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第四十七章~癒されて岡崎、交流・上~

「ふんふふ~ん♪」


五郎はご機嫌だった、気持ち悪く頬を緩めている姿はちょっと殴りたくなる程だ。

先日の出会いで美味しい茶屋を見つける事が出来た五郎は、千代助に感謝しながら二人で団子を堪能した後、のんびりしながら話しに花が咲いたのであった。

今日も一緒に町を散策する事を約束した後、千代助は何処かに去って行ったのである。


「お土産も欲しいし、色々案内してくれる千代助君には何かお礼を考えておこう」


何より五郎に懐いてくれたのか、千代助が見せる笑顔にすっかり魅了されてしまった。

小動物のような仕草にあの笑顔を見せられたら、大抵の人は保護欲にかられるはずだ。


「でも、どうしようかなぁ……昨日みたいな怖い人が居ないといいけど」


何で殿様を探していたのかわからないが、元々目立たないように念を押されているのだ、昨日はすぐ開放されたが……気をつけないと厄介な人に絡まれる可能性もある。


「騒動に巻き込まれたりしたら危ないし、絡まれて喧嘩を吹っかけられたら……一方的にやられそうだ」


何処に行くかは千代助と一緒に考えるとして、昨日の区域にはなるべく寄らないようにしよう。

折角ゆっくり出来る猶予があるのだ、嫌なトラブルには巻き込まれないようにしないと気ままな一人旅が台無しである。

それに書状の存在もある、もし奪われたり失くしたりしたら……。


「殺されるどころじゃないよな……」


一応護衛の忍びをつけると後で聞いたが、目に見えない以上あってないようなものだと思うしかない、忍びが忍んでなかったら問題かもしれないから当然だろうが。

(もしかしたらこうしてる間にも見張られ……じゃなかった、見守ってくれてるかもしれないし)

何かあったら助けてくれると思っておく事にして、目立たないように過ごそうと気合を入れなおす。


「まぁ、千代助君が懐いてくれたお陰で、岡崎に居る間は退屈しなくて済みそうだ。茶屋の主人もいい人だったし」


後は調子に乗って資金を使わない事だけを気をつけなければ、また帰ってから肩身の狭い思いをする事になる。

丹羽家の家計は揚羽がしっかりやりくりしているのだ、もし五郎が家計を任せられてもさっぱりなので当然なのだが。

その為、五郎のお小遣いは少ない、世知辛い世の中である。

救いがあるとすれば、五郎が煙草や酒等の趣向品を好んでいない事だろう、その分甘い物に目が無いが、数日に一回程度茶屋で団子が食えれば満足する程度なので出費は高くない。


