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第六十三章~再会~

「千代助君」


五郎が声を掛けるとビクッとした元康は、視線を此方に向けると目を見開いた。


「お兄ちゃん!」


声の主が五郎だと分かると、元康は勢いよく五郎の腹部に突撃してくる。

油断しきっていた五郎は、鳩尾に衝撃を受けると呻き声を上げた。


「げぼぉ……」

「えへへ」

「……ひ、久しぶり」


嬉しそうにぐりぐりと頭を押し付けてくる様はペットみたいで愛くるしいが、元康が頭で抉っているのは五郎の鳩尾である。

これ以上抉られるのを阻止したい五郎は元康の頭をぽんぽんと撫でる。


「……(にへら~)」

「あはは、元気そうだね」

「うん!」

「取り合えず、座って団子でも食べよう?」

「……(こくこく!)」


五郎の言葉に一生懸命を首を縦に振ると、元康は自分が座っていた席に案内する。

相変わらず小動物的な可愛さに癒されていると、茶屋の主人が注文の団子を持ってくる。


「兄ちゃん、お待たせしたね~」

「ありがとうございます!くぅ~、来て良かった!」

「ははは、喜んでくれて何よりだね」

「じっくり堪能させて貰います!」

「どうぞごゆっくり」


五郎は目の前に置かれた団子を見て垂れてきた涎を拭うと、前回と同じように元康の分も取り分ける。

じっとその様子を見つめる姿を見て苦笑すると、一つ咳をしてから口を開いた。


「千代助君、どうぞ」

「ありがとう!」


元康はふにゃっと顔を緩めると、嬉しそうに団子を食べ始める。

その様子を眺めながら五郎もゆっくりと堪能する事にした。

それから黙々と食べる事数十分、綺麗に団子を平らげた二人は満足そうにお茶を飲んでいた。

お腹も満たされて落ち着いた五郎は元康に聞きたい事があったので尋ねてみた。


「千代助君」

「? 何、お兄ちゃん?」

「え~っと、もしかしてだけど『また』抜け出したの?」

「……ち、違うよ」

「実はここに来る前にお城を訪ねたんだよね」

「え!?」

「康政殿が忙しいから帰れって言われたんだけど……」

「あ、あうぅ……」

「正直に言ってくれたら、嬉しいなぁ」


五郎が出来る限り優しく問いかけると、逡巡した元康は顔を俯けてぼそっと答えを返してくれる。


「お兄ちゃんが清洲を出発したって聞いたから、早く会いたくて」

「あ、あはは……嬉しいけど、あんまり康政殿に迷惑かけちゃ駄目だよ?」

「…………うん」

「という事は、康政殿は千代助君を探して手が離せなかったのかな」

「う、うん」


怒られた子供のような表情を浮かべる元康に困った五郎は頭をわしゃわしゃと撫で回す。


「あぅ~」

「ほれほれ~」

「うにゅ~~~~」


目を細めてされるがままになる元康を可愛がっていると、珍しく客が入ってきた様だ。

珍しいなと思った五郎は、話し声に視線を向けると口に含んでいたお茶を盛大に吹き出す。


「ぶほっ!!」

「!?」


いきなり吹き出した五郎に元康が驚いてびくっと身体を震わせていると、相手も此方に気づいたのか驚いた表情を浮かべている。

五郎は口を袖で拭うと声を掛けた。


「藤吉郎……どうしてここに?」

「五郎さんこそ」

「いや、実は昔来た時に教えてもらった美味しい団子があってね」

「なるほど、実は俺もその話を聞いて来たんです」

「藤吉郎も甘いものが好きなの?」

「いや、五郎さんが団子が好きだと聞いてたのでちょっと見に」

「あ~……」

「必要なかったみたいですが」

「あはは、ありがとう」


肩を竦める藤吉郎に礼を言うと、五郎は隣に座れるようにスペースを空ける。

藤吉郎は頭を下げて席に座ると、びくびくと自分を見ている子供に気がついた。


「五郎さん、そのチビはなんですか?」

「ぶっ!」

「うわ!ちょ、ちょっと……いきなり茶を吹き出さないで下さいよ~」


藤吉郎が臆面も無く元康を『チビ』と呼んだので再度吹き出してしまった。

五郎はこの子が『松平元康様だよ』と教えるべきか迷ったが、この町で知り合った友人だという事にしておこう。

一応、茶屋の主人や町民の様子を見る限り元康は身分を隠しているようだし、ここで教えるわけにもいかないだろう。


「あ~、この子は千代助君って名前なんだ」

「へぇ」

「前に岡崎に来た時に出会ってさ、色々と案内してくれたんだ」

「そうだったんですか、宜しくなチビ助」

「…………む~~」

「な、仲良くしてあげてね」

「任せてくださいよ~、子供の相手は慣れてますから!」


藤吉郎がわっはっはと笑う、元康はチビと呼ばれて膨れっ面になって藤吉郎を睨んでいる。

(ああああ……教えたいけど、教えれない!それ以上余計な事は言わないで……!)

