ながら土産を小姓に渡したのである。
「折角、沢山持って行きたかったのに……」
「あんな量持ってたら、途中で疲れますよ……」
「むぅ~」
「ほ、ほら……途中で何か珍しい物があれば買いましょう?ね?」
「……うん」
五郎が必死に元康を宥めていると、康政は手に持っていた包みを開く。
そこには美味しそうな団子が盛られていた、それから五郎に目配せする。
康政の意図を察した五郎は一つ団子を手に取るって元康の前に見せながら言った。
「元康様、あ~ん」
「あ~~~~ん」
「美味しいですか?」
「おいひい……(もぐもぐ)」
満足そうに団子を咀嚼している元康に康政は肩を竦めると五郎に団子を包みごと渡した。
どうやら何かあったら、餌付けをしろという事らしい。
子供騙しみたいだが、今までの記憶を辿れば確かに有効的である。
康政に頷き返すと、五郎はもう一つ元康に団子を与えると手を引いて出発する事にした。
「さ、そろそろ出発しましょう」
「うん!」
「まぁ急ぎ過ぎず行きましょう」
「任せてください」
二人から四人に増えて少し騒がしくなった旅の始まりである。
今回も少し遠回りのルートを辿って清洲へと向かう事になっている。
康政は藤吉郎と旅の最中どう資金を運用するか話し合っているようだ、全く会話に入れない五郎は必然と元康の相手をする事になる。
「楽しみだな~、早く清洲に着かないかなぁ~」
「ははは、まだ出発したばっかりだよ」
「でも、信長兄様に早く会いたいよ」
「あの信長様を兄様……ねぇ……」
何度聞いても違和感があるが、元康が嬉しそうに言うので突っ込みづらい。
それにしてもあの信長をここまで慕うなんて、一体あの人は何を元康にしたのだろうか。
五郎の想像では嫌がる元康を無理矢理引っ張りまわすガキ大将のイメージなのだが……。
「ねえ、元康……どうしてそんなに信長様が好きなんだい?」
「昔、清洲に居た事があるんだ!その時に沢山外に連れて行ってくれたの!」
「ほ、ほう……」
あの信長様が外に……?嫌な予感しかしないんだが……。
「えとねー、凄く格好いい着物で色んな場所に遊びに連れて行ってくれたんだ!」
「……格好いい?(まさかあの着物じゃ)」
「うん!格好良かったんだ!」
「そ、そっかぁ~……」
目を輝かせて話す元康に圧倒されていると、後ろで話し合っていた二人が会話に加わってきた。
五郎がこの機会を逃すまいと話題を変えようと試みる。
「康政殿、藤吉郎……今日はどこまで歩く予定にする?」
「ん~藤吉郎殿と相談したけど、今日は急がずにのんびりでいいんじゃないかな?」
「ええ、三河と尾張の国境まで早くて二日、三日程度掛かるでしょうし」
「それじゃ、次の町に着いた時の時刻次第で宿を決めようか」
五郎の提案に頷いた二人は町に着いた時の役割について話し始める。
二人だけで相談しているという事は、恐らく五郎は元康の相手をしろという事なのだろう。
その元康は鼻歌を歌いながら五郎の袖を握って前を歩いている。
こうしていると、殿様の護衛ではなく、子供と旅をしている気分になる。
「まぁ、それも悪くないか……」
「?」
「何でもないよ」
「お兄ちゃん、次の町で何か食べようよ」
「あれ、朝はちゃんと食べたんじゃないのかい?」
「早く出発したかったから、食べずに来ちゃった」
「……あはは」
五郎が苦笑していると、元康はお腹に手を当てると物欲しそうな顔で此方を見ている。
仕方ないなと思った五郎は懐から小さな包みを取り出す。
こんな事もあろうかと宿で握飯を作ってくれないかと頼んでおいたのだ。
「ほら、これを食べていいよ」
「いいの?」
「どうぞ」
「いただきま~す!」
美味しそうに頬張る元康が、握飯を喉に詰まらせないよう水を準備しておく。
五郎はのんびり元康を守っていると、このままスムーズに清洲に戻れればいいなぁと思う。
ただ、賑やかになった面子を見渡す限り、信長の待つ清洲城まで退屈せずにすみそうだ。
「美味しかった?」
「うん!」
「それじゃ、次の町まで頑張ろう」
「おー!」
軽く食事を済ませて元気になった元康と、その後に続いた三人。
岡崎を出発した四人は和気藹々と次の町へと向かうのであった。