「さて、千代助君と茶屋で会う事にしてたっけ」


今日もいい天気だ、きっとのんびり散策するには気持ちよいだろう。

軽く朝食代わりに団子を食って、その後は千代助に相談しながら案内してもらう事にしよう。

身支度をささっと整えると、五郎は宿を出発したのであった。




「あんちゃん、今日も来たのか?」


茶屋の主人は五郎を見て驚いた顔をすると、すぐに笑顔を浮かべて歓迎してくれる。

流れ者風な五郎がまた来ると思っていなかったのだろう、主人は五郎に近寄ると珍しそうに全身を眺める。


「あ、あの~……何か?」

「おっと、失礼。てっきり一見さんだと思ってたんでさぁ、ついまじまじと見ちまって申し訳ねぇ」

「あぁ……なるほど」

「暫くこの町に留まるおつもりで?」

「えぇ、数日だけのんびりしようかと……その間、寄らせて頂きます」


五郎の言葉に『なるほどねぇ』と呟いた主人は、五郎にお茶を差し出しながら話を続ける。


「この茶屋の主人としては大歓迎ですが、この辺も戦の匂いを嗅ぎ付けた荒くれ者が多くなってるんで、気をつけてくだせぇ」

「それって、昨日の怖そうな人達が関係してるんですか?」

「あぁ、あれは……殿様がお城から抜け出したんでしょうぜ」

「殿様って、松平元康様ですっけ?」

「えぇ、元々ここ岡崎は元康様のお父上が治めておりましたので、そのお父上が亡くなってからは今川の城代が居ましたが、先の戦で駿河に逃げ帰っちまいまして」

「なるほど、織田との戦の影響で今川が駿河に逃げていった……と」

「そのお陰で元康様がこの岡崎にお戻りになったと思えば、喜ばしい事ですが」

「ふむふむ」

「まぁ元康様はまだお若い身の上、度々城から抜け出してはこの城下町で家臣の方々から逃げ回っていると聞いてますぜ」

「あぁ、それが昨日の……」


うーん、城から抜け出して遊びまわる。似たような殿様が何処かに居たな。

(まるでうちの殿様みたいな事をするんだな、流石あの人が弟分として可愛がったと言うだけの人物か……)

きっと家臣の方々は苦労してるんだろうなと感慨深げに唸っていると、遠くから声が聞こえてくる。

五郎が声の方角へ顔を向けると、此方に駆け寄ってくる千代助の姿があった。


「おや、今日も来るなんて珍しい」

「え、そうなんですか?」

「えぇ、大抵数日に一回来て、暫くぼーっとお茶を飲んでいるんですがね」

「そうだったんですか」


主人と話を続けていると、傍まで近づいてきた千代助は五郎の隣にちょこんと座る。


「ご主人、お茶とお団子をお任せで見繕って貰っていいですか?」

「あいよ」

「おはよう、千代助君」

「五郎お兄ちゃん、おはよう!」


元気よく挨拶をしてくる千代助を眩しそうに見る五郎、この元気さが羨ましい。

結構な距離を走ってきたのに、息も乱さずにこにこと此方を見上げる姿は子供のパワフルさを感じさせられる。


「若いって、いいな……」

「?」

「何でもないよ」


丁度いい高さにある頭をゆっくり撫でると、千代助はくすぐったそうに身をよじる。

しかし、その表情は満更でもなさそうに緩んでいる。

その姿を見るだけで癒されてしまう、このままずっと撫で回していたくなるような可愛げがある。

(なんだろう、この可愛い小動物を愛でる様な感覚は……)

不思議な魅力を持つ千代助に骨抜きにされていると、茶屋の主人が注文していた団子を持ってくる。


「へい、お待ち~」

「お、待ってました」


団子の到着によって千代助を愛でていた手を離すと、五郎は団子を数本ずつ取り分けると千代助に渡す。


「お兄ちゃん、これ……」

「今日は案内して貰ったりするからね、先払いになるけどいいかな?」

「あ、ありがとう!」

「うんうん、沢山食べて大きくなるんだぞ」

「あぅ……」


はっはっはと頭を撫でると、五郎は団子に噛り付く。

隣の千代助も五郎に続いて団子と格闘し始める、その姿はハムスターの様だ。

(これはやばいな、持ち帰りたくなる可愛さがある……)

今まで会った子供達は五郎を玩具にするような逞しい子供達だっただけに、千代助のような大人しく、色々構ってあげたくなるような子は初めてだったので新鮮だった。


「皆、俺を見つけたら飛び掛ってくるんだもんな……」


それだけ親しまれていると思いたいが、油断すると次から次へと五郎にくっ付いて来るのだ。

清洲の城下町では『尾張一の子供たらし』と町民から弄られる始末である。


「お兄ちゃん、食べないの?」


心配そうに此方を見上げる千代助にハッとすると、何でもないよと次の団子に手を伸ばす。

千代助はもう食べてしまったのか、お茶を啜りながら幸せそうな顔をしている。

その姿に癒されつつ、まだまだ余っている団子を千代助の空き皿に載せる。


「……いいの?」

「流石にお兄ちゃん一人じゃ無理だから、沢山食べてくれると嬉しいな」

「わーい!」

「うんうん」


千代助の喜ぶ姿でお腹が一杯になってきていた五郎は、もぐもぐと頬張る姿を見ながらのんびり団子を齧る。

この後は歩き回る事になるだろうし、ゆっくりするには丁度いいだろう。

五郎は茶屋の主人と、千代助と穏やかに談笑しながら美味しい団子に舌鼓を打つのであった。

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