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第四十八章~癒されて岡崎、交流・中~

「お兄ちゃん、岡崎は初めてなの?」

「うん、だからのんびり散策しようと思ってたんだ」

「そうなんだ」

「だから千代助君に出会えて良かったよ、こうやって案内して貰えるし」

「えへへ」


嬉しそうに笑う千代助に五郎からも笑みがこぼれる。

存分に団子を堪能した二人はお店が立ち並ぶ区域をのんびり歩いていた。

活気のある声がそこかしこから聞こえてくると、ついついあちこち店を覗きたくなる。

清洲の城下町でもお店巡りで時間をよく潰していたが、何処の町でも活気があるお店を巡るだけで時間を忘れてしまいそうになる。


「この辺は凄く活気があるね」

「うん、最近流れてくる人が増えて活気が出てきてるんだって!」

「ほほーう、んじゃ色んな物が流れてきてたりしないかな?」

「ん~、よくわかんないや!」

「そっか~、それじゃどんなものがあるか見て回ろうか?」

「うん!」


五郎の目の前をぴょんぴょん飛び跳ねながら先導する千代助を見守りながらゆったりと歩く。

五郎もいい歳である、こんな子供なら欲しいなと思ってちょっと虚しくなる。


「いかんいかん、まだ俺も若い、若いんだ」


思わず年を取ったなぁと感慨深くなる所であった、まだ老け込むには早いと頭を振って千代助を見ようと……。


「おう……居ない……」


ちょっと見ない間に千代助の姿が消えてしまったではないか、一瞬目を離しただけなのに、一体何処に行ったというのか。

右へ左へと視線を向けるが、それらしき子供の姿はない。


「ちょっと油断したか」


仕方が無いので千代助を探そうと歩き出そうとした時、肩を叩かれる。


「へ?」

「よ、兄さん」


そこに居たのは昨日の優男だった。


「偶然だね、今日も観光かい?」

「え、えぇ……」


警戒気味に距離を取ると、優男は苦笑しながら無害をアピールする。


「そう警戒しなくても……昨日は悪かったね」

「は、はぁ」

「そうだ、名乗りもせず失礼だったね。私は榊原康政と申します、宜しく」

「あ、はい!……染井五郎と申します」


礼儀正しく名乗りを上げた優男、康政に慌てて自分も名乗る。

康政は堅苦しい挨拶は終わったと言わんばかりに苦笑すると、五郎に握手を求める。

握手に応じた五郎は見た目から想像できない力強い握手に思わず康政を見上げる。


「ん?どうしたのかな?」

「いえ、何か武芸の心得がある方なのかなと……」

「ははは!いや、失礼。面白いことを言うからつい笑ってしまった」

「??」

「一応この岡崎の殿様に仕えてるんだ、それなりに名は知られていると思っていたんだけどね」

「え”っ!し、失礼しました」

「しー!静かに!気にしてないから、落ち着いて」

「は、はい」


五郎が上げた叫び声が一瞬注目を浴びたが、特に何も無いことが分かると人々はまた流れていく。

康政はホッと息を吐くと、五郎を近くにある飯屋に誘う。

千代助の事が気がかりになる五郎だったが、流石に名のある武士の誘いを断る勇気は無い。


「お腹は減ってない?」

「そうですね、特に減ってません」

「そっか、なら酒は?」

「……ちょっとだけなら」

「じゃ、酒でも飲みながらちょっと話でもしようよ」

「はぁ……」


何故自分のような流れ者に話しかけて来たのか疑問だが、折角の申し出を断るのも悪いので大人しく話しに付き合う事にした。

見たところ怖そうな人ではないし、物腰も柔らかである。

小心者の五郎にとって特に苦痛なタイプじゃないので話すだけなら問題は無い。


「兄さん、岡崎には最近来たのかい?」

「はい、のんびり一人旅をしていて三日ほど前に岡崎に」

「なるほどね、腰に立派な得物持っていたから、昨日はてっきり仕官しにきたのかと思ったんだよ」

「い、いやぁ……あんまり武器の扱いに慣れていないんですが、とある恩人から譲り受けた刀なので大事に持ち歩いているんですよ」

「そっか、だからあんまり荒事に慣れてなさそうなんだ」

「そうなんですよ、それなのによく騒動に巻き込まれる性質でして」


予想外に聞き上手な康政につい話が弾む、気づけば五郎は自分の身の上話を聞いてもらっていた、勿論正体は隠したままだが。


「ははは、結構苦労してるんだね」

「ははは……そうなんですよ」

「多分、騒動を引き寄せる何かを持っているんだろうね、昨日もうちの若い衆に絡まれてたしね」

「嬉しくないですね……」


苦笑しながら答えると、康政はにやっと笑って肩を叩いてくる。


「それにしても、榊原様は何故俺に声を……?」

「あぁ、駄目駄目。康政でいいよ、堅苦しいのは仕事だけで十分」

「え、しかし……」