五郎は心の中で叫ぶと、どうしたものかと頭を抱える。


「どうしたんです?」

「い、いや……そうだ!」

「?」

「藤吉郎、良さそうな宿は見つかった?」

「あ~、一応目ぼしい宿は見つけてありますぜ」

「そっか、ならゆっくりして大丈夫かな」

「俺も折角来たんで、暫くのんびりしましょうぜ~」

「うんうん」

「お兄ちゃん、この人……誰?」


藤吉郎と話していると、五郎に構って貰えず寂しそうな元康が話に割り込んでくる。

すっかり紹介するのを忘れていた五郎はこほんと一つ咳をすると、団子を心待ちにしている藤吉郎を肘で突くと、自己紹介するように促す。

五郎の合図に気づいた藤吉郎は相手が子供だと思っているためか、大仰な仕草で名乗りをあげる。


「俺は木下藤吉郎!いずれは天下を取る男だ!」


五郎は目を点にしたまま口をポカンと開けている、元康も似たように藤吉郎を見ていた。

二人の様子に気がついた藤吉郎は首を傾げながら口を開いた。


「おかしいな、子供は大喜びするんだけど」

「子供の前でやってるの!?」

「当たり前じゃないですか」


それが何か?と言いそうな顔で視線を寄越す藤吉郎に苦笑いを返すと、五郎は元康に声を掛ける。


「千代助君、悪い人じゃないから……ね?」

「……うん」

「んじゃ挨拶出来るよね?」

「する」


五郎に促されて元康は渋々藤吉郎に口を開いた。


「……千代助」


ぼそっと名前を告げた元康に藤吉郎は呆れた表情を浮かべると、頭を思いっきりわしゃわしゃと掻き混ぜる。


「子供は元気じゃなくちゃ駄目だぜ!ほれほれ!」

「うにゃ!やめろ~!」

「大人しそうな割に抵抗するとは、生意気な子供だぜ~、チビ助め!ほれほれほれ!」

「チビって言うな~!猿みたいな顔してる癖に!」

「何だと!何て事を言いやがる!」

「んべ~~~!」

「あ、待て!このチビ助!」


二人は店内で追いかけっこを始める、その騒がしさに主人が顔を出すと……。


「こら!店の中で暴れるなら外でやりな!」


一喝されて二人はピタっと止まる、それから主人は藤吉郎の注文した団子を置く

とまた奥に消えて行った。

二人は距離を保ったまま見合っていたが、藤吉郎が溜息を吐いて席に戻ると、元康は五郎に近寄ってぴったりとくっついた。

藤吉郎が団子を頬張り始めると、小さな声で元康が声を掛けてきた。


「お兄ちゃん、僕……あの猿みたいなおじちゃん嫌い」

「あ、あはは」

「お兄ちゃんの知り合いなの?」

「友人だよ、だから仲良くして欲しいな」

「……む~」


頬を膨らませる元康を見た五郎は『無理かも……』と思った。

元康の正体を知ったら藤吉郎がどんな反応をするやら……。


「そうだ!」


ポン!と手を叩いた五郎に二人の視線が集まる。

五郎は元康に聞こえるように少し大きめの声で藤吉郎に話しかける。


「藤吉郎、今晩の宿はどんな名前なの?」

「? どうしたんです、いきなり」

「ほら、千代助君にも教えておきたいなって」

「チビ助にですか?」

「うん、また一緒に町を見ようって約束してたからね」

「はぁ、え~っと」


元康が五郎たちの泊まる宿を知っていれば、康政達が使いを寄越すかもしれないと考えたのである。

適当な出任せを混ぜながら藤吉郎から宿の名前を聞き出す。

元康はその事を察したのか一生懸命二人の話を聞いている。


「――って宿です」

「分かった?千代助君」

「うん」

「邪魔しにくるんじゃねぇぞ~」

「しないもん!べ~!」


また鬼ごっこに発展しそうな雰囲気を察し、五郎は慌てて止めに入る。

あんまり暴れると折角の美味しい団子を食いにこれなくなってしまう。

取り合えず元康の様子を見る限り、五郎の意図は伝わったようだ。

後は康政からのコンタクトを待つ事にして、今日はこのままゆっくり過ごす事にしよう。

五郎はじゃれ合う二人を眺めながらお茶を啜ってホッと息を吐くのであった。

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