「いいから、こっちも五郎と呼び捨てさせて貰うから、いいよね?」

「俺は構いませんが……」

「んじゃ、そういう事で。……で、何故声をかけたか、だったね」

「はい」

「それはね、あんたが怪しいから探る為だよ」


突然康政から放たれる殺気に身体が硬直する、声を上げる事も出来ず、康政から視線を逸らす事も出来ずに脂汗が流れる。

暫く息を止めて身動きできずに居ると、康政が表情を崩して苦笑する。


「ごめんごめん、そんなに怯えなくていいよ、実は五郎の事はある人から聞いてるんだ」

「え?え?」

「昨日は確証もなかったし、色々とやる事があったから引き上げたけど。織田の殿様から書状を届けに来た……だよね?」


声を潜めて尋ねてきた康政の質問に五郎はドキっとする、敵対している織田の家臣だとばれたら捕まるかもしれない。五郎はどうしようと焦る。


「焦らなくて良いよ、隠し事できない人でしょ?……顔にハッキリ出てるよ」

「う……」

「安心しなよ、ちゃんと織田の殿様からの使いだって聞いてるから。捕まえたりしないよ」

「……ほ、本当ですか?」

「そうじゃなかったら、わざわざこうやって話しかけないさ」


康政の言葉に少し安心すると、詳しく話を聞くべく姿勢を正す。


「え~っと……五郎って呼んでいいかな?目立たないようにしないとね」

「は、はい」

「五郎が使いとして来る事はまだ一部の家臣しかまだ知らない、まぁすんなり話が纏まるとは限らないからね」

「それもそうですよね……」

「で、私が元康様への連絡、繋ぎ役を受けているって事さ」

「それじゃ、信長様からの連絡も……?」

「今朝、報告を受けたよ。内密にね」


だから気を抜いて聞いて欲しいなと康政は苦笑して、酒の御代わりを注文する。


「それで、五郎に頼みがあるんだ」

「頼み?」


康政が困ったような顔で五郎に話す。


「実はうちの殿様、元康様が最近ご機嫌斜めでさ、よく城から抜け出すんだよね」

「は、はぁ……」

「夜にはお戻りになるんだけど、日中のお役目を放り出して抜け出すから困っているんだ」

「それは……大変ですね」

「正直今回の織田からの話し合いの申し出はありがたいんだ、このまま織田とやりあっても得はないし」

「尾張を狙うつもりは無いんですか?」

「今やりあってもね、それよりも三河の地を取り戻してから駿河の今川をお押さえ込みたいのが一番だね」

「なるほど、つまり織田との諍いが落ち着けば背中を気にしなくていいと?」

「そう、それに織田の動きを見る限り伊勢、美濃に警戒してるみたいじゃない」

「そうなんですよねぇ」

「つまり織田、松平、両軍にとっていい話だと私は思うんだよ」


康政の話に五郎は頷く、康政は一つ咳をすると続ける。


「で、話は戻るけど。問題は元康様が頻繁に抜け出すから謁見どころじゃないんだ」

「つまり、俺に頼みたい事って」

「元康様を見つけたら捕まえて欲しいんだよね」

「でも、俺が捕まえたら色々問題があるんじゃ……」

「そこは手を回しておくから、安心していいよ。元康様の捜索は私が指揮しているから何かあったら報告がくるし」

「はぁ……」

「ははは、のんびり観光がてらでいいからさ、見つけたら教えてくれるだけでもいいよ」

「それだけでいいなら……お受けしますけど」

「助かるよ、顔を見たらすぐ逃げられるから、見知らぬ顔の五郎なら捕まえる事も出来ると思うんだよね」


康政は五郎に感謝しながら元康について話してくれる。

結局五郎が解放されたのは1時間ほど経った後であった。

思わぬ出会いに吃驚したが、力ずくで身柄を押さえられる事がなくて良かったと思う。


「あっ!そうだ、千代助は何処に……」


康政の相手ですっかり忘れていたが、自分は千代助と町を散策していたんだった。

五郎はどうしたものかと辺りを見回すがそれらしき姿は見えない、もしかして五郎がいつまで経っても見つからないから今日は帰ってしまったのだろうか。


「参ったなぁ、せめて何処かはぐれた時の待ち合わせ場所を決めておくべきだったか」


頭を掻きながら町を歩く、立ち並ぶ店を覗きながら探すが千代助らしき姿は無い。

この先は特にお店もない区域と聞いていたので、折り返す。

結局往復して探したものの見つからずに肩を落とすと、仕方ないので例の茶屋に向かってみる事にした。


「もしかしたら茶屋に一度戻ってるかもしれない」


茶屋の主人が何か聞いている事を期待して向かう五郎。

数十分後、茶屋で頬を膨らませた千代助が座っているのを見つけた五郎は千代助の機嫌を取るために多大な労力と時間を使うことになる。

そして千代助の機嫌が戻る頃にはすっかり日が沈み出し、翌日に続きを持ち越すことにして解散する事になったのである。

